【馬力重視のクルマ選びに喝!】トルク特性が大切だって知ってましたか?

 最高出力と最大トルク。クルマ好きなら誰もが気にしますよね。でもクルマの動力性能を比較する時、真っ先に見るのは最高出力で、最大トルクは二の次というか、最高出力ほど重視されていないようです。クルマの速さ=最高出力と認識している人が多いのではないでしょうか。

 実は最高出力より、最大トルクのほうが重要ということを知っていましたか? それはなぜなんでしょう? そもそも最高出力と最大トルクとの違いなど基本的なことから、モータージャーナリストの高根英幸さんに解説してもらいましょう。

文/高根英幸
写真/ベストカー編集部 Adobe Stock


■エンジンにとって本当に大事なのはトルク!!

かつて日本には行政指導によって生まれた280馬力自主規制というものがあった。1989年7月発売当時、最も最高出力の高かったZ32型フェアレディZの280psが自主規制値とされた。280馬力自主規制は2004年に撤廃

 クルマの動力性能を比較する時に一番気になるのは馬力、いわゆる最高出力だろう。そのエンジンが最もパワーを発揮するのは何回転で回っている時なのか、またそれは何馬力なのか。自動車メーカーも排気量と最高出力を強調して高性能ぶりをアピールすることが多い。

 しかし残念ながら、それは実用上はあまり意味がないのだ。我々が力強いと思っている加速力は、実はパワーではなくトルクなのだから。

 エンジンの性能を示すパワーとトルクというこの2つの数値、それぞれが別の性能を表していると思っている人も多い。パワーが最高速度に関係するもので、トルクは低速域での力強さを示すものと捉えている人も多いように感じる。

 我々自動車評論家、自動車雑誌、自動車WEB媒体が、高速域ではパワー、トルクは低回転域での性能を表現する時に使っていることが多いことから、そうした誤解が生まれているのかもしれない。

 かつて日本には280馬力自主規制というものがあり、これがこうした馬力神話を作ってしまった原因のひとつかもしれない。

 しかし、ここで認識を改めていただきたい。パワーとトルクは実は同じものだ。ただし全く同じ、という訳ではない。パワーはトルクとエンジン回転数から求められた値だ。実際にエンジンやクルマのパワーをチェックする場合は、シャーシダイナモを使って発電機や液体ポンプをタイヤで駆動し、その発電量や液量によってパワーを計測している。

 トルクは、エンジンの回転数とタイヤの回転数の差からトータルの減速比を算出し、それとエンジン回転数によって、パワーから計算されている。高速で回転しているタイヤが回転する力を取り出すことが難しいから、実際には力がまとまった状態であるパワーを計測してトルクを算出しているが、トルクこそがタイヤを回す力そのものなのだ。

■馬力とトルクの表記を改めて確認する

白線がトルク曲線、青線が最高出力曲線(WRX STIのエンジン性能曲線)

 まずは、その最高出力と最大トルクの表記から解説していこう。最高出力は120ps/4500rpm、または100kW/4500rpmというように表記されている。

 psは従来の単位でいわゆる馬力、1秒間に75kgの物体を1m持ち上げる仕事が1psだ。kWは国際規格で定められている出力の単位で、1psは0.7355kW。国際単位に統一するというのが原則なのだが、クルマの場合は分かりやすいように従来のps表記も用いられている。

 後ろに付くrpmはレボリューション・パー・ミニッツの略で、毎分の回転数を表している。つまり120ps/4500rpmは、エンジンが1分間に4500で回っている時に、全負荷状態では120psを発生することを意味する。

 それに対して最大トルクは40kgm/2500rpm、または350Nm(ニュートンメーター)/2500rpmというように表記される。

 これも前者が従来の表記で、後者が国際規格だ。こちらも毎分2500回転で回っている時の力の強さを表したもので、kgmというのは長さ1mの棒をテコにして力を入れた時の大きさ。

 40kgmは、40kgの重りを1mの棒の先にぶら下げているのと同じ力だ。1kgは9.8Nだから、ほぼ10倍すればNmに換算できる。

 パワー(Power)はラテン語のposse(~できる)が語源だと言われている。つまり仕事量を量るものだ。トルクもラテン語のtorque(ねじれ)から来ているもので、捩る力(ねじりモーメント)を現わす。

 ちなみにpsはフランスで制定された力の単位で、他にもイギリスのbhp(hp)もあるが、1psは0.98hpなので、ほぼ同等と思っていていい。

■トルクは1回転するための力で、パワーは1秒間のトータルな力

最高出力は高回転域の性能? 最大トルクは低回転域の性能?

 パワーとトルク、この表示だけ見れば、どちらもエンジンの力強さを表していて、トルクのほうが発生回転数が低いので、トルクは低回転域の性能と思われてしまうかもしれない。

 実は、このパワーとトルクの表記は似ているようで、全然違う。そこを理解しないと、この両者の違いも理解できないのだ。

 パワーは1秒間の仕事量なので、エンジン回転数が倍になれば燃焼の回数も倍になるので自然と高まるのだ。例えば同じトルクを発生していれば、回転数が倍になれば、パワーは2倍になる。同じギアなら速度も倍近くになる。

 一方、トルクはエンジンが1回転する時の力の強さだ。同じrpmという単位で表しているから、ややこしいがこれはその回転数での一瞬の状態という意味。

 つまりクルマが加速していく時にエンジン回転を上昇させる勢い、あれがトルクなのである。トルクが足りなければ、車重や空気抵抗などに負けて、エンジンの回転はなかなか上がっていかない。

スーパースポーツは特に最高出力だけに目がいきがちだが……

 そのため、加速する時にはギアをシフトダウンしてエンジン回転数を上げるとともに、変速機で回転数を落としてトルクを増幅するのである。

 自分がエンジンになる自転車に置き換えてみよう。ペダルを踏み込む力が「エンジンが発生するトルク」だ。そのままある程度の回転までクランクを回して得られたスピード(移動量)がパワーということ。

 踏み込む力が弱くても、ギアを軽くしてそのぶん速くクランクを回転させれば同じスピードに達する、つまり同じパワーを得ることができるのだ。

 トルクが細いエンジンでも回転数が伸びれば、燃焼回数を増やすことでパワーを高められる。かつてのF1などの自然吸気レーシングエンジンが高回転化していったのもこの方法で、ショートストローク型とするとトルクを稼ぎにくいが、燃焼回数を増やすことでパワーを上げられる。

 変速機は回転数とトルクをトレードオフする変換装置だから、トルクが細い高回転型のエンジンに低いギア比を組み合わせれば、結果としてクルマを強力に引っ張って加速させることができるのだ。

 ただし、極端にいえばエンジンの回転数が倍になっているということは、実質的な排気量も倍だということ。しかもエンジン内部の摩擦抵抗は増えるし、冷却損失なども増えてしまうため、燃費は悪化する。

 ついでにいえばエンジンのトルクを増幅しているのは変速機の仕事だけではない。エンジンから変速機に伝えられた駆動力(トルク)は、各段の変速だけでなく、変速機内部の伝達によっても減速とトルクの増幅が行なわれている。

 左右の駆動輪に伝えるためのデフギアもリングギアが駆動力を受け取る時点で最終減速として、トルクの増幅が行なわれる。最終的にはタイヤの外径も減速比の1つと思っていい。

■トルク特性を高めるため、様々な技術が盛り込まれる

 もちろん高回転型のエンジンを実現するための技術は素晴らしいものだし、コンパクトなパワーユニットを実現できることも高回転化のメリットだ。トルクが細くても高回転で発生するなら、パワーを高められる。

 しかし実用性を考えると発進時には十分なトルクがないと加速が悪く、それをカバーするために変速機の減速比を低めにすると、燃費は悪くなってしまう。

 だから量産車のエンジンにとって理想的なのは、低速から十分にトルクがあって、それが比較的高回転まで維持できる、緩やかに幅広い回転数域で豊かなトルクを発生することなのだ。

 ホンダのVTECやトヨタのVVT-iといった可変バルブタイミング機構は、1つのエンジンで吸排気バルブの開閉するタイミングを変えることで、低回転域と高回転域では異なる最適なバルブタイミングを両立させることで、幅広い回転数域で豊かなトルクを実現するメカニズムなのだ。

■エンジンにとって重要なのはトルク特性!

 つまり重要なのはトルク特性、ということだ。最大トルクの発生回転数と最高出力の回転数の幅が広いほど、いわゆるパワーバンド(本当はトルクバンド)が広い優れたエンジンだということができる。

 ターボ車で最大トルクを幅広い回転数域で発生するクルマもある。あれはターボの能力を制限して、ピークをあえて抑えて幅広い回転数域で同じトルクを発生するようにセッティングしているのだ。乗りやすく、なおかつ燃費も向上させる自動車メーカーならではのチューニングなのである。

 エンジンにとって燃費が良い領域は、最大トルクを発生する全負荷状態ではなく、適度な負荷が掛かった低回転域。だから排気量が大きくてもトルクが太いアメ車は1000rpm程度の低回転で高速をクルージングすれば、かなり燃費がいい。ゴーストップの多い日本では燃費は良くないが、北米では渋滞に遭わなければ、比較的燃費がいいのである。

■幅広い回転域で一定のトルクを発生する電気モーター

電流量アップとインバーター性能の強化により、標準車よりも68psと20Nmアップの最高出力218ps、最大トルク340Nmを発生するリーフe+

 ちなみにモーターは効率が極めて高く、幅広い回転数域で一定のトルクを発生できる。高回転になると効率が落ちるためトルクが下がっていくが、エンジンと比べると幅広い回転数域で安定したトルクを発生できる。

 しかも回転数が上昇しても、負荷が増えなければエンジンのように燃費(電費)が悪くならない。そのためトルクを増やすための減速機は備えても、速度域に応じて回転数とトルクを調整する変速機は必要ないのである。

 モーターのトルク感溢れる加速も、これはこれでおもしろいし。クルマの新たな可能性を感じさせてくれる。けれどもエンジンのもつ回転上昇に連れて高まり、やがて落ち着いてくるトルク感の抑揚は、昔ながらのクルマ好きにとっては、なんとも味わい深いものだ。

 こうしたエンジンのフィーリングがいつまで味わえるか分からなくなってきたからこそ、エンジンという人類が発明した素晴らしい機械を楽しもうではないか。

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