スカイラインの育ての親である櫻井眞一郎さんが1986年9月に設立したのが「オーテックジャパン」だ。
主力となる事業は、日産では開発しにくい特装車や特殊車両を少量生産することだ。究極の走りを目指したコンプリートカーの開発と販売には意欲を見せている。
また、ショーカーや次世代のメカニズムを採用した実験車を開発し、製作も行う。これらのほか、レーシングカーとレーシングエンジンの設計、そしてサポートも行っている。
オーテックジャパンが手掛けたモデルは、どれもが強い個性を持っている。本企画では、オーテックジャパンの印象に残るクルマに目を向け、そのなかから話題を集めた5台を選んでみた。
文:片岡英明/写真:NISSAN、AUTECH JAPAN、片岡英明
【画像ギャラリー】どれもが個性的!! オーテックジャパンが手掛けた20世紀の遺産
ステルビオ
デビュー:1989年(1990年生産開始)

今の人たちはステルビオというとアルファロメオのステルヴィオだと思うだろう。だが、オーテックジャパンは1989年のジュネーブショーにステルビオを参考出品し、1990年代の初頭に販売を開始した。
メカニズムは2代目のF31系レパードの後期モデルのものを用い、その上にイタリアのカロッツェリア・ザカート(現SZデザイン)が手がけた独創的なデザインのクーペボディを被せている。
最大の特徴は、リーダーの櫻井眞一郎さんがフェンダーミラーにこだわったために、フェンダーと一体になったミラーを採用したことだ。
その結果、他に類を見ない個性的な顔立ちとなり、フロントのボリュームが増した。ふたつのこぶのように見えるダブルバブルのルーフもザカートらしいところである。
ゴージャスなインテリアも見所のひとつだ。高品質の本革とベロアを多用し、ダッシュボードにはウォールナットを張り込んでいる。
エンジンは3LのVG30DET型V型6気筒DOHCを、オーテックジャパンがチューニングしたものだ。280ps/41.0kgmを発生し、トランスミッションは電子制御4速ATだけの設定とした。
ストラットにセミトレーリングアームのサスペンションも独自にチューニングし、ハンドリングと乗り心地を高いレベルに引き上げた。
オーテックジャパンのフラッグシップで、販売価格も1500万円を軽〜く超える1870万円。限定200台ということで注目を集めた。
が、ザガートの生産能力が低く、作りも荒っぽかったため、バブル期に売れ行きを伸ばせないで終焉を迎えた。

R33GT-Rオーテックバージョン
デビュー:1998年

1993年8月に9代目のR33型スカイラインが登場した。そして1995年1月、平成の第2世代のGT-Rがベールを脱いだ。
改良を施した2.6L、直列6気筒のRB26DETT型DOHCツインセラミックターボを積み、スーパーHICASにはヨーレイトフィードバック制御を加えている。
このGT-Rは2ドアクーペだ。が、スカイライン生誕40周年を記念して1997年12月に限定発売された「GT-Rオーテックバージョン40thアニバーサリー」は4ドアのセダンボディをまとっていた。
初代のGT-Rを知っているファンのなかには使い勝手のいい4ドアのGT-Rを切望する人が多かったのである。その声に応えてオーテックジャパンが4ドアのGT-Rを製作し、限定発売した。
型式は2ドアGT-Rと同じ「BCNR33」で、乗車定員は4名だ。GT-Rの標準仕様に準じているが、フロントバンパーやフェンダー、リアドアなどは専用デザインとなっている。

自慢のメカニズムはまったく変わっていない。RB26DETT型直列6気筒DOHCツインターボは280ps/37.5kgmと、ディチューンすることなく搭載された。
トランスミッションはダブルコーンシンクロを採用した5速MTだ。4WDシステムはアテーサE-TSを受け継ぎ、メカニカルLSDを組み合わせている。
この4ドアGT-Rは498万5000円のプライスタグを付け、400台ほどが販売された。
オーナーに渡っただけでなく神奈川県警などではパトカーとして使っている。これこそ、まさに「羊の皮を被った狼」だ。

ステージアオーテックバージョン260RS
販売期間:1997年

GT-Rを名乗っていないが、GT-Rのメカニズムを移植した飛び切り高性能なステーションワゴンがある。それが1997年10月に鮮烈なデビューを飾った「ステージアオーテックバージョン260RS」だ。
ステージアは1996年秋に送り出されたラージクラスのワゴンで、エンジンはR33系のスカイラインと同じ直列6気筒エンジンを積んでいる。
フラッグシップはRB25DET型DOHCターボで、これにシンクロモード付きのアテーサE-TSを組み合わせた。この上をいく高性能スポーツワゴンとして開発され、送り込まれたのがオーテックバージョン260RSである。

260RSは限定車ではなくカタログモデルだ。だからGT-Rではなく260RSを名乗ったのだろう。
が、採用するメカニズムはR33型GT-Rと同じである。6連スロットルチャンバー採用のRB26DETT型直列6気筒DOHCツインターボ(280ps/37.5kgm)を搭載し、トランスミッションは5速MTだけの設定とした。
サスペンションは4輪ともマルチリンクで、電動スーパーHICASも装備する。電子制御トルクスプリット4WDのアテーサE-TSも受け継いだ。
エクステリアは精悍なデザインで、大開口のフロントバンパーや専用グリル、大型ルーフスポイラーなどを装着しているから遠目でも260RSとわかる。また、対向4ポット式のブレンボ製ベンチレーテッドディスクも標準装備だ。
2001年にモデルチェンジして2代目になったとき、オーテックバージョン260RSは消滅した。今の日産からは絶対に世に出ない、異色の硬派ワゴンである。

エルグランドロイヤルライン
デビュー:1998年

1997年5月、キャラバンとホーミーのコーチはモデルチェンジしてエルグランドを名乗った。このラージサイズの7人乗り/8人乗りミニバンは、ロングスライド機構を採用することによって快適なリアの居住空間を実現している。
が、さらに後席の快適性を高めようと、大胆なシートレイアウトに変えたのがオーテックジャパンの手になる「ロイヤルライン」だ。
これは運転席の後ろに快適なアームレスト付きの豪華なキャプテンシートを配して「もてなし」の空間を広げたVIP仕様である。最初の作品は1998年に登場し、乗車定員はぜいたくにも4名だった。
具体的には、2列目と3列目のシートを取り払い、そこにパーソナルジェットのように作りのいいセパレートシートを左右にふたつ並べている。
キャビンで移動中に寛げるようにしたリムジン仕様で、前席とVIP席の間にはショーファードリブンのようにパーテーションの仕切りを設けた。

その後ろのテーブルにはテレビやVTRシステム、冷蔵庫などがある。右側にはパソコンを置くテーブルもあり、移動オフィスとして活躍できるのだ。
このエルグランドのロイヤルラインは当時の日産の社長や役員も気に入っていたようで、プレジデントより快適という首脳陣も少なくなかった。
エンジンは3.2Lの直列4気筒ディーゼルターボもあるが、上質なパワーフィールに加え、静粛性も高い3.3L、V型6気筒ガソリンエンジン搭載車が好まれている。
ちなみに2002年春に登場した2代目のエルグランドにもロイヤルラインが設定された。
2代目は3500VIPがベースだから、エンジンは3.5L、V6のVQ35DE型だ。ファンから「走る執務室」と呼ばれたのが、極上の空間を売りにしたロイヤルラインである。
ブルーバードシルフィブロアム
デビュー:2005年

40~50代で働き盛りの団塊の世代に向けて送り出した使い勝手のいいミディアムセダンがブルーバードシルフィだった。
その2代目がモデルチェンジするのは2005年12月である。2代目も初代と同じように子離れしたポストファミリーがターゲットだ。ティアナで好評だったモダンリビングの心地よさも売りにひとつに加えている。
オーテックジャパンは「アクシス」を送り込むとともに法人向けに「ブロアム」も開発し、発売した。これはブルーバードシルフィの後席の快適性を高めたVIP仕様だ。

ブロアムは公官庁や法人向けに送り出されたラグジュアリーモデルで、シートやドアトリム、アームレストなどにフォーマルな雰囲気で手触りもいいベロア生地を採用している。
また、空気清浄機能を備えたインテリジェントエアコンを採用し、後席には読書灯や木目調リアカップホルダーリッドなどを装備した。
エンジンは1.5Lと2Lの直列4気筒DOHCで、2LエンジンにはエクストロニックCVTを組み合わせている。
時代が緊縮の方向に向いていたから、ダウンサイジングしても豪華にしてセドリックの後継にしようと目論んだ。狙いはよかったが、見栄っ張りの公官庁の人たちから敬遠され、法人需要も伸び悩んでいる。