名門アバルト軍団の実力と心配 世界に誇る「サソリ」の一撃

 日本人が好きな輸入車メーカーはいろいろあり、昔から偏愛的で熱狂的なマニアも多数存在している。MINI、アルファロメオなどはその典型でもある。

 そのいっぽうで、チューニングを施す名チューナーに対して熱狂的なファンが存在する珍しいケースがアバルトだろう。

 カルロ・アバルトが始めたチューニングメーカーはフィアットに吸収され、アバルトというブランド自体の存続も危ぶまれたこともあるが、それを救ったのが日本での人気だったのは有名な話だ。サソリのエンブレムに対し並々ならぬ思い入れを持っている人も多い。

 現在アバルトはアバルト595、アバルト124スパイダーを販売し、根強い人気を誇っている。アバルトが日本人の琴線を刺激し続ける理由について考察すると同時に現行ラインナップの魅力についても言及していく。

 そして、2019年末に生産終了が報じられたロードスターの兄弟車、アバルト124スパイダーのその後について調べてみた。

文:岡本幸一郎/FCA、ベストカー編集部

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サソリの毒は間違いなく日本に蔓延

 日本では輸入車というとドイツ系が圧倒的に強いいっぽうで、まったく異質ながら高い人気を博しているブランドがいくつかある。

 2019年に70周年を迎えたアバルトも、まさしくそのひとつだ。しかも非常に特徴的な売れ方をしているのが興味深い。

2017年のマイナーチェンジで595に統一された。アバルトブランドで最量販モデルで、2019年は歴代2番目の販売台数をマーク

 2019年の販売実績(FCA値)では、フィアット500の4342台に対し、アバルト595が2955台と、チンクェチェント全体における販売比率が68%超にも達していることにまず驚く。

 さらにはフィアット500ともども登場から時間が経過するにつれて極端な右肩上がりとなっているのだから恐れ入る。

 アバルト595系の導入年と翌年は500台あまりだったところ、図のとおり急増している。「サソリの毒は間違いなく日本で蔓延してきております(笑)」とFCA広報女史も述べるとおりだ。

アバルト500、アバルト595の年別販売台数(FCA公表データ)

モータースポーツで名を馳せたアバルト

日本にはアバルトフリークが根強く存在していて、カルロ・アバルトの誕生月にちなんだサソリのエンブレムは特別な意味を持っている

 アバルトはオーストリア出身のレーシングライダーであるカルロ・アバルトが1949年にイタリアのトリノで設立したのが起源。おなじみのサソリのトレードマークは創始者のカルロの誕生月の星座に由来する。

 ほどなくフィアット車をメインに市販車のチューニングを手がけるかたわら競技にも参戦し、1950~1960年代にはモータースポーツ界を席巻するほどの活躍を見せた。

アバルトは1960年代のレーシングシーンでセンセーショナルを巻き起こし、それにより名声を築いた。写真は1965年モデルの1000SP

「ジャイアントキラー」や「ピッコロモンスター」と呼ばれるほど、競争相手の大柄な高性能車を小さなアバルトが追いかけ回すさまはのちのちまで語り草となった。

 それが遠く離れた日本にも伝わると、もともと日本人が昔からDNAとして持っている、強大な相手に挑む小兵に味方する、いわゆる“判官びいき”の心境と通じたことも、現在のアバルトの人気につながっている面も少なからずありそうだ。

アバルト復活のきっかけは日本!!

フィアット傘下に収まってからは124アバルト、131アバルト(写真)などラリーを手掛けて名を馳せた。しかしアバルトのオリジナリティは失われていった

 ところが、1971年にフィアット傘下に収まるや、アバルトは徐々に存在感を薄れさせていく。

 当時は主にフィアットグループ内の競技部マシンの開発に携わり、競技の世界ではそれなりに活躍していたものの、長らく市販車とのかかわりがなくなっていたからだ。

 そんなアバルトが再び目覚める兆しを見せたのが20世紀の終わり頃。しかも彼の地ではなく日本での話。

1998年にプントのホットモデルとして追加されたプントスポルティングアバルト。これは日本専用モデルとして販売された

 1998年に「プントスポルティングアバルト」、次いで2000年に「HGTアバルト」という2台の日本向けの専用モデルを突如として発売したのだ。

 いずれも内容的には往年のアバルトとはほど遠いいたってシンプルなものだったとはいえ、それだけアバルトにとっても日本は特別な市場と認識していことの表れに違いなく、アバルトがわざわざ日本だけのためにこうしたモデルを用意したことを興味深く感じたものだ。

フルモデルチェンジしたプントに設定されたプントHGTアバルトも日本専用。アバルトが日本マーケットを重要視していたことがよくわかる

アバルト500の登場に日本のアバルトファンは歓喜

 それにしてもなぜ日本? と思うところだが、それには日本にかねてから熱心なアバルトファンが多数存在することが大きいようだ。

 彼らが保有するヘリテージカーは状態のよいものが多く、世界的にも貴重なアバルトが実は日本にたくさんあるのだという。

 そして2007年、フィアットはアバルトを正式に復活させたのはご存知のとおり。グランデプントを皮切りに、翌年には「アバルト500」を送り出す。

 日本にはいずれも2009年に上陸した。

2007年にフィアットがアバルトを正式に復活させ、グランデプントアバルトは2009年から日本で販売を開始
グランデプントアバルトは少々消化不良気味だったファンも、アバルト500の登場を歓迎。何よりも500のチューニングモデルが復活したことで歓喜

 とりわけかつてアバルトが名声を博したのも当時のフィアット500のチューニングだったが、小柄なボディをスポーティに仕立てた姿と強力なエンジンを積んだ往年のアバルト500の再来にファンは歓喜した。

 さらに、マツダとの提携により生まれた124スパイダーも登場した。その124スパイダーが日本に導入された2017年が、いまのところアバルトがもっとも売れた年となっている。

 ストーリー性を大事にするアバルトファンにとって、ピュアなアバルト車ではない現行124スパイダーが受け入れられるのかという危惧もあったが、それなりに支持を得たといえそうだ。

マツダとの共同開発によって誕生した124スパイダー。日本では独自チューニングが施されたアバルトバージョンのみが販売されている

アバルトのイベントは本国以上の盛り上がり

 とりわけアバルト595系がここまで人気を獲得するとは予想外だったが、フィアット500自体が幅広く受け入れられたのに加えて、その内外装を特別に仕立てるとともに走りのパフォーマンスを引き上げるなどした、より高い付加価値を身につけたアバルトに目が向けられ、そして評判が評判を呼んでこうなったということだろう。

アバルト595エッセエッセはかつての大人気だったモデルの車名が復刻したことでも話題になった。エッセエッセはSSのこと

 また、日本ではMTの輸入車が少ないなかで、アバルトのMT比率は実に48%にも及ぶことも特筆できる。

 さらに、毎年のように戦略的に日本のマーケットに合った限定車を販売してファンを繋いでいることも功を奏していることに違いない。毎年恒例となっている祭典「アバルトデイ」の盛り上がりは本国以上との評判だ。

2020年5月に146台限定で販売を開始したアバルト595ピスタ325万~345万円。キャンバストップ仕様のCは94台限定で361万~378万円

アバルトの勢いが削がれないことを切望

 そんなアバルトの現行ラインアップは、595が標準モデルと上級仕様の「ツーリズモ」の屋根付きとカブリオレ、走行性能を高めた「コンペティツィオーネ」という計4モデルと、124スパイダーとなっている。

キャンバストップ仕様のアバルト595Cツーリズモ。アバルト595シリーズでオープンエアを満喫できると根強い人気となっている

 いずれも野太いエキゾーストとパンチの効いた加速が印象的な1.4L、直4ターボを搭載し、モデルの性格にあわせて走りの味付けや装備が差別化されているが、その刺激的なドライブフィールはまさしく「痛快」という表現がピッタリな点では共通する。

 595系は車高が高めでホイールベースが短いため安定性は高くないが、挙動が出やすいぶん、それを積極的に自身で操る楽しさがある。

 124スパイダーはご存知のとおりマツダ ロードスターと基本骨格を共有するが、走りの味付けは別物で、595系にも通じるエキサイティングなハンドリングが与えられる。 

アバルト124スパイダーはマツダの宇品工場で生産されているが、すでにその生産が終了していて、新車で買えるのは販売会社に残った在庫のみというのが寂しい

 少々気がかりなのは今後のことだ。

 595系の好調な状況は当面は続きそうで心配する必要はなさそうだが、次期チンクェチェントはEVとなる。124スパイダーはすでに生産中止となっていて、各販売会社に残っている在庫のみという状況だ。しかもその在庫はかなり少なくなっているようだ。

 このようにアバルトにとって期待できそうなFCAの近い将来の情報が聞こえてこない。

 せっかく復活をとげて多くのファンを喜ばせ、大躍進しているアバルトの勢いが再び衰えることのないよう、せつに願う次第である。

新型フィアット500はEVとなる。人気のアバルト595シリーズが今後どうなるのかが気になる。加えてアバルト124スパイダーも2020年いっぱいで販売を終了

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