トヨタが夢の全固体電池をハイブリッドで実用化する期待値

■そもそも全固体電池とは? なぜ高性能なのか

東京2020では先導者として登場した「LQ」だが、このモデルをベースに全固体電池を搭載した試作車は、すでに試験走行も開始している
東京2020では先導者として登場した「LQ」だが、このモデルをベースに全固体電池を搭載した試作車は、すでに試験走行も開始している

 そもそも全固体電池にもいろいろある。全固体電池とは電池の構造を示すもので、いま開発されているモノは電気を作る仕組みとしてはリチウムイオン電池と同じだ。

 リチウムイオン電池にも、電極材にコバルトやマンガン、アルミや鉄を組み合わせて、安定性や耐久性を高めているものがあるように、全固体電池にも電極材や電解質の素材、製法などにさまざまな違いがある。各社それぞれ有望な全固体電池としてある程度の組み合わせに絞り込んで開発している。

 トヨタが開発中の全固体電池は、正極材に金属リチウム、負極材に硫黄化合物を用いた硫化系と呼ばれるモノで、全固体電池のなかでも出力特性に優れるのが特徴だ。

 硫黄系のリチウムイオン電池は、電解質が液体のものでも開発が進められているが、熱暴走すると硫化水素を発生する可能性が高いことから、実用化は難しい。しかし電解質を固体化した全固体電池の場合、気化する可能性はグンと小さくなるため、安全性に優れるのだ。

 前述の通りトヨタは、コンセプトカー「LQ」に全固体電池を搭載した試作車を制作して、昨年ナンバーも取得して公道での走行テストを繰り返している。東京2020オリパラの先導車にもLQは登場したが、こちらは練馬ナンバーだったことから従来のリチウムイオン電池を搭載した仕様だと思われる。

 その他、自動運転の実験車両としてもLQは使われており、様々な目撃情報がネット上に上げられている。

■急速充電にも強い全固体電池の長所

電解液を使用したリチウムイオン電池は高温になると発火、破裂しやすい欠点を持つ。全固体電池は高温や負荷に強く、電解液を使用する電池の短所を補うことができる
電解液を使用したリチウムイオン電池は高温になると発火、破裂しやすい欠点を持つ。全固体電池は高温や負荷に強く、電解液を使用する電池の短所を補うことができる

 従来のリチウムイオン電池は、リチウムイオンを活性化させるために電解液に有機溶剤を使っており、熱暴走により高温になると電解液が気化して膨張、発火しやすいという難点がある。

 そのため、電解液を安定化させるために様々な元素を添加し、温度管理をすることなどで安全性を高めて、サイクル寿命を伸ばす工夫をしているのが現状だ。

 一方、全固体電池は電解質が固体なので高温に強く、しかも電池内でのリチウムイオンの移動が速い(=抵抗が少ない)ので発熱量が小さくなるだけでなく、急速充電などの高負荷に強い仕様になる。

 さらに電解質にリチウムイオンをたくさん詰め込めて、熱設計などの自由度も高い。軽量で巡航距離が長く、急速充電に対する能力が高まれば、EVの使い勝手は飛躍的に高まるはずだ。

 それでも実際の性能で従来のリチウムイオン電池より数倍は性能が向上しなければ、技術力をアピールできないし、開発や生産コストを回収できないことになる(価格に反映できないため)。

 液体燃料と比べて圧倒的にエネルギー密度に劣る電池は、革新的な技術開発を繰り返して液体燃料に追い付こうとしている。リチウムイオン電池から、一段のブレイクスルーを果たす全固体電池の実用化は、その大きなステップと言えるものだ。

■トヨタ電池戦略の「もうひとつの目玉」とは

 そしてトヨタの電池戦略にはもう一つ、目玉があった。それは次世代リチウムイオン電池として新構造の電池を開発中であることだ。ここはまだ詳細を明らかにすることはできなかったようだが、2025年からの次世代リチウム電池として全固体電池と並んで、新構造のリチウムイオン電池を開発中であるらしい。

 筆者は、これはバイポーラ型リチウムイオン電池だと予想している。全固体電池と同じくバイポーラ型も構造の異なる電池であるし、従来のリチウムイオン電池の性能を大幅に向上させる構造としてこれ以外のモノは見当たらないからだ。

 リチウムイオンを用いた電池の起電力は3.7V(理論値)と言われており、実際には並列つなぎと直列つなぎを組み合せてバッテリーパックやモジュールを形成する。このうち、直列つなぎの効率を大幅に高めるのがバイポーラ型電池だ。

 新型アクアに世界で初めて採用されて、その存在が注目されたバイポーラ型電池だが、鉛酸バッテリーやニッケル水素では実用化されていても、リチウムイオン電池で実用化したメーカーはまだ存在しない。

 バイポーラ型の弱点は、単一のセルを組み合せたモジュールではないため、プラットフォーム毎に専用のバッテリーパックを設計、生産する必要がある。

 効率が高い反面、バッテリーパック形状の自由度が低いことになるが、EV専用プラットフォームと組み合わせ、多車種展開することでスケールメリットによりデメリットは解消できる。

 さらにリチウムイオン電池としても電極材のコバルトやニッケルの使用量を減らす技術、バッテリーモジュールを車体構造と一体化して軽量化する技術、生産効率やコストを圧縮する技術など、多元的に電池性能を高める開発をおこなって、2030年までに電池コストを半減(生産コスト30%減×電費30%減)する目標を掲げている。

 こうしてトヨタの電池の開発計画は、着々と進んでいることがわかった。電池自体の開発は電池メーカー任せの欧州自動車メーカーより、トヨタのほうが技術的にはよほど進んでいる、という印象を持ったのは筆者だけではないハズだ。

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