ベストカー創刊45年記念 徳大寺有恒の名車試乗記プレイバック&「あの頃の編集部」

■ホンダ 初代NSX

●NSXはきわめて論理的で理性的だ

(前略)

 私はNSXはスーパーカーではないと思う。スーパーカーという類のクルマは、結局のところイタリア以外ではでき得ないのではないだろうか。

 スーパーカーをもし定義づけるならば、“過剰”だろう。性能もスペックもスタイルも、そのパフォーマンス(この場合社会的な意味も含めて)もすべてが過ぎたるものでなければならない。そこには合理の正義が大手を振ってまかりとおれないものがある。

 5L、V12、こいつはエンジンを選ぶためのエンジンだ。その点NSXははるかに利口だ、合理的だ。しかし、この過剰こそスーパーカーの資質だ。スタイルだってそうだ。過剰のうえにも過剰。テスタロッサの、ディアブロのそれを見ればわかる。348にもそいつは脈打っている。

 こういうスタイルの前には視界という自動車にとって重大な機能もないがしろにできる。これこそスーパーカーのものなのである。

 これらのスーパーカーに比べればNSXはきわめて論理的で理性的だ。むろんそれは実用性につながろう。

 だから、スーパーカーは普通の人間は乗らないものだ。まっとうな人間はあの種のクルマに乗らないし、乗れないのだ。

(中略)

 てなわけで、初めて路上を経験したNSXについては書きたいことは山とある。そのために私はこのクルマを購入し、そいつを随時報告できると思う。NSXは買いか。もちろんと答える。800万円は大いに高いが、安い。

(中略)

 正直にいって私は、この日本でこんなクルマができると思わなかった。技術的にも、あるいは経営という面から考えても、こういうクルマのゴーサインはきわめて出にくいものだ。

 最後にスポーツカーはまだ可能性を残している。NSXはそれを見事に証明している。“カッコ、もうちょっと何とかならないか”といいたいNSXの最大の美点はそこにある。(1990年10月26日号)

スタイルは好きではなかったようだが、初代NSXも購入して魅力を探求した
スタイルは好きではなかったようだが、初代NSXも購入して魅力を探求した

■『徳大寺さんとの濃密な時間は今の自分に大きな影響を与えた』国沢光宏

●自動車評論家・レーシングドライバー/在籍期間:1981~1982年

 ベストカーの思い出といえば、やはり徳大寺師匠との日々でございます。

 そもそも私がベストカー編集部員になったのは、当時飛ぶ鳥もバタバタ落ちたという徳大寺師匠の引っ張りによるもの。当然ながら徳大寺担当を仰せつかる。「原稿仕上がったぞ」と連絡来たらホテル・グランドパレスへ行き編集部に飛んで帰り、ギョウカイでは有名な徳大寺文字(おそらく普通の人には解読不能)を読めるようにして入稿。

 はたまた海外出張となればグランドパレスまでお迎えに行き「国沢、時間がない。全開だ!」。帰国となれば成田まで行き東京まで「国沢、次の約束がある。全開だ!」。その間、いろんなクルマの話をしてくれる。海外での話も楽しかった~。ミシェル・ムートンが運転するWRC仕様のアウディ・クワトロの話なんかワクワクしっぱなし。当時、世界の最先端の情報を私は持っていた(笑)。クルマ好き冥利に尽きる!

 新型車の試乗会は編集担当&運転手として一緒に行く。試乗後、自動車メーカーの技術者と乗ったクルマの話をするのだけれど、いいクルマだった時は超上機嫌! デキがよくなかった時は不機嫌になり、言いたいことを言いまくる。このあたり今の私の原点になってます。そして必ずハンドルを握るチャンスを作ってくれ「国沢、全開だ!」。私が独立して試乗を御一緒させていただく時も、この流れは変わりませんでした。

 当時のベストカーは月刊誌。1カ月の3分の1が企画や取材の準備などでヒマ。3分の1が取材などで不規則。残り会社に24時間雪隠になるという日々だったものの、徳大寺師匠のおかげで厳しい修行も耐えられたような気がする。もちろん師匠は何に対しても怒るような機嫌の悪い日もたくさんあったけれど、不思議なことに尊敬する人って辛抱できる。私は師匠のレベルにはとうてい届かないな、と思う日々です。

当時のベストカー編集部の1コマから
当時のベストカー編集部の1コマから

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