2018年7月にホンダがN-VANを発売。N-BOXをベースとし、既存の軽商用バンとは異なる新感覚さが注目を集めた。
その特長のひとつは、センターピラーレス化により広いドア開口部を実現した点。N-BOXにはないユニークな形状だが、実は他にもN-BOXと異なる点がいくつかある。そのひとつが、スライドドアの開閉を行うドアハンドルの「向き」だ。
N-BOXが多くの乗用ミニバンと同じく、横向きのスライドドアハンドルを採用しているのに対し、N-VANは縦型のドアハンドルを採用。開発者によると、この形状には「理由」があると言う。
実は商用車に限ると縦型のスライドドアハンドルを採用している車は多い。登録車ではハイエース、NV350キャラバン、タウンエース、NV200バネット。軽自動車ではエブリイ、ハイゼットカーゴなど、いずれもスライドドアに縦型のドアハンドルを備えている。
なぜ、商用車には縦型のドアハンドルが根強く残っているのか? その背景には、プロが使う道具ならではの利便性が関係している。
文:渡辺陽一郎
写真:編集部、DAIHATSU、TOYOTA
プロの仕事支える手動スライドドアと縦型ハンドル
商用車のドアハンドルが縦向きに装着される理由は、開閉時に力を入れやすいからだ。商用バンのスライドドアには、ミニバンのような電動スライド機能がほとんど採用されず、手動式になるからドアハンドルも縦向きになった。
商用バンのスライドドアが手動式なのは、必ずしも価格を安く抑えるためだけではない。商用バンの開発者は「手動式には素早く開閉できるメリットもある」と指摘する。
スライドドアは開閉に多少の力を要するから、電動式が便利だが、開閉速度をあえて遅めにしている。子どもが乗車するミニバンなどで電動開閉速度を早めると、閉める時に恐怖心を抱いてしまう心配があるからだ。
ただし、ビジネスで使う商用バンでは、勢い良く閉めて作業を迅速に進めたい。そのために商用バンのスライドドアは手動式で、ドアハンドルは縦向き。電動式が中心のミニバンは、外観の見栄えも良い横向きになった。
ちなみに1982年に発売された日産の初代プレーリーは、後席側にスライドドアを採用したが、商用バンと同じくドアハンドルを縦向きに装着していた。これが1988年に発売された2代目では、横向きに変更されている。
三菱 RVRは1991年の初代、1997年の2代目ともに、後席側のスライドドアハンドルは縦向きに装着されていた。3代目の現行型は、スライドドアを廃止して横開きドアになる。
日産 エルグランドは1997年発売の初代、2002年の2代目ともに後席側のスライドドアハンドルが縦向きで、3代目の現行型で横向きに変わった。
乗用車では少数派! 縦型ハンドルを採用したユニーク車は?
ユニークなのは、横開き式のヒンジドアにも、ドアハンドルを縦向きに装着する車種があることだ。1988年に発売された3代目アルトの3ドアは、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)が当時の軽自動車ではかなり長い2335mmだった。そうなるとドアパネルの前後長も伸びるから、デザイン性も考えてドアハンドルを縦向きに装着した。
3代目アルトには3ドアボディの左右ドアをスライド式にした「スライドスリム」という仕様も用意され、ドアパネルの前側に縦長のドアハンドルを装着している。
このほか1986年に発売されたダイハツ リーザ、1990年のジェミニクーペ、翌年に発売されたジェミニ3ドアハッチバックなども、横開きのドアに縦向きのドアハンドルを組み合わせていた。
1990年発売の初代パネットセレナは、前側の横開きドア、後ろ側のスライドドアともに、ドアハンドルは縦向きになる。前後ともに縦向きになる車種は珍しい。
横開きドアで、ドアハンドルが縦向きに装着されていると、見栄えは良くても使い勝手が悪い。最も使用頻度が高いのは運転席側で、左側から右側へ開くから、一般的には右手を使う。この時にドアハンドルが縦向きに装着されていると、逆手で(右手の甲が車両の後ろ側を向くように)握らねばならない。これでは開閉しにくい。
そのために前席側のドアハンドルを縦向きに装着するデザインは長続きせず、早々に廃れた。前述の3代目アルトも、マイナーチェンジでドアハンドルを横向きに改めている。
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