アバルト124スパイダーが生産終了! なぜマツダと異例のコラボは実現したのか

 アバルト124スパイダーの生産が終了した。124スパイダーは、マツダ ロードスターと基本部分は同じであり、そのうえでフィアット社の特色を出したオープンスポーツカーだった。

 ただ、通常せいぜいデザインを多少差別化する程度にとどまる場合が多いのに対し、ロードスターと124スパイダーはエンジンまで異なる。日本のマツダとイタリアのフィアットがコラボレーションしたという意味でも珍しい事例だった。

 なぜ、マツダとフィアット/アバルトの異例ともいえるコラボは実現したのか?

文:御堀直嗣、写真:マツダ、FCA、小宮岩男、大音安弘

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マツダとアバルト 異例コラボの背景は?

フィアット850スパイダー(1965~1973年) ジョルジェット・ジウジアーロがデザインした

 フィアットは、1960年代に850スパイダーや、124スパイダーなどオープン2座席のライトウェイトスポーツカーを販売した経緯があり、ことに124スパイダーは国内でも見かけることがあった。

 また、124スパイダーは高性能版のアバルト仕様も追加され、現行のアバルト124スパイダーは30数年振りかの復活といえた。

フィアット124スパイダー(1966年~1985年)

 欧州では、ほかに英国でも1950~1960年代にはMGAやMGB、トライアンフスピットファイアなどがあり、オープン2座席のライトウェイトスポーツカーが華やかな時代があった。

 初代ロードスターより20年以上前にオープン2座席のライトウェイトスポーツカーを生み出していたフィアットは、いつか復活の機会を探していたといえるのではないか。

 1990年代半ばには、前輪駆動の乗用車を基にしたバルケッタを販売してもいた。同時にその間、1990年代には世界の自動車メーカーが合併と分離を繰り返し、業界再編が進んでいた。

 フィアットは、1960年代にイタリアの自動車メーカー(アウトビアンキ、フェラーリ、アバルト、ランチャなど)を次々に買収し、これにアルファロメオを加え、イタリア最大の自動車メーカーとなった。いっぽうで、その後は経営不振にも陥っている。

 しかし、そこから小型車のパンダ、ウーノ、プントなどで巻き返しをはかり、2009年に米国クライスラー社に資本参加を行った。2014年には完全子会社化することによってFCA(フィアット・クライスラー・オートモビル)となる。

2013年にマツダと提携の合意が行われ、2015年に4代目ロードスターが発売され、翌2016年にアバルト124スパイダーが発売された

 そうした時代の流れのなかで、2013年にマツダと提携の合意がなされたと伝えられる。2015年にまずマツダ ロードスターの4代目モデル(ND型)が発売され、翌2016年にアバルト124スパイダーが発売された。

124スパイダーの生産はロードスターにとってもメリット

ロードスターは、世界で最も多く生産されたライトウェイトスポーツカーとしてギネス記録になった(写真:初代ロードスター(1989年~1998年))

 ロードスターは、1989年の初代から根強い人気を保ち、2016年には累計100万台を達成するなど、世界で最も多く生産されたオープン2座席のライトウェイトスポーツカーとしてギネス記録になるほどだ。

 歴代で最も販売台数が多かったのは初代であり、その後もいかに効率的に作り続けるかは永年の課題であったろう。

 4代目ロードスターの開発主査を務めた山本修弘は、「マツダにはロードスターをつくり続けるための知見がある」と語ってきた。

2015年に誕生した4代目ロードスターは順調な販売を続けている

 そして現行ロードスターは、もっとも販売台数の多かった初代の所有者にも好意的に迎えられ、順調な販売を続けている。

 加えて、フィアットでもスパイダーとして販売されることになれば、生産台数の上澄みが可能となり、生産工場の稼働率を高めることにつながるはずだ。

単なるOEMとは一線を画す異例の「差別化」

アバルト124スパイダー(2016年~2020年)

 登場したアバルト124スパイダーは、ロードスターを基にしながら外観が大きく変わり、同じクルマとは思えない造形で登場した。

 搭載するガソリンエンジンは、ロードスターが自然吸気であるのに対し、アバルト124スパイダーはターボチャージャーを装備する過給エンジンでの発売となった。

ロードスターと異なるターボチャージャーを装備する過給エンジンを搭載していた

 見栄えの違いと、加速感覚や、運転感覚の違いで明確な区分けができており、それぞれのクルマを好みに合わせて選べる喜びをもたらした。

 発売から4年間で、国内でのアバルト124スパイダーの販売台数は、2227台であるという。グローバルでの販売台数は情報を入手できていない。

 現行ロードスターの3万4000台近く(国内)と比べれば少ないかもしれないが、年間550台以上という数字は、輸入車(ただしアバルト124スパイダーはマツダの広島の工場で生産され国産車の扱い)として一定の評価ができるのではないだろうか。

アバルト124スパイダーは、ロードスターでは味わえない走りを体験できた

 アバルト124スパイダーを手にした人は、ロードスターでは味わえない過給エンジンでの醍醐味を体感したのである。

 実際、試乗をした感触は、両車でまったく違っていた。ロードスターが繊細な操作に対する挙動の喜びをもたらすのに対し、アバルト124スパイダーはやや粗い感じを覚えさせた。

 しかし、その違いは良し悪しではなく、欧州は市街地や郊外での速度域が日本より高く、また欧州の人々は瞬発力を味わうような運転の傾向にある。

 そうした風土や気質の違いをアバルト124スパイダーはまさに体現しており、それこそが外国車に乗る面白みのひとつといえるのである。

124スパイダーが示すスポーツカー存続の難しさ

 生産の終了は、国内においても残念との声が日本のインポーターにもある。いっぽうで、FCAはフランスのPSA(プジョー・シトロエンを主体とするグループ)と経営統合を行い、今年、ステランティスという社名に替わる。

 欧州自動車メーカーは、2015年のフォルクスワーゲンによるディーゼル排ガス不正問題の余波を受け、FCAも米国に5億1500万ドル(約540億円)を支払うことで和解するなどの影響を受けた。同時にまた、欧州では二酸化炭素(CO2)排出量規制が来年から強化され、電動化が急がれる。

2020年、フィアット500のEVが公開された。初の電気自動車の誕生である

 そうしたなかでPSAはフィアット500のEVを2020年公開し、ジープではプラグインハイブリッド車(PHEV)で対応するとはいえ、やや遅れをとったといえなくもない。

 あるカーデザイナーによれば、数年前までトリノ市内には充電器がほとんどないという話もあった。FCAとの経営統合による電動化対応の合理化と迅速化が不可欠となっているのではないか。

 欧州を主力市場とする自動車メーカーは、もはや悠長な経営をしていられない状況下にある。電動化の流れに組み込みにくい車種の廃止を余儀なくされているかもしれない。

 こうして再び、2人乗りの小型オープンスポーツカーは、ロードスターが牙城を死守する状況になる。

ポルシェタイカンは、ポルシェ初量産EVスポーツカーとして誕生した

 スポーツカーの世界では、ポルシェが電気自動車(EV)のタイカンの販売をはじめるとともに、買ってもらうブランドから選んでもらうブランドへの転換をはかろうとしている。超高性能で高価格帯のポルシェは、そういう次世代への転換の戦略を選んだ。

 いっぽう、俊敏な走りが持ち味のオープン2座席ライトウェイトスポーツカーの存続は、マツダでいえば、他の車種での的確な電動化策をとれるか否かにかかっているだろう。

東京モーターショー2019に初公開されたMX-30

 そうしたなか、昨年の東京モーターショーで公開されたMX-30が間もなく正式発表される。スポーツカーの存続は、電動化の確かな戦略があってはじめてできることであることを、アバルト124スパイダーの生産終了は示したようだ。

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