N-WGNが売れ続ける理由とホンダが抱える課題

■N-BOXとの住み分けに成功したN-WGN ホンダの軽比率は55%に

 それでも今後、N-WGNの販売台数がN-BOXを抜くことはない。ホンダカーズでは「N-BOXは今では軽自動車の定番になり、ほかの車種を比較検討しないで購入するお客様が多い」という。

 スズキの販売店からは「ワゴンRと競争するホンダ車は、機能的にはN-WGNだが、お客様が比べる相手はN-BOXだ。SUV風のハスラーまで、N-BOXと比較される」という声が聞かれる。今ではN-BOXが軽自動車の絶対王者になり、広い荷室やスライドドアを必要としないユーザーも選ぶようになった。

 このほか価格設定もあるだろう。「N-WGN L・ホンダセンシング」は136万4000円、「N-BOX G・L ホンダセンシング」は154万3300円だ。N-BOXは約18万円高いが、左側のスライドドアに電動開閉機能を装着するなど装備も充実する。そうなると「18万円の差額なら、車内が広く、装備も充実するN-BOXが魅力的」という見方も成り立つ。

 この判断には、残価設定ローンも影響を与えている。N-WGN・L ホンダセンシングで60回(5年間)/均等払いの残価設定ローンを組むと、月々の返済額は2万4800円だ。N-BOX G・L ホンダセンシングは、同じ条件で月々の返済額が2万8000円になる。「月々3200円の上乗せで済むなら、N-WGNではなくN-BOXが欲しい」と考えるユーザーは多い。

 ホンダカーズでは「今は新車を買うお客様の約半数が残クレ(残価設定ローン)を使う」とコメントしている。残価設定ローンは、車種やグレードの上級化を促すのに都合がよく、メーカーは低金利なども設定して利用者を増やしている。軽自動車では高額なN-BOXが好調に売れる背景には、残価設定ローンの普及もあるわけだ。

 そのいっぽうでN-WGNでは、価格が最も安い「G・ホンダセンシング」が129万8000円だ。130万円を下まわる価格なら法人も購入しやすい。このようにN-WGNとN-BOXは、互いに競争する関係にありながら、異なるニーズにも応えてホンダの軽自動車販売を拡大させている。

 この影響で、ホンダ車の軽自動車比率は以前に比べて増加した。2020年2月には、国内でホンダが販売した新車の55%が軽自動車だ。3月は少し減ったが49%に達する。

 ちなみに2009年(暦年)におけるホンダ車の国内販売状況を見ると、総台数が62万5443台で、軽自動車は16万2149台(総台数に占める比率は26%)、小型/普通車は46万3294台(74%)であった。

 2019年は総台数が72万2003台だから、10年前に比べて10万台近く増えた。特に軽自動車は36万4832台(51%)だから、10年前の2.2倍だ。その代わり小型/普通車は35万7171台(49%)だから、10年前に比べて10万台以上も減った。比率に換算すれば23%の減少になる。

■ホンダは軽自動車にばかり頼る戦略を転換すべき時期にきている

 過去の経緯を振り返ると、2011年末に先代N-BOXが発売されてヒット作になり、先代N-WGN、N-ONEも加えてホンダの軽自動車ラインナップは大幅に強化された。2017年にはN-BOXがフルモデルチェンジを受けて現行型になり、売れ行きを一層伸ばした。その結果、ホンダ車の販売総数は10年前に比べて約10万台増加したが(比率に換算すると15%のプラス)、増えたのは軽自動車で、小型/普通車は10万台以上減ってしまった(23%のマイナス)。

 今のように軽自動車が好調に売れると、販売力もそこに集中するから、どうしても小型/普通車の販売促進には力が入りにくい。メーカーも費用対効果を考えると、小型/普通車に積極的になれない。そうなると小型/普通車はさらに落ち込み、ますます軽自動車が中心になっていく。

 ユーザーのホンダに対するブランドイメージも変わった。中高年齢層には今でもスポーティカーの記憶が残るが、今年25歳になる1995年生まれの若年層はどうだろう。生まれた翌年に初代ステップワゴンが発売され、6歳になった2001年に初代フィットが登場した。16歳の2011年に初代N-BOXというパターンだから、ホンダはコンパクトで合理的なクルマを造るメーカーだ。ブランドイメージが変わり、ホンダの高価格車は、今後ますます売りにくくなる。

新型フィットは絶好調だが、N-BOXやN-WGNといった軽自動車頼みとなっているホンダの販売。近年はホンダでは高価格車がすっかり影が薄くなってしまった

 海外市場とのバランスもある。ホンダの国内販売は、前述のように拡大傾向にあり、今の国内メーカー別販売ランキング順位はトヨタに次ぐ2位となった。それでも2019年におけるホンダの世界生産台数に占める国内販売比率は14%だから、国内市場の優先順位は高くない。

 ホンダのブランドイメージの変化も含めて、今の状態が続くと「国内市場は軽自動車とフィットなどのコンパクトカーに任せておけばよい」という判断になりかねない。

 軽自動車比率が37%前後に達した国内市場全体にも当てはまる話だが、健全な商品開発をするには、ホンダは軽自動車の国内販売比率を10年前と同様の25%前後に引き下げる必要がある。魅力的な小型/普通車を投入して、販売バランスを最適化すべきだ。

 仮に軽自動車比率が今後も増え続けると、軽自動車のさらなる増税も招く。公共交通機関が未発達な地域では、高齢者が毎日の移動に軽自動車を使っているので、福祉にも反する。自動車税金大国の日本では、軽自動車には福祉車両の側面もあるから、好調に売れるカテゴリーなのにデリケートに扱う必要もあるわけだ。ホンダに限らず、軽自動車を守るために、小型/普通車に力を入れて欲しい。

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