東京都世田谷区のカワサキ販売店で、ニューモデル「メグロK3」の発表会が開催された。
これが「目黒通り沿いにあるカワサキ旗艦店で、大正時代に目黒村で創業したメグロの復活についてカワサキ担当者らが語る」という、要素多すぎ!? の立て付けが話題に。もちろんそこにはきっちり計算された狙いが隠されている。
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文/市本行平、写真/市本行平、KAWASAKI
■メグロK3の発売、それはカワサキのビッグバイク路線強化の表れ
なぜ今、メグロなのか? 本誌の質問に対して直接の答えは「1960年に川崎航空機工業と目黒製作所が提携して60周年という節目」というもの。
しかし、カワサキ内では過去から長らくメグロを復活させたいという想いがくすぶっていたという。それが今になって実現したのは、ビッグバイクを軸とした販売戦略が本格化したタイミングだからだろう。
カワサキは2017年から国内でディーラー制度をスタートさせ、現在70店舗まで拡大。2020年4月からは、排気量401cc以上のビッグバイクの販売をカワサキ専門のプラザ店に限定している。
店舗数は120店を目指していることから、さらに推進していくためにも注目度の高いビッグバイクをリリースする必要があり、これがメグロK3(773cc)の実現を後押ししたはずだ。
同時に本誌は250ccでのメグロ復活も検討したのかも聞いてみた。カワサキは2018年まで250ccの「エストレヤ」を発売しており、これは「カワサキ250メグロSG」をリバイバルしたものだった。
現在は生産終了になっていることから、新たにメグロブランドで復活してもおかしくはない。しかし、当然のように「考えていない」との答え。
カワサキの大きな狙いは、メグロK3の発売によって戦前から大排気量の名車を輩出し、カワサキ初の大型車である650W1の土台となったメグロブランドをアピールすることで、カワサキのビッグバイクイメージをより強固なものにしていくこと。
メグロK3はビッグバイクカワサキの広告塔としての役割も担っており、これもメグロ復活を後押ししたはずだ。
メグロK3発表の舞台として、この5月にオープンしたばかりの新しい旗艦店であり、立地が目黒通り沿いにある「カワサキプラザ東京等々力」が選ばれたのは全て計算ずく。
この場所でカワサキとメグロの歴史が再び邂逅した瞬間に立ち会うことで、現在も残る日本最古の二輪ブランドを強く印象づけられることになったのだ。
■メグロK3のタンクエンブレムはW800の数倍の手間とコストで生産
メグロ復活にあたって、ベースとなったモデルはカワサキ「W800」。これのカラーリングを前身の「カワサキ500メグロK2」に倣った黒×メッキに仕上げていくことが開発プロセスで大きなウエイトを占めることになり、デザイナーの猪野精一氏が登壇した。
W800をメグロK3に生まれ変わらせるにあたっては、燃料タンクに最も心血を注いだという。
単にメグロK2をコピーするのではなく、メッキに代わって銀鏡塗装を採用したことで、新しいモデルとしてメグロK3を提示することができたという。
銀鏡塗装は、メッキとは光の反射率が異なり、強い光ではくっきり反射し曇天では深みのある発色になるのが特徴。また、キズを自己修復するクリア層を塗り重ねており、深いキズでない限り綺麗な表面を保ち続けるのだ。
そして、キモはやはりタンクのエンブレムで、生産にかかる手間とコストはW800の数倍。エンブレムは通常1色でデザインされることが多いが、メグロは5色となっており、これを再現することで手間とコストが増している。
ちなみにメグロのオリジナルモデルは七宝焼きで色付けしており、当時の高級品としてのメグロを物語っている部分だ。七宝焼きは釉薬に鉛が含まれていることから今ではそのまま適用できないが、メグロK3ではこれを塗装で対応、手間は当時と変わらないという。
マーケティング担当の奥村和磨氏は、メグロはネオレトロではなくトラディショナルだと強調した。メグロK3はK2のモデルチェンジであり、現在進行形で生き続けいることを指しているのだろう。
価格はW800の110万円から127万6000円と高くなっているが、これは伝統が生み出すブランド代。性能やメカではなく付加価値が値を付けることは、日本のバイクメーカーでは見られなかったが、クラシックモデルを強化しているカワサキは今それに成功しつつあるのかも知れない。