MT車はアクセル、ブレーキ、クラッチというABCペダルが右から順に並んでいて、教習所でクラッチは左足、アクセルとブレーキは右足で操作すると教えられる。
いっぽうAT車、CVT車、AMT車、DCT車はクラッチペダルがなく、アクセルとブレーキの2ペダルとなっている。
この2ペダル車の操作についても教習所ではアクセル、ブレーキとも右足で操作するものと教えられるが、クラッチ操作から解放されフリーになった左足でブレーキを踏むことの是非はクルマ界で古くから議論されている。
2ペダル車の左足ブレーキは是か非か? について鈴木直也氏が独自の視点で考察する。
文/鈴木直也、写真/TOYOTA、MAZDA、HONDA、NISSAN、SUZUKI、ベストカー編集部
【画像ギャラリー】 右足で踏んでも左足で踏んでも楽しい!! 2ペダルの走りが楽しい国産車たち
ブレーキは右足でというのは無難な回答
ずいぶん昔から議論が続いてるテーマだが、これにハッキリした答えを出すのは難しい。
そのひとつの理由は、クルマを運転する人の数があまりにも多く(現在日本で運転免許を保有している人は約8200万人以上いる)、とてもじゃないが意見の統一が不可能なこと。
ある人は「左足でブレーキを踏んだほうがペダル踏み変え時間が不要なぶん反応が早い」といえば、ある人は「そんな慣れないことをやるときちんとブレーキコントロールできず危険」という。
細かいことを言い出すと、ケースバイケースでどちらともいえない状況ばかりになって、議論は果てしなく紛糾してゆくのだ。
まぁ、なんの責任もない立場なら、最終的に「オレはこう思うんだ!」を結論にしてもいいのだが、そうはいかないのが責任ある立場の組織や団体。たとえば、自動車メーカーや警察庁などが判断を求められた場合にどう答えるべきかは、とってもデリケートな問題といえる。
ちょっと考えればわかるとおり、そういう立場で「ATの左足ブレーキは是か否か?」と問われたら、誰だっていちばん当たり障りのない答えを用意する。
「右足でブレーキを踏むのが正しい」という回答なら、その理由として「従来どおりです」のひと言ですむ。しかし、「左足ブレーキにもメリットがある」なんてことを言おうものなら、その理由をいちいち説明しなければならないし、安全性も保証しなければならない。
メーカーや役所などが、組織としてそんな火中の栗を拾うようなことをやっても、何のメリットもないよね?
だから、教習所では右足ブレーキが正しいと教えるし、メーカーの取説にも「ブレーキペダルは右足で操作してください。左足でのブレーキ操作は緊急時の対応が遅れるなど、思わぬ事故につながる恐れがあり危険です」と書く。
クルマの安全に責任を持つ立場としては、それがもっとも無難な見解なのだ。
左足ブレーキのメリットとは?
では、左足ブレーキは危険なばかりで有害無益なのかといえば、もちろんそんなことはない。
ひとつ確実に言えるのは、モータースポーツの世界ではいまや左足ブレーキが主流ということ。
まずカートがそうだし、そこからステップアップする純レーシングカーはぜんぶ左足ブレーキ。クラッチペダルのある量産車ベースのレース仕様でも、左足ブレーキを多用するドライバーは少なくない。
また、グラベルを走るラリーの世界では、昔から3ペダルMTでも左足ブレーキが常識。立ち上がり加速をアクセル全開のままブレーキでコントロールするなんてことを普通に行なっていた。
「でも、それってプロドライバーの話でしょ?」といわれればそのとおりなのだが、ここで言いたいのは「使いこなせば左足ブレーキにはメリットがある」ということ。
いままでどおり右足ブレーキで安全運転に徹するほうが幸せでいられるドライバーが大半かもしれないが、もっとドライビングが上手くなりたいという向上心のある人は、左足ブレーキを試してみる価値があると思うのだがいかがだろう。