124スパイダーの生産はロードスターにとってもメリット
ロードスターは、1989年の初代から根強い人気を保ち、2016年には累計100万台を達成するなど、世界で最も多く生産されたオープン2座席のライトウェイトスポーツカーとしてギネス記録になるほどだ。
歴代で最も販売台数が多かったのは初代であり、その後もいかに効率的に作り続けるかは永年の課題であったろう。
4代目ロードスターの開発主査を務めた山本修弘は、「マツダにはロードスターをつくり続けるための知見がある」と語ってきた。
そして現行ロードスターは、もっとも販売台数の多かった初代の所有者にも好意的に迎えられ、順調な販売を続けている。
加えて、フィアットでもスパイダーとして販売されることになれば、生産台数の上澄みが可能となり、生産工場の稼働率を高めることにつながるはずだ。
単なるOEMとは一線を画す異例の「差別化」
登場したアバルト124スパイダーは、ロードスターを基にしながら外観が大きく変わり、同じクルマとは思えない造形で登場した。
搭載するガソリンエンジンは、ロードスターが自然吸気であるのに対し、アバルト124スパイダーはターボチャージャーを装備する過給エンジンでの発売となった。
見栄えの違いと、加速感覚や、運転感覚の違いで明確な区分けができており、それぞれのクルマを好みに合わせて選べる喜びをもたらした。
発売から4年間で、国内でのアバルト124スパイダーの販売台数は、2227台であるという。グローバルでの販売台数は情報を入手できていない。
現行ロードスターの3万4000台近く(国内)と比べれば少ないかもしれないが、年間550台以上という数字は、輸入車(ただしアバルト124スパイダーはマツダの広島の工場で生産され国産車の扱い)として一定の評価ができるのではないだろうか。
アバルト124スパイダーを手にした人は、ロードスターでは味わえない過給エンジンでの醍醐味を体感したのである。
実際、試乗をした感触は、両車でまったく違っていた。ロードスターが繊細な操作に対する挙動の喜びをもたらすのに対し、アバルト124スパイダーはやや粗い感じを覚えさせた。
しかし、その違いは良し悪しではなく、欧州は市街地や郊外での速度域が日本より高く、また欧州の人々は瞬発力を味わうような運転の傾向にある。
そうした風土や気質の違いをアバルト124スパイダーはまさに体現しており、それこそが外国車に乗る面白みのひとつといえるのである。
124スパイダーが示すスポーツカー存続の難しさ
生産の終了は、国内においても残念との声が日本のインポーターにもある。いっぽうで、FCAはフランスのPSA(プジョー・シトロエンを主体とするグループ)と経営統合を行い、今年、ステランティスという社名に替わる。
欧州自動車メーカーは、2015年のフォルクスワーゲンによるディーゼル排ガス不正問題の余波を受け、FCAも米国に5億1500万ドル(約540億円)を支払うことで和解するなどの影響を受けた。同時にまた、欧州では二酸化炭素(CO2)排出量規制が来年から強化され、電動化が急がれる。
そうしたなかでPSAはフィアット500のEVを2020年公開し、ジープではプラグインハイブリッド車(PHEV)で対応するとはいえ、やや遅れをとったといえなくもない。
あるカーデザイナーによれば、数年前までトリノ市内には充電器がほとんどないという話もあった。FCAとの経営統合による電動化対応の合理化と迅速化が不可欠となっているのではないか。
欧州を主力市場とする自動車メーカーは、もはや悠長な経営をしていられない状況下にある。電動化の流れに組み込みにくい車種の廃止を余儀なくされているかもしれない。
こうして再び、2人乗りの小型オープンスポーツカーは、ロードスターが牙城を死守する状況になる。
スポーツカーの世界では、ポルシェが電気自動車(EV)のタイカンの販売をはじめるとともに、買ってもらうブランドから選んでもらうブランドへの転換をはかろうとしている。超高性能で高価格帯のポルシェは、そういう次世代への転換の戦略を選んだ。
いっぽう、俊敏な走りが持ち味のオープン2座席ライトウェイトスポーツカーの存続は、マツダでいえば、他の車種での的確な電動化策をとれるか否かにかかっているだろう。
そうしたなか、昨年の東京モーターショーで公開されたMX-30が間もなく正式発表される。スポーツカーの存続は、電動化の確かな戦略があってはじめてできることであることを、アバルト124スパイダーの生産終了は示したようだ。
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