まさに青天の霹靂といってもいいほど衝撃的な発表だった。
トヨタは2019年4月3日、車両の電動化技術について、トヨタが保有する特許実施権を無償で提供すると発表した。特許実施権の無償提供は2030年末まで、2020年末までとなっていた燃料電池車(FCV)の特許も無償公開を2030年末まで延長するとしている。
対象となるのは、駆動用モーターやパワーコントロールユニット、システム制御など同社がハイブリッド車(HV)の開発で培ってきた特許2万3740件。
ほかの自動車メーカーがトヨタ自動車の電動システムを使って電動車を製品化する場合には、適合開発など技術サポートも提供する。なお、無償提供する特許実施権に駆動用バッテリーの特許は含まれていない。
ではなぜ、トヨタは自社のコア中のコア技術であるハイブリッド技術をあえて今、他社に無償供与するのか、その真相に迫ってみた。
文/ベストカー編集部
写真/ベストカー編集部
初出/ベストカー2019年5月26日号
■トヨタのHVシステム その系譜と特別無償提供の内容
まずはトヨタハイブリッドシステムの系譜について簡単におさらいしておこう。そもそもトヨタが世界初の量産ハイブリッド車として初代プリウスを発売したのが1997年12月。
その前身となるプロトタイプは1995年の東京モーターショーで参考出品されていた。「THS」(トヨタハイブリッドシステム)の名で1997年3月に技術発表されたシリーズパラレル式ハイブリッドを搭載し、市販されたのが初代プリウスだった。
「21世紀に間に合いました。」のコピーとともにセンセーショナルに登場した初代プリウスだが、ハイブリッド車の販売が本格化したのはTHSの進化版であるTHSIIを搭載した2003年登場の2代目プリウスから。
その後、同じTHSIIを積んだ2代目ハリアーやクルーガーが登場し、20006年にはFR車向けの2段変速式リダクション機構付きTHSIIを積んだ先代レクサスGS450hが登場。
先代LSや先々代クラウンにも搭載され、バリエーションを増加(ちなみにTHSからTHSIIに進化する以前に存在したのがミニバン向けのTHS-Cで、2代目エスティマと初代アルファードに搭載されている)。
その結果、2013年にはハイブリッド車のグローバル累計販売台数が500万台を超え、2017年には1000万台を突破している。
そんな歴史を辿ってきたトヨタのハイブリッドだが、同社が4月3日付けで発表した内容は次のとおり。
「電動車の普及に向けた取り組み」と銘打ち、モーター・PCU(パワーコントロールユニット)・システム制御などの車両電動化関連技術でトヨタが保有する特許実施権(審査継続中のものも含む)を無償で提供するとともに、トヨタのパワートレーンを使う場合には電動車両開発のための技術サポート(有償)を行う。
具体的には、これまでトヨタが20年以上にわたってハイブリッドシステム開発で培ってきた同社単独で保有する世界約2万3740件の特許実施権を無償で提供するというものだ。
その内訳はモーター関連が約2590件、PCU関連が約2020件、システム制御関連が約7550件、エンジンとトランスアクスル関連が約1320件、充電機器関連が約2200件、燃料電池関連が約8060件となっている。
この特許権の無償提供は2030年末までが期限で、申し込んだ側とトヨタとの間で具体的な実施条件を詰めて契約を締結する。
技術サポートは完成車メーカーが対象となり、製品化する車両特性に燃費や出力性能、静粛性など車両電動化システム全体のチューニングに関する助言を行う。ただし、この技術サポートの費用は有償となる。
今回の特許無償提供について、同社の寺師茂樹副社長は「弊社の電動化システムについて多くの問い合わせをいただき、今こそ協調して取り組むべき時だと思った。
特にこれからの10年で一気に普及が加速すれば電動車がふつうのクルマになる。そのお手伝いができれば」と語っている。
2015年、トヨタはクルマや工場から排出されるCO2削減の長期取り組み目標として「トヨタ環境チャレンジ2050」を設定し、2017年には電動車普及に向けた2030年までの販売計画を公表。
こうした背景からも環境問題対応を経営の最重要課題と位置づけている同社の危機感が今回の発表に表れていると言えそうだ。
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