新興産業によって新しい雇用は創出される
EV化によって淘汰される企業があれば、新たに生まれる産業もある。
その象徴たる新興企業がテスラだ。2010年にカリフォルニア州で車体製造を開始して以来、バッテリーや蓄電池などを製造する広大な工場「ギガ・ファクトリー」を、ネバダ州(2015年)、ニューヨーク州(2017年)、上海(2019年)で操業し、さらに今年2021年にはベルリン、2022年にはテキサス州オースティンでの生産もスタートさせる。ベルリン工場では1万2000人の雇用が創出されるが、それを聞いた元独メルケル首相は大いに喜んだという。
国内においても、EV化に向けて新たな雇用は創出される。
バッテリーや半導体は、現在まったく供給が足りてない。今年10月14日には、台湾のTSMC社が熊本に半導体工場を建設することを発表したばかり。この工場では自動車の制御に使われる大規模集積回路LSIも製造される予定だ。雇用人数は2000人が見込まれている。
トヨタはEV、HV(ハイブリッド車)、FCV(燃料電池自動車)のほか、水素エンジン車の開発を進めているが、この方針も雇用問題に直結している。燃料電池車は水素を電気分解することで蓄電してモーターを回すが、水素エンジンでは、エンジンの中で水素を直接燃やして動力とする。つまり、長年に渡って培ってきたエンジン技術を活用しつつ、その製造に関わる多くの雇用を維持しようとしているのだ。
また日本国内においては、EV化や水素化に対応したステーションの設置が驚くほど進んでいない。さらに、EV化や自動運転によって、これまでとは違うリース業、サービス業が生まれるだろう。こうした分野では、全国的に雇用が生まれるはずだ。
自動車の「製造部門」に直接関われる機会は減少するかもしれないが、上表が示すとおり、運輸やリースなどの「利用部門」、ステーションなどの「関連部門」、電子部品、デバイス製造業、工作機械製造業をはじめとした「資材部門」、「販売・整備部門」など、関連事業は多い。職種に対する個々人の指向性はあるものの、「30万人の雇用喪失」はこれらの関連産業によって、ある程度は補完されるはずだ。
雇用を守るために、国と自動車メーカーがすべきこと
世界各国がカーボンフリーに関する数値目標を掲げるなか、国内大手自動車メーカーも具体的な施策を発表している。
トヨタは2030年までに、EVやHV(ハイブリッド)の販売台数を現在の4倍弱の約800万台にするとし、スバルは同年までに全世界販売台数の40%以上をEVとHVにする目標を発表した。
また、日産は2030年代の早期に、ホンダは2040年までに、新型車をすべてEVにする計画を掲げている。欧米メーカーの動きも同様だ。
つまり、新型コロナ禍に突然晒された航空・旅行業界に比べれば、時間はまだある。明日突然30万人のリストラが発生するわけではない。100年に一度と言われるこのEV化の大波に対処しつつ、それに対応した雇用調整を行うことは十分に可能だ。おまけにEV化を促進するこうしたメーカー企業は2021年、株価や時価総額を大きく上げている。
企業として利益を確保しつつ、EV化への緩やかなシフトと、在職者を活かす新たな事業転換を図ることが、リーディング・カンパニーたる自動車メーカーに託された課題であり、腕の見せどころだろう。
今年1月、トヨタ社長である豊田章男氏は、日本自動車工業会の報道関係者とのオンライン懇談会の場で、「カーボンフリーは、サプライチェーン全体で取りかからないといけない。でなければ国際競争力を失う。そのためには国家のエネルギー政策の大変革なしに達成は難しい」と語った。
EV化の局面において、自動車メーカーはすでに技術革新を急ぎ、その他さまざまな重責を担い、対応に追われている。対して国がすべきことは、財政政策による電気・水素のステーション建設の推進だけには留まらない。
衆院選も終わった。政府においてはこの一大事に、より明確なカタチで、早急に対処する必要がある。
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