■なぜ、スライドドア車が人気なのか?
このように今は軽自動車の比率が高く、そのなかでもスライドドアを備えた背の高い車種が人気で、販売ランキングの上位を占める。なぜここまで高い人気を得たのか。
過去を振り返ると、かつて後席側のドアをスライド式にした軽乗用車は、エブリイワゴンやアトレーワゴンといった軽商用車ベースのワゴンだった。初代タントなど純粋な軽乗用車は、後席側のドアも横開きであった。
流れを変えたのは2007年12月に発売された2代目タントだ。左右非対称のボディを備え、右側は前後ともに横開きドア、左側は後席側をスライド式にした。しかも中央のピラー(柱)をスライドドアに内蔵させ、前後のドアを両方とも開くとワイドな開口幅を得られた。
3代目の現行タントにも、このミラクルオープンドアは受け継がれ、なおかつ右側の後席ドアもスライド式にしている(ただし右側にはピラーが残る)。
スズキはタントに対抗するべく、2008年1月にパレットを発売して、一般的なスライドドアを後席の両側に装着した。パレットは2013年3月にフルモデルチェンジされ、車名を初代(先代)スペーシアに変えている。
2011年12月には初代N-BOXが発売され、2014年2月にはデイズルークスと三菱eKスペース、2016年9月にはムーヴキャンバスという具合に、スライドドアを備える軽乗用車が充実していった。
スライドドアを備えた軽自動車がヒットした背景には、複数の理由がある。まずはスライドドアが、軽自動車を使う多くのユーザーにとって、優れた利便性を発揮することだ。軽自動車には幼い子供を持つ家庭が多く、子供を抱え、荷物も持って乗り降りすることがある。
この時に後席側に電動スライドドアが装着されていれば、リモコンキーのスイッチ操作で自動的に開くことが可能だ。チャイルドシートは後席に装着するから、乗り降りがしやすく便利に使える。
後席が横開きドアでは、子供と荷物を降ろしてドアを開かねばならない。幼い子供は、降ろした次の瞬間に走り始める心配もある。スライドドアは使い方次第で安全にも繋がり、雨天時も濡れにくいから快適だ。
そしてスライドドアは、開閉時にドアパネルが外側へあまり張り出さないから、隣の駐車車両との間隔が狭くてもドアをぶつけにくい。
スライドドアを備えた軽自動車は、背が高いので、後席を小さく畳んで広い荷室が得られる。この時に後席側のドアがスライド式であれば、ボディの側面から荷物を積むことも可能だ。横開き式ドアでも90度近くまで開く車種があるが、スライドドアのほうが荷物の収納はしやすい。
またスライドドアを備えた軽自動車は、背の高いボディによって車内が広く、後席を畳むと大容量の荷室になるから自転車なども積みやすい。
子供が学習塾に自転車で出かけ、授業中に雨が振り始めると、親が迎えに出かけて子供と自転車を乗せて帰宅する。このニーズに適することも、背の高い軽自動車が人気を得た理由だ。
■軽自動車以外でもスライドドアが人気
以上がスライドドアを備えた軽自動車の機能的なメリットだが、人気を高めた理由はほかにもある。まず子育てを終えて3列シートを備えたミニバンが不要になり、軽自動車に乗り替える需要があることだ。今のミニバンは大半がスライドドアを備えるから、軽自動車もスライド式であれば馴じみやすい。
しかも今ではミニバンが普及を開始して20年以上を経過するため、幼少期からスライドドアに親しんだユーザーも増えている。ファミリーカーの定番スタイルとして、スライドドアを備えた背の高いボディが定着してきた。
例えばホンダであれば、軽自動車がN-BOX、コンパクトサイズはフリード、ミドルサイズはステップワゴン、Lサイズがオデッセイという具合に、スライドドア装着車が揃う。
2列シートのコンパクトカーでも、スライドドアを備えた背の高いトヨタルーミー&タンク、スズキソリオなどが好調に売れている。
スライドドアを備えた軽自動車については、ユーザーの満足感も影響している。後席のドアが横開き式では普通の軽自動車だが、スライドドアを装着すると、背が高いこともあって外観がミニバン風に見える。
N-BOXやスペーシアなど、ボディを真横から見ると、全幅の狭さと黄色いナンバープレートが隠れて軽自動車とは思えない。スライドドアを装着すると、外観が上級化されてクラスレス感覚も生じるから、ちょっとトクした気分も味わえる。
さらにいえば軽自動車特有の「箱庭感覚」も盛り上がる。今はすべての軽自動車が、全長は3395mm、全幅が1475mmという限られたサイズに、広い室内とさまざまな機能を詰め込んでいる。
シートアレンジ、収納設備、快適な空調システムなど多岐にわたり、スライドドアもそのひとつに位置付けられる。
いわば高機能なノートパソコンに似ている。薄型で持ち運びに便利だが、機能は据え置き型のデスクトップに劣らない。スライドドアを備えた軽自動車は、乗り降りがしやすいといった機能にとどまらず、感覚や情緒に訴える魅力もあるから定番の選択になった。
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