■トルクは1回転するための力で、パワーは1秒間のトータルな力
パワーとトルク、この表示だけ見れば、どちらもエンジンの力強さを表していて、トルクのほうが発生回転数が低いので、トルクは低回転域の性能と思われてしまうかもしれない。
実は、このパワーとトルクの表記は似ているようで、全然違う。そこを理解しないと、この両者の違いも理解できないのだ。
パワーは1秒間の仕事量なので、エンジン回転数が倍になれば燃焼の回数も倍になるので自然と高まるのだ。例えば同じトルクを発生していれば、回転数が倍になれば、パワーは2倍になる。同じギアなら速度も倍近くになる。
一方、トルクはエンジンが1回転する時の力の強さだ。同じrpmという単位で表しているから、ややこしいがこれはその回転数での一瞬の状態という意味。
つまりクルマが加速していく時にエンジン回転を上昇させる勢い、あれがトルクなのである。トルクが足りなければ、車重や空気抵抗などに負けて、エンジンの回転はなかなか上がっていかない。
そのため、加速する時にはギアをシフトダウンしてエンジン回転数を上げるとともに、変速機で回転数を落としてトルクを増幅するのである。
自分がエンジンになる自転車に置き換えてみよう。ペダルを踏み込む力が「エンジンが発生するトルク」だ。そのままある程度の回転までクランクを回して得られたスピード(移動量)がパワーということ。
踏み込む力が弱くても、ギアを軽くしてそのぶん速くクランクを回転させれば同じスピードに達する、つまり同じパワーを得ることができるのだ。
トルクが細いエンジンでも回転数が伸びれば、燃焼回数を増やすことでパワーを高められる。かつてのF1などの自然吸気レーシングエンジンが高回転化していったのもこの方法で、ショートストローク型とするとトルクを稼ぎにくいが、燃焼回数を増やすことでパワーを上げられる。
変速機は回転数とトルクをトレードオフする変換装置だから、トルクが細い高回転型のエンジンに低いギア比を組み合わせれば、結果としてクルマを強力に引っ張って加速させることができるのだ。
ただし、極端にいえばエンジンの回転数が倍になっているということは、実質的な排気量も倍だということ。しかもエンジン内部の摩擦抵抗は増えるし、冷却損失なども増えてしまうため、燃費は悪化する。
ついでにいえばエンジンのトルクを増幅しているのは変速機の仕事だけではない。エンジンから変速機に伝えられた駆動力(トルク)は、各段の変速だけでなく、変速機内部の伝達によっても減速とトルクの増幅が行なわれている。
左右の駆動輪に伝えるためのデフギアもリングギアが駆動力を受け取る時点で最終減速として、トルクの増幅が行なわれる。最終的にはタイヤの外径も減速比の1つと思っていい。
■トルク特性を高めるため、様々な技術が盛り込まれる
もちろん高回転型のエンジンを実現するための技術は素晴らしいものだし、コンパクトなパワーユニットを実現できることも高回転化のメリットだ。トルクが細くても高回転で発生するなら、パワーを高められる。
しかし実用性を考えると発進時には十分なトルクがないと加速が悪く、それをカバーするために変速機の減速比を低めにすると、燃費は悪くなってしまう。
だから量産車のエンジンにとって理想的なのは、低速から十分にトルクがあって、それが比較的高回転まで維持できる、緩やかに幅広い回転数域で豊かなトルクを発生することなのだ。
ホンダのVTECやトヨタのVVT-iといった可変バルブタイミング機構は、1つのエンジンで吸排気バルブの開閉するタイミングを変えることで、低回転域と高回転域では異なる最適なバルブタイミングを両立させることで、幅広い回転数域で豊かなトルクを実現するメカニズムなのだ。
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