「ホンダらしさ」の正体とは? いつの時代も人間が主役…になっているか!?

ホンダの『評価会』

 挑戦した仕事の可否を確認する場として、ホンダ技術研究所には評価会という手続きがある。そこで、開発過程を役員から問診されるのだ。指摘された点を改善できなければ、次へ進めない。

 背景にあるのは、かつて本田宗一郎が技術者たちの仕事に質問をぶつけ、技術内容が不十分であると、「翌朝までに案を考えてくるように」と、指示を出したことではないだろうか。

 本田宗一郎の凄さは、一人ひとりの技術者に課題を出し、翌朝の回答を求めるだけでなく、宗一郎自身も翌朝までに回答を用意してきたことである。

ホンダはフェラーリ、ポルシェなどのようなスポーツカーを作るためだけのメーカーではないが、ホンダ製スポーツカーへの期待は大きい
ホンダはフェラーリ、ポルシェなどのようなスポーツカーを作るためだけのメーカーではないが、ホンダ製スポーツカーへの期待は大きい

 とある元技術者は、「自分が一つの回答を得るのに一晩さんざん苦労してきたのに、オヤジさん(創業期の人々は宗一郎をそう呼んだ)は、課題を出した全員の回答を翌朝までに用意してくるのですから、その数は10や20ではない」と、感嘆した。

 宗一郎のそうした取り組みが、2代目の河島社長からはじめられた集団経営体制のなかで、評価会のかたちをつくっていったのだろう。

 挑戦に喜びを覚えながら開発に携わった技術者は、評価会での認証をもらうため必死に仕事に励んだはずだ。同時に、評価する役員にも高い技量や知見が求められる。技術者も役員も、相互に研鑽する体制が、評価会の存在といえそうだ。

本田宗一郎氏の夢であった航空機産業への参入も結実させたホンダ。世界で唯一陸海空のモビリティに関与していることは人間力抜きでは語れない
本田宗一郎氏の夢であった航空機産業への参入も結実させたホンダ。世界で唯一陸海空のモビリティに関与していることは人間力抜きでは語れない

ホンダが提唱する『3つの喜び』

 ホンダは、1990年代初頭に経営危機を迎えていた。いすゞビッグホーンや三菱パジェロなど、レクリエイショナルヴィークル(RV)を持たなかったため市場の要求にこたえられず、三菱自と合併するのではないかと噂されたほどであった。

 起死回生となるのは、1994年に誕生するミニバンのオデッセイである。アコードの技術を応用し、4ドアセダンやステーションワゴンの生産しかできない背の低い工場ラインで製造できる、最大のクルマであった。

1990年代前半に経営難から三菱に買収されるのではないかと噂になっていたホンダだったが、1994年デビューの初代オデッセイで起死回生
1990年代前半に経営難から三菱に買収されるのではないかと噂になっていたホンダだったが、1994年デビューの初代オデッセイで起死回生

 既存の設備を活用しながら、それまで国内になかった新しい価値を創造したのである。

 続いて商品化されたステップワゴン、S-MX、CR-Vなどを含めRVと呼ばず、クリエイティブムーバーと呼び、新たな価値を言葉でも提案した。

 オデッセイが売れはじめてから、「ミニバンメーカーになったのか」というような揶揄もされた。

オデッセイ、ステップワゴンのヒットによりミニバンメーカーと揶揄されたホンダだが、それはユーザーを喜ばせるひとつの手段だった
オデッセイ、ステップワゴンのヒットによりミニバンメーカーと揶揄されたホンダだが、それはユーザーを喜ばせるひとつの手段だった

 しかしホンダは、スポーツカーメーカーやモータースポーツのための企業ではなく、人間を中心とした商品をつくるメーカーであり、原点は、本田宗一郎が自転車にエンジンを取り付けて販売したバイクである。

 世のため人のために役立つことを目指したのであり、それを端的に表現したのが、「3つの喜び」の提唱だ。

「買って喜び、売って喜び、作って喜び」である。

 当初この言葉は、「作って喜び、売って喜び、買って喜び」の順であった。これを藤沢武夫が直した。

初めて『HONDA』の名を冠した製品は写真のホンダA型自転車補助エンジン(1947年)。本田宗一郎氏は、ダイキャストで作ることにこだわったという
初めて『HONDA』の名を冠した製品は写真のホンダA型自転車補助エンジン(1947年)。本田宗一郎氏は、ダイキャストで作ることにこだわったという

「これは大変な誤りであることに気が付いた。お客様の喜びを第一にしなければならないはずだ。その喜びがあってはじめて売る喜びがあるはずである。その二つの喜びの報酬として作る喜びになるのが順序である」

 このことに気付いたことが、ホンダをさらに価値ある企業としただろう。そのうえで、消費者、販売店、そして従業員すべてに喜びがなければならないことをホンダはいっている。

次ページは : 消費者が喜ぶことが自らの喜びにつながる

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