決断は正しかったのか間違いだったのか? 【自動車業界の大鉈(おおなた)事件史】

■足元がゆるいだらどうする!? スバルの北米一本足

スバルの北米市場依存率は68.2%と約7割を占めている。こんなに高い割合ではいいのか?

 北米重視の戦略をとるスバル。トランプ政権で不安要素もある市場中心の戦略でいいのか?

■桃田健史の判定: ○

 2000年代の中盤、富士重工(当時)の幹部は思い切ったアメリカシフトを決断し、商品イメージの大転換を図った。販売台数を伸ばすための苦肉の策だった。その上で、狙ったのはサンベルトと呼ばれるアメリカの中西部。それまでのスバル車は、降雪地域での生活四駆、またはアウトドアスポーツ用に特化した商品イメージだった。

 現時点で、アメリカシフトは成功したように見える。だが、アメリカでの販売を下支えしているのは、ラブキャンペーンというユーザー同士の精神的なつながり。市場全体の動向がどうなろうと、スバルはスバルに愛を感じる人々との接点を維持し続けるしかない。

■鈴木直也の判定 :△

 スバルの2018年3月決算を見ると、グローバル販売106.7万台のうち、北米が72.8万台。北米市場依存率は68.2%に達している。特定の市場に過度に依存するのは好ましくないのはわかっているが、スバルにしてみれば「売れちゃうんだからしょうがないよね」というのが実情。

 本当は欧州やアジア新興国など、スバルの弱い市場を伸ばす営業戦略が必要なのだろうが、北米にクルマを供給するだけでテンテコ舞いという状況では、たぶんそれは無理。本業が好調な時に流れに逆らった仕事をすることができたら、スバルの営業力もホンモノだと思うんですけどね……。

■元GT-R開発責任者・水野和敏の激白! 「大鉈」は必要あらば徹底的に振るう!

1999年の東京モーターショーに出展されたXVLが2001年6月、V35スカイラインになったのだがV6エンジンをフロントミドに搭載したプラットフォームこそ水野氏の開発によるものなのだ

 あの当時、スカイラインにかぎらず、日産のLサイズラグジュアリー車群は日本国内販売に専念していて、海外での商品力は考えておらず、とてもグローバルで勝負できるような仕様ではありませんでした。

 スカイラインとローレルは基本的には「同じクルマ」で、その上位にセドリック/グロリアがある。セド/グロはV6エンジンを搭載していましたが、従来の直列6気筒エンジンの代わりに搭載しただけで、V6エンジンのコンパクトさなどの利点を車両として活かしていたプラットフォームではありませんでしたし、この高級ラグジュアリークラスで海外に高級ブランド系列を作るという発想すらありませんでした。

 国内販売会社の意見中心のクルマづくりでした。同時期に存在していたローレルは、前述のようにスカイラインのラグジュアリーセダン版といった位置付けで、基本的なプラットフォーム仕様はスカイラインと共通で、1980年代終わり頃のパッケージングからほとんど進化していませんでした。

■グローバル化のために必要だったことは?

 1990年代初め頃レース活動で世界を転戦し、その後日産の全車両計画に従事した私は、高収益の「FR高級ラグジュアリーブランド戦略パッケージ」を独自に開発し、提案しました。しかし、社内の役員会などでは「このFF化やRV戦略を最重点活動としている時に、君はレースボケでなにを言っているのか!」と叱責され続けていました。

 そこに現われた救世主がカルロス・ゴーンさんでした。副社長のペラタさんも世界に向けたこの高級ラグジュアリーFRパッケージの商品力や先進性を理解してくれ、積極的に後押しをしてくれたことで、世間に私が提案することができたのが、後にV35スカイラインとして登場することになるV6エンジンをフロント・ミドシップに搭載した「FMプラットフォーム」です。

 私は特段、これを「大鉈」を振るったとは思ってはいませんが、古い伝統や神話・対・進化とグローバル商品力との戦いでした。

 FMプラットフォームの構想は前々から考えていたことでした。グローバル、特に北米で新規に認められるためには「室内空間やバランスの取れた乗り心地やスポーティなプロポーション」が必要ですし、欧州では「超高速域での高い操縦安定性や跳び抜けた空力性能や実用性」などが必要です。そのためにはフロントミドシップは最適の進化でした。長く重たい直列6気筒エンジンでは成立しないのです。

 BMWは直6エンジンを現在に至るまで残していますが、直6エンジンで50対50の前後重量配分を実現するために、エンジン、トランスミッションを思い切り後方にオフセットしたような搭載位置としています。そのためキャビンは全体的に後方に位置していますし、後席は後輪タイヤハウスに当たる位置にまで後方に位置しており、ボディサイズの小さい3シリーズなどでは後席空間はかなり犠牲になっていることがわかります。

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