■利益が薄くともスポーツカーは自動車産業の必需品だ
それでもスポーツカーは効率が悪い。これを手掛けるのは、自動車メーカーというよりも自動車産業全体にとって、スポーツカーが必要な商品であるからだ。
スポーツカーがなくても生活に支障はないが、自動車産業には求められている。
その理由は、スポーツカーがクルマの魅力を最も分かりやすく表現しているからだ。軽トラックも運転すればクルマとの一体感を得られて楽しいが、スポーツカーはそこを突き詰めて開発される。
カッコよくて速いから、それこそF1マシンのように、メーカーや業界全体のイメージリーダーになり得る。
また今は昔ほどではないが、スポーツカーの開発によってメーカーの技術力が押し上げられる効果もある。
さらにいえば、メーカーや販売会社の社員がモチベーションを高めるメリットも期待される。スポーツカーがあると、さまざまな相乗効果が生まれるのだ。
ただしスポーツカーをイメージリーダーに据えて販売面の効果を上げるには、そのほかの車種ラインナップや売り方も大切になる。
例えば日本国内の場合、トヨタ車で好調に売れるのは、ハイブリッド専用車のアクアとプリウス、ミニバンのヴォクシーやヴェルファイア、SUVのC-HRという具合だ。
カローラスポーツやヴィッツUスポーティパッケージなどもあるが、いまひとつ売れ行きが乏しい。相応に売れていて、なおかつスポーティな趣味性を感じさせるのは、C-HRくらいだろう。
そうなると86が浮いてしまう。トヨタが力を入れるGR/GRスポーツも同様だ。スポーツカーがイメージリーダーになったり、ほかの車種の売れ行きに良い効果を与えるには、スポーティモデルが相応に用意されることが条件だ。
ホンダはNSXがスポーツ指向のイメージリーダーで、シビックなども選べるが、販売面では国内で売られるホンダ車の33%を軽自動車のN-BOXが占める。
N-WGNなども加えた軽自動車全体では50%に達する。NSXは販売規模が極端に小さいから、販売会社のホームページからは削除されている現実もある。これではスポーツカーの相乗効果は期待しにくい。
日産はスポーツカーとしてフェアレディZとGT-Rを用意するが、スカイライン、フーガ、ジュークなどは設計が古く、売れ行きも下がった。
今の日産では、ノート、セレナ、デイズ&デイズルークスが主力だから、やはりスポーツカーによる相乗効果はねらいにくい。
以上のように、スポーツカーは赤字にはなっていないが、ラインナップの効果が十分に発揮されているともいい難い。
それは海外市場を重視した結果、国内に向けた販売戦略が弱体化した結果でもある。スポーツカーの元気が際立つ国内市場であって欲しい。
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