経済産業省は2023年7月11日、モビリティ水素官民協議会の中間とりまとめを公表した。同協議会は、行政と自動車メーカー、水素インフラ企業、物流事業者などの関係者で構成され、2022年9月よりモビリティにおける水素の普及に向けた検討を行なってきた。
水素燃料電池車は特にトラックなど商用車の領域で高いポテンシャルを秘めているとされるが、需要・インフラ・普及台数などの見通しが不明であるため現状では関係者が「三すくみ」の状態にあるという。
中間とりまとめでは、この状況を打破するために需要や水素の供給コストなど共通認識を確認するとともに、予算拡充や大型トラックの規制緩和などにも踏み込んでいる。経産省は今年度中を目処に最終報告を取りまとめる予定だ。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
図・写真/経済産業省・フルロード編集部・いすゞ自動車・トヨタ・Nikola Motor・現代商用車・AB Volvo・Daimler Truck
関係者が「三すくみ」となっている日本の現状
日本政府は2050年までのカーボンニュートラル実現を表明している。2020年度の国内のCO2排出量は10億4400万トンで、運輸部門が17.7%を占めた。15.5%は自動車が排出しており、そのうち商用車分は4.3%だった。脱炭素に向けて早急な対応が必要となる。
運輸部門の脱炭素化では、走行距離が長く電気自動車(BEV)では対応できない領域(主に商用車領域)において、各国が燃料電池(FC)技術に注目し始めている。
特に欧米は大型商用車のゼロ・エミッション化に向けて高い目標を掲げ、燃料電池車両(FCV)や水素インフラといった分野への投資を拡大しているほか、乗用車の電動化で先行した中国は、FC技術においても積極的な実証・導入を進めている。
2017年に世界に先駆けて水素基本戦略を策定した日本は、FCスタックや高圧水素タンクなどにアドバンテージを持っている。ただ、水素モビリティにおいて中心的な役割を果たすとみられる大型商用車領域で海外の技術が進展し、日本の技術的優位が失われつつある。
日本の水素戦略が停滞している背景として、協議会はステークホルダー(関係者)が次のような「三すくみ」の状態になっていることを挙げている。
●自動車メーカーは、運送会社の需要見込みがないと車両を開発できない
●運送会社は、水素インフラが整わないと運行できない
●インフラ企業は、FCVが市場投入されないと水素供給の見込みが立たない
この三すくみ状態により、それぞれに投資計画が立てられないのが現状だという。
2023年6月に水素基本戦略の改定があったことも踏まえて、協議会は三すくみ状態の打破に向けて、各業界が一定の前提の元に将来の見通しとFC商用車の普及に向けた課題を共有するべく、この度、中間とりまとめを公表した。
なお、FC技術のステークホルダーからなるモビリティ水素官民協議会のメンバーは、供給側として岩谷産業、エアリキード、エネオス、東京ガスなど、自動車メーカーとしてトヨタ、いすゞ、ホンダ、ふそう、CJPTなど、物流会社としてヤマト運輸、佐川、トナミ、コンビニ各社など、荷主企業としてイオン、アマゾンジャパンなど、行政としては経産省、国交省、環境省、地方自治体として東京都などが参加している。