なぜトヨタはハイブリッドをタダで他社に譲るのか?

■【アナリスト中西孝樹氏が徹底分析】トヨタHV戦略の狙いはどこにあるのか?

株式会社ナカニシ自動車産業リサーチ代表アナリスト。オレゴン大学卒。東京証券や山一証券、J.P.モルガン証券など証券会社と資産運用会社の双方で幅広い経験を積んだ経歴を持つ
株式会社ナカニシ自動車産業リサーチ代表アナリスト。オレゴン大学卒。東京証券や山一証券、J.P.モルガン証券など証券会社と資産運用会社の双方で幅広い経験を積んだ経歴を持つ

 続いては、今回のトヨタの特許無償提供を専門家はどのように分析しているのか。証券会社や資産運用会社でのアナリスト経験を持つ「ナカニシ自動車産業リサーチ」代表アナリストの中西孝樹氏に私見を伺った。

文/ナカニシ自動車産業リサーチ 代表アナリスト中西孝樹


 トヨタ方式のTHSIIは市場で圧倒的に強く、ほかのメーカーが追随しきれていません。非常に優秀なパワートレーンなのでGMもフォードもやろうとしたし、欧州メーカーも2モーターを使うハイブリッドを使って挑戦しましたが、結果的に脱落しました。

 そういったなかでトヨタの持っている技術をベースにしたハイブリッドの仕組みというのは、世界の電動化の流れからは若干孤立した状況になっているワケです。スケールとマーケットはほぼ国内に限定されていますから。

 現状、一部の地域に偏っていますから、最もトヨタが意識している仲間はどこかというと中国なんです。ハイブリッドをこれまで研究し、トヨタとも共同開発を行い、環境技術の切り札のひとつとして中国は取り組んできたのですが、習近平政権になってから政策が変わりました。

 中国は現在NEV(新エネルギー車)を国家戦略の中心に置き、ハイブリッドに対しては優遇どころかクレジット的には劣遇状態です。ですから中国はピュアEVとかPHVにいってしまった。

 そこで中国が何を考えたかということを理解するのが重要なのですが、ハイブリッドについて非常に有望な技術だと思って調べた結果、同時にその難しさを認識したワケです。

■中国メーカーはいいエンジンが作れないのでEVやPHVに!?

 まずはいいエンジンを作ることが必要で、中国はまだまだ遅れています。いいエンジンを作ったうえでそこにモーターの制御を重ねるのですが、これが非常に複雑な制御でしてその部分の技術も中国は遅れています。

 中国がハイブリッドを調べ尽くしたうえで出した結論は「そこ(ハイブリッド)で戦ったら自分たちは絶対に追いつかない。負ける」と。

 決してエンジンやモーター制御を諦めたのではないのですが、まずはEVを優先しようということでNEV戦略に走ったワケです。

 やはりトヨタにしてみれば中国を取り込めなかったのは大きな挫折だったのでしょう。それ以来、トヨタのハイブリッドはガラパゴスであると言われ続けてきました。

 現状ではいい電池(全固体電池)を作る技術はありませんが、地球上にある資源、レアアースにはかぎりがあって今の電池を使うのならレアアースを多く使わないといけないので枯渇してしまいます。

 それを配慮すれば効率のいい電池ができるまではハイブリッドを使えばいいと。EV1台分のレアアースで100台のハイブリッド車が作れるワケですから。そのほうが地球の資源は節約できますし、ライフサイクルで考えたらC02の排出量も少ない。

 トヨタの哲学は「普及してこそ環境技術」と言い続けてきて、その普及を妨げたものはなんだったのかというと、技術そのものの難しさもありますが、それよりも特許をおさえてしまったことなんです。

 インバーター、モーター、プラネタリーギアの遊星歯車という3つの特許をトヨタがおさえたことで、ただでさえ高いシステムなのにトヨタの特許を使えばさらに高くなる。

 それを避けるといいハイブリッドはできないのですが、目先の燃費規制をクリアするためにEVに走り始めている状況です。しかし、これだと資源枯渇で地球環境を破壊する可能性もあります。

 簡単に言ってしまえば、トヨタはやはり戦略を間違えたんですよ。逆に言うと、ここまでひとり勝ちになるとは当時のトヨタ自身も思っていなかったと。

 VWのディーゼルゲート問題でディーゼルの競争力が落ち、規制はどんどん厳しくなっていく。そうなるとメーカーとしてはゼロからハイブリッドをやるより、EVの方が手っ取り早い。

 こうなると世界はトヨタが有利にならないようなルールを決めます。それが米国カリフォルニア州のZEVとか中国のNEVです。

次ページは : ■トヨタはもっと早くすべきだった

新車不足で人気沸騰! 欲しい車を中古車でさがす ≫

最新号

S-FR開発プロジェクトが再始動! 土屋圭市さんがトヨタのネオクラを乗りつくす! GWのお得情報満載【ベストカー5月26日号】

S-FR開発プロジェクトが再始動! 土屋圭市さんがトヨタのネオクラを乗りつくす! GWのお得情報満載【ベストカー5月26日号】

不死鳥のごとく蘇る! トヨタS-FR開発計画は再開していた! ドリキンこそレジェンドの土屋圭市さんがトヨタのネオクラシックを一気試乗! GWをより楽しく過ごす情報も満載なベストカー5月26日号、堂々発売中!