中国の格安EVが続々と日本に上陸
いっぽう、中国では「宏光ミニEV」というマイクロEVの販売が開始された。価格は日本円でなんと45万円(廉価モデル)。徹底的に無駄が排除された車体は、部品点数が極めて少ない。
また、日本の物流会社が中国製のEVの導入を続々と決定している。今年4月には、「佐川急便」が中国の広西汽車集団製の小型配送用EVを7200台採用することを決定。10月31日には、国内の大手物流会社「SBSホールディングス」が東風汽車集団製の1トンクラスの小型EVトラックを1万台導入することを発表した。その販売価格は380万円ほど。このモデルは日本のスタートアップ企業「フォロフライ」(本社:京都)が設計し、中国で生産したものを輸入・販売する。
こうした状況のなか環境省は、軽EVの普及に向けて購入補助を2022年度から開始する。すでに施行されている経済産業省のEVの購入補助金に上積みして、購入者の負担額を200万円以下まで下げることを目指している。経済産業省の補助金の対象に輸入車は含まれないが、環境省では特定の輸入車に対してそれを適用する予定だ。
今年1月には日本電産の永守重信会長が、「2030年までにはクルマの価格は1/5になる」と発言して話題になった。国産EVにおいても軽EVの計画は進んでいる。しかし、価格競争においては今のところ中国に太刀打ちできそうもない。
環境省の補助金の枠にこれら格安中国EVが加わることになれば、国産EVが200万円を切る頃、中国製EVの価格は永守氏の予言どおり「1/5」になっているかもしれない。
雇用喪失はすでに始まっている!
大手自動車メーカーの工場閉鎖によって、EV化による雇用喪失はすでに始まっている。
トヨタ自動車東日本株式会社(本社:宮城県)は、昨年12月に「東富士工場」(静岡県)を閉鎖した。従業員約1100人のうち約700人は東北の3工場などに順次異動したが、約400人は定年、または静岡県内での転職などを希望して退職している。
三菱自動車の子会社「パジェロ製造」は、2021年8月31日に岐阜県坂祝町にある工場を閉鎖。これによって「パジェロ」の生産も中止された。全従業員988人のうち希望退職者は278人、地元の近隣企業への再就職者は361人。つまり、65%の人々が「三菱」から離職したことになる。残る349人は生産機能が移転された三菱自動車の岡崎製作所へ移籍している。
ホンダは2021年度中に「狭山工場」を閉鎖し、その機能を寄居工場(ともに埼玉県)に集約する。また、2025年末までに「真岡工場」(栃木県)を閉鎖し、その約900人の従業員を配置転換する。同時にホンダは、55歳以上の正社員を対象に同社全体で2000人超の社員を早期退職で減らす予定だ。
大企業においては、他工場への移動、グループ会社への出向、または地元関連企業への転職などへの斡旋が行われるケースが多い。しかし、従業員の新たな就業先を手配する体力、または能力がない中小零細の下請け企業における雇用は、さらに深刻な事態となり得る。
自動車メーカーに部品を直接納品する一次取引先は7500社、そこに部品を納める二次取引先は1万5000社に達する。
国内の一次取引先には一部上場を果たす大規模企業も多く、その場合、商品ラインナップも幅広い。電子機器、サスペンション、内装など、EVでも必要な部品を扱っていればEV化に適応し、その転換期をチャンスに変えることも可能だろう。
しかし、ガソリン車特有の部品に特化してきた中小零細の企業の場合は、そうはいかない。最も危ういのは内燃機関、バルブなどを得意とする企業だ。その技術を他所に転用できなければ、EV化の余波もっとも強烈に受けることになる。
こうした状況のなか、近年では「事業再生ADR」が話題にあがることが多くなった。
企業経営の持続が難しくなった場合、民事再生法の適用を受けるのが一般的だ。このケースの場合、あらゆる取引先が債権者となる。しかしこの事業再生ADRの場合、債務カットをする対象は金融機関だけ。一般債権者に迷惑をかけることはない。これは「裁判外」の紛争解決手続きの一種である。
技術転用の可能性がある中小零細企業の場合、この手続きで倒産までの時間をかせぎ、即財に人員削減することなく、活路を見出せる可能性もあるだろう。
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