もはや定番? スライドドア付きの軽自動車が人気の秘密と意外な欠点

 ミニバンをはじめ、リッターカーから軽自動車に至るまで、日本ではスライドドア車が大人気。おそらく世界的にここまでスライドドア車をラインアップしているのは日本車メーカーだけでしょう。

 なかでも軽自動車のスライドドア車は、軽自動車の内40%を占め、人気の上位を占めています。2018年1月〜11月の軽自動車の新車販売台数を見ると、1位N-BOX、2位スペーシア、4位タントがスライドドア車で、3位のデイズにはデイズルークス、5位のムーヴにはムーヴキャンバスとスライドドア車は含まれており、非スライドドア車より販売比率が高い。

 いったいなぜ、ここまで軽自動車のスライドドア車は人気なのでしょうか? その人気の理由を探るとともに、軽のスライドドア車のメリット、デメリットのほか、意外な欠点などはないのか、モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が詳しく解説します。

文/渡辺陽一郎
写真/ベストカー編集部


■軽自動車販売全体の40%を占めるスライドドア車

 全国軽自動車協会連合会が毎月集計する販売統計を見ると、今は新車として売られるクルマの37%を軽自動車が占める。特に全高が1700mmを超えるスライドドアを備えた車種が人気だ。軽乗用車の内、40%以上がスライドドア装着車になる。

 この販売動向は、軽自動車の販売ランキングを見ても明らかだ。1位はスライドドアを備えたホンダN-BOXで(少数のN-BOXスラッシュを含む)、小型/普通車を含めた国内市場全体の販売ナンバーワンになっている。

■1位/ホンダN-BOX

軽自動車販売ナンバー1のN-BOXはスライドドアを採用。電動スライドドアは左側は標準装備(Gを除く)、右側はターボモデルが標準装備でそれ以外はメーカーオプション(Gを除く)

N-BOXカスタムのスライドドアを開けた状態。全高1790mm、室内高1400mm、スライドドア開口幅640mm

 2位のスズキスペーシアもスライドドアを備える。2017年12月に現行型へフルモデルチェンジされ、2018年の3月以降は、大半の月で2位に入った。2018年12月20日には、派生車種のスペーシアギアも加えたから、1位は難しいが2位は確固たるポジションになるだろう。

■2位/スズキスペーシア

2017年12月に発売されたスペーシア。ギアも加わり人気が再加速中だ。電動スライドドアはハイブリッドXのみ左右標準装備、ハイブリッドGは両側装着不可。パワースライドドアを閉めている途中に携帯リモコンでドアロックを予約できるパワースライド予約機能をハイブリッドXのみ標準装備。これはドアが閉まり切るまで待たなくてもいいから、降りた後の行動もスムーズ。またパワースライドドアの作動中に好きな位置で開閉をストップできるパワースライドドア一時停止機能をXに標準装備

センターピラーレスではない両側スライドドア。全高1785mm、室内高1410mm、スライドドア開口幅両側600mm

 3/4/5位は僅差で、日産デイズ(ルークスを含む)、ダイハツタント、ダイハツムーヴ(ムーヴキャンバスを含む)が並ぶ。

 3位のデイズの内、スライドドアを備えた全高が1700mmを超えるデイズルークスも好調に売れている。ただ現行デイズルークス/ekスペースは2014年2月とデビューから5年も経っていて少々古い。

 気になる次期デイズルークス/ekスペースのデビュー時期は、2019年3月に発表予定のデイズから遅れて1年後に登場する可能性が高い。

■3位/日産デイズ(デイズルークス)

日産と三菱の合弁会社NMKVが開発生産した、スライドドアをもつ日産デイズルークス、三菱ブランドはekスペース。写真はデイズルークス・ハイウェイスター。電動スライドドアは両側標準装備(Sグレードは左側のみ)

全高1775mm、室内高1400mm、スライドドア開口幅両側580mm

 タントは、スライドドアを備えた背の高い軽自動車の定番車種だ。現行型の発売は2013年10月と古いから今では売れ行きを下げたが、2014年(暦年)には先代N-BOXを抜いて小型/普通車まで含めた国内販売の1位になった。2019年10月には次期型にフルモデルチェンジする予定で、再び販売ナンバーワンに返り咲くかもしれない。

■4位/ダイハツタント

左側センターピラーレスの両側スライドドアを採用するタント。電動スライドドアは左側が標準装備(Lを除く)。右側はG“SA Ⅲ”が標準装備。それ以外のグレードはメーカーオプション(Lを除く)

全高1750mm、室内高1365mm、スライドドア開口幅は左側1490mm、右側595mm

 ムーヴについても、今はスライドドアを備えたムーヴキャンバスの販売比率が高い。ムーヴキャンバスの全高は1655mmだから、スライドドアを備えた軽乗用車では唯一、1700mmを下まわり、丸みのある外観とスライドドアの組み合わせで人気を得た。

■5位/ダイハツムーヴ(ムーヴキャンバス)

30歳前後のファミリー層をメインターゲットにしたムーヴキャンバス。電動スライドドアは両側がG“メイクアップSA Ⅲ”、G“SA Ⅲ”、X“リミテッドメイクアップSA Ⅲ”、X“リミテッドSA Ⅲ”に標準装備。それ以外のグレードは装着不可。また電動スライドドアには予約ロック機能を採用(L“SA Ⅲ”を除く全車に標準装備)

全高1700mm以下の軽自動車としては初めて両側スライドドアを採用する。全高1655mm、室内高1285mm、スライドドア開口幅両側595mm

■なぜ、スライドドア車が人気なのか?

 このように今は軽自動車の比率が高く、そのなかでもスライドドアを備えた背の高い車種が人気で、販売ランキングの上位を占める。なぜここまで高い人気を得たのか。

 過去を振り返ると、かつて後席側のドアをスライド式にした軽乗用車は、エブリイワゴンやアトレーワゴンといった軽商用車ベースのワゴンだった。初代タントなど純粋な軽乗用車は、後席側のドアも横開きであった。

 流れを変えたのは2007年12月に発売された2代目タントだ。左右非対称のボディを備え、右側は前後ともに横開きドア、左側は後席側をスライド式にした。しかも中央のピラー(柱)をスライドドアに内蔵させ、前後のドアを両方とも開くとワイドな開口幅を得られた。

初代同様、90度近く開く各ドアに加え、助手席側に軽自動車初となるセンターピラーレスとスライドドアを組み合わせたミラクルオープンドアが採用された2代目タント

 3代目の現行タントにも、このミラクルオープンドアは受け継がれ、なおかつ右側の後席ドアもスライド式にしている(ただし右側にはピラーが残る)。

 スズキはタントに対抗するべく、2008年1月にパレットを発売して、一般的なスライドドアを後席の両側に装着した。パレットは2013年3月にフルモデルチェンジされ、車名を初代(先代)スペーシアに変えている。

 2011年12月には初代N-BOXが発売され、2014年2月にはデイズルークスと三菱eKスペース、2016年9月にはムーヴキャンバスという具合に、スライドドアを備える軽乗用車が充実していった。

 スライドドアを備えた軽自動車がヒットした背景には、複数の理由がある。まずはスライドドアが、軽自動車を使う多くのユーザーにとって、優れた利便性を発揮することだ。軽自動車には幼い子供を持つ家庭が多く、子供を抱え、荷物も持って乗り降りすることがある。

 この時に後席側に電動スライドドアが装着されていれば、リモコンキーのスイッチ操作で自動的に開くことが可能だ。チャイルドシートは後席に装着するから、乗り降りがしやすく便利に使える。

 後席が横開きドアでは、子供と荷物を降ろしてドアを開かねばならない。幼い子供は、降ろした次の瞬間に走り始める心配もある。スライドドアは使い方次第で安全にも繋がり、雨天時も濡れにくいから快適だ。

 そしてスライドドアは、開閉時にドアパネルが外側へあまり張り出さないから、隣の駐車車両との間隔が狭くてもドアをぶつけにくい。

 スライドドアを備えた軽自動車は、背が高いので、後席を小さく畳んで広い荷室が得られる。この時に後席側のドアがスライド式であれば、ボディの側面から荷物を積むことも可能だ。横開き式ドアでも90度近くまで開く車種があるが、スライドドアのほうが荷物の収納はしやすい。

 またスライドドアを備えた軽自動車は、背の高いボディによって車内が広く、後席を畳むと大容量の荷室になるから自転車なども積みやすい。

 子供が学習塾に自転車で出かけ、授業中に雨が振り始めると、親が迎えに出かけて子供と自転車を乗せて帰宅する。このニーズに適することも、背の高い軽自動車が人気を得た理由だ。

■軽自動車以外でもスライドドアが人気

 以上がスライドドアを備えた軽自動車の機能的なメリットだが、人気を高めた理由はほかにもある。まず子育てを終えて3列シートを備えたミニバンが不要になり、軽自動車に乗り替える需要があることだ。今のミニバンは大半がスライドドアを備えるから、軽自動車もスライド式であれば馴じみやすい。

 しかも今ではミニバンが普及を開始して20年以上を経過するため、幼少期からスライドドアに親しんだユーザーも増えている。ファミリーカーの定番スタイルとして、スライドドアを備えた背の高いボディが定着してきた。

 例えばホンダであれば、軽自動車がN-BOX、コンパクトサイズはフリード、ミドルサイズはステップワゴン、Lサイズがオデッセイという具合に、スライドドア装着車が揃う。

 2列シートのコンパクトカーでも、スライドドアを備えた背の高いトヨタルーミー&タンク、スズキソリオなどが好調に売れている。

 スライドドアを備えた軽自動車については、ユーザーの満足感も影響している。後席のドアが横開き式では普通の軽自動車だが、スライドドアを装着すると、背が高いこともあって外観がミニバン風に見える。

 N-BOXやスペーシアなど、ボディを真横から見ると、全幅の狭さと黄色いナンバープレートが隠れて軽自動車とは思えない。スライドドアを装着すると、外観が上級化されてクラスレス感覚も生じるから、ちょっとトクした気分も味わえる。

 さらにいえば軽自動車特有の「箱庭感覚」も盛り上がる。今はすべての軽自動車が、全長は3395mm、全幅が1475mmという限られたサイズに、広い室内とさまざまな機能を詰め込んでいる。

 シートアレンジ、収納設備、快適な空調システムなど多岐にわたり、スライドドアもそのひとつに位置付けられる。

 いわば高機能なノートパソコンに似ている。薄型で持ち運びに便利だが、機能は据え置き型のデスクトップに劣らない。スライドドアを備えた軽自動車は、乗り降りがしやすいといった機能にとどまらず、感覚や情緒に訴える魅力もあるから定番の選択になった。

■スライドドアの意外な欠点とは?

ドアを開けた瞬間、子供が勢いよく飛び出していく場合もあるので注意が必要だ

 しかしスライドドアには欠点もある。最も注意したいのは子供の飛び出しだ。横開き式ドアでは、開いた時でも斜め前方がドアパネルで塞がれるから、飛び出しがしにくい。

 これがスライドドアでは前方も側方も開放されるから、飛び出しを誘発しやすい。スライドドアの優れた乗降性が、事故原因になるわけだ。

 しかもスライドドアは、開いた時でもドアパネルが外側へあまり張り出さない。路上駐車をしている時など、ドアが開いても脇を走る車両から分かりにくいため、飛び出し事故の危険を一層高めてしまう。

 幼い子供でも「安全と危険」に対する理解度は意外に高い。スライドドアの危険をていねいに説明して、勝手にドアを開けないように注意したい。チャイルドセーフティドアロックを利用する方法もある。

■乗降性は車種によって違う。開口幅の狭い車種もある

 スライドドアの乗降性は、車種による違いに注意したい。軽自動車の場合、スライドドアの開口幅が狭い車種も見られるからだ。

 開口幅は、タントがセンターピラーレスの左側が1490mm、右側が595mm。N-BOXは640mmの余裕があるが、スペーシアは600mm、ムーヴキャンバスは595mm、デイズルークス/eKスペースは580mmという具合に狭くなる。

 大柄な同乗者が後席の乗り降りする場合、開口幅が580mmでは少し狭く、体を捩る必要が生じることもあるだろう。

■車両重量が重い、燃費が悪いというデメリットもある

 スライドドアを備えた軽自動車は、背が高いこともあって車両重量が重い。スライドドアは手動式だと体力が必要で、子供を抱えている時も不便を感じる。少なくとも左側には電動式が欲しいから、車両重量が一層増えてしまう。

 例えばスズキのワゴンRとスライドドアを備えたスペーシアを同等のグレード同士で比べると、スペーシアが80〜90kg重い。この違いは動力性能と燃費に悪影響を与える。マイルドハイブリッドを搭載するワゴンRのJC08モード燃費は33.4km/Lだが、スペーシアは28.2km/Lに下がる。

■スライドドア車は片側5万円アップ、両側だと20万円の上乗せ!

 価格も異なる。装備の違いを補正して、スライドドアを備えた全高が1700mm以上の軽自動車は、1700mm以下の横開きドアの車種に比べて10万円は高い。スライドドアの電動機能は片側で約5万円だから、両側に装着された仕様を選ぶと合計20万円の上乗せだ。

 もっともこの価格差は、高い天井による車内の広さ、後席を畳んで自転車なども積める機能を考えれば、割安といえるだろう。今は前述のようにスライドドアを備えた背の高い軽自動車が売れ筋で、激しい競争を展開している。その結果、全高が1700mm以下の軽自動車に比べて、10万円程度の価格上昇に落ち着いたのだ。

 標準ボディに左側スライドドアの電動機能などを装着した買い得グレードは、N-BOXからデイズルークスまで、140万〜150万円の狭い価格帯に集中する。

 N-BOXのG・Lホンダセンシングは、先進的な緊急自動ブレーキと実用装備を充実させて、価格を149万9040円とした。ライバル車との競争を考えると、150万円の壁は超えられないのだ。

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