国内で7年ぶりに復活した新型パジェロの予約が、三菱自動車の想定を大きく超えている。先行予約だけで約5500台。注目すべきは数そのものより内訳だ。最上級グレードが約7割、他社からの乗り換え客が約8割――。この“異変”は一過性の人気ではなく、2026年5月の中長期ビジョンが掲げる「台数重視から価値訴求型へ」という転換と地続きにある。約800万円の旗艦車を売るために、三菱は販売店と販売戦略そのものを変えようとしている。
文:ベストカー編集局長T、画像:森山良雄、奥隅圭之、三菱自動車
【画像ギャラリー】新型パジェロ投入で三菱の販売戦略が変わる!! 都市型店舗と旗艦店構想の中身と考察(12枚)画像ギャラリー「台数重視」から「価値訴求型」へ──中長期ビジョンの転換
話の起点は、三菱自動車が2026年5月29日に発表した中長期経営計画「新中長期ビジョン」だ。三菱自動車は今後、商品展開(つまり新型車)を「ASEAN商品群」と「オフロード商品群」の二本柱に集中し、「中国ブランドなど競合とは別次元の特徴を磨く」と明言した。
販売戦略も「台数重視」から「価値訴求型」へ転換する「収益アップ戦略2.0」を掲げている。従来のように1台売って終わりではなく、中古車・金融・アフター・用品まで含めたバリューチェーンで収益を最大化する狙いだ。
重点国としてフィリピン・ベトナムに加え「日本」を明示した点も見逃せない。ASEANでの中国勢攻勢や米国関税という逆風のなか、国内市場の相対的重要性が上がっている。国内販売目標は2030年度に約18万台。2024年度実績(約11.8万〜12.3万台)の約1.5倍、現状シェア3%前後からの上積みを狙う強気の数字だ。

加藤隆雄会長は、新中長期ビジョン発表会見で、「三菱らしさを体現するとがった商品、技術を投入して成長する」、岸浦恵介社長も「三菱自ブランドを強化しないと厳しい競争環境で埋没する危機感がある」と語っている。今回発表された新型パジェロは、このビジョンを体現する象徴的な一手というわけだ。
予約の7割が最上級、8割が新規客という“異変”
新型パジェロは12月17日発売。タイ生産、2.4Lクリーンディーゼル(204ps/480Nm)+8速AT、Super Select 4WD-II、S-AWCを搭載する7人乗りで、価格は619万3000円〜795万800円(税込・4グレード)と国内最高価格帯に位置する。
10月1日〜28日ごろの先行予約は約5500台。当初掲げていた2026年度国内目標4000台(月販計画1000台×発売後4カ月)を大きく上回るペースだ。世界計画は2026年度1万台程度(日本・タイ・豪州中心)とされる。
受注の中身を見ると、約7割が最上級グレード「SUPER EXCEED」(約795万円)、約8割が三菱の新規ユーザーで、乗り換え元はデリカ・アウトランダー・旧パジェロが目立つという。40代以下が約半数という報道もある。ただしこれはあくまで予約段階の数字であり、販売・登録実績ではない点には留意したい。また主力グレードのEXCEED・GLSは2027年4月からの生産予定というスケジュールもあり、最上級比率の高さには納車タイミングの偏りが影響している可能性もある。単純に「高額でも売れるブランドへの完全転換」と結論づけるのは早計だろう。
関内店が示す「都市部の空白」を埋める一手
象徴的な動きがすでに始まっている。2026年6月13日、横浜・関内にオープンした東日本三菱の新店舗(東日本三菱自動車・関内店)だ。首都圏中心部としては24年ぶり、全体でも約2年ぶりの新規出店となる。整備工場を持たない「販売特化型」店舗で、展示台数は絞り込み、整備は近隣の既存店に送客する仕組みだ。
三菱は全国約530店の既存網とは別に、首都圏・愛知・大阪など都市部を中心に約30店舗の増設を構想しており、これが2030年度18万台目標達成の一翼を担うとされる。都市部での出店余地の乏しさ、つまり「空白地帯」の解消が狙いだ。
旗艦店・専門店・刷新・特化型の施策
ここで整理しておきたいのが、三菱の販売店改革が実は複数の施策の「束」だという点だ。中長期ビジョンには、パジェロ投入を機とするハイブランド旗艦店舗の新設、営業スタッフの商品教育強化とブランドマイスター等の資格制度新設、老朽店舗の刷新が正式に明記されている。新型パジェロのワールドプレミア会場で、三菱自動車はこの新たな旗艦店について、「まだ調整中の段階ではあるが」と前置きしつつ、「まずは都市部に1、2店設ける」「販売以上にブランド発信に重点を置く」と語っている。

一方、2026年7月の一部報道を紹介する形で伝えられているのが、2027年にもパジェロやデリカD:5を展示しカスタム部品も扱う「オフロード車に特化した専門店」を、2030年度までに30店舗展開するという構想。都市部の空白解消を狙う約30店舗増設(関内店タイプ)と、このオフロード専門店30店舗の関係――同じ数字なのか、内数なのか、別立てなのか――は現時点の公開情報だけでは判然としない。
常識的に考えれば、これはどちらも同じ販売戦略を指しており、つまり「パジェロシリーズのためのブランド旗艦店」と考えるのが自然だろう。新型パジェロは、今回発表されたフルサイズの(いわゆる)「親パジェロ」だけでは終わらない。
価格や店舗の見せ方だけでなく、提案の中身を変える動きもある。パジェロ向けの残価設定型クレジット(3〜7年契約、成約特典で実質年率3.7%)の案内や、用品・フロアマット・ETC2.0をまとめた予約限定パッケージなど、支払い方法や用品提案まで含めた接客力の底上げが進む。新規客が多いパジェロでは、月々の支払額だけでなく総支払額や返却条件まで丁寧に説明できるかが、顧客の定着を左右しそうだ。
三菱は11月上旬に2026年度第2四半期決算発表を予定しており、国内戦略や販売網について新たな説明がある可能性もある。12月には新型パジェロ国内納車開始も控えている。なんらかの情報が出てくる可能性は高い。約800万円のフラッグシップ登場で、三菱が握ろうとしているのは、新規客の裾野とブランドの立ち位置そのものだ。その成否を占う最初の試金石が、この冬から来年にかけての店舗改革の実装と加速、ということになる。
すでに「シリーズで復活」を明言している新型パジェロと三菱自動車。今後、コンパクトクラスや軽自動車クラスの「パジェロ」投入が予告されているわけで、だからこそ、この販売戦略をぜひ成功させて「パジェロ旋風」をさらに大きなものにしてほしい。応援しております。
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