なぜマツダがMTにこだわるのか直撃!
スポーツカーのロードスターならまだしも、なぜセダンやSUV、コンパクトカーにまでMTを採用するのか? マツダが6速MTにこだわる理由はなにか? その理由をマツダ広報部に聞いてみた。
「マツダはどの車種でも、人馬一体に代表される走る喜びを感じていただけることをテーマに開発されています。
そのひとつの要素として、6速MTを用意しました。6速MTを設定するにあたっては、どの車種でも人間中心の設計開発思想を貫き、運転を純粋に楽しめるマニュアルトランスミッションの操作フィーリングを追求しています。
またマツダ車を購入してくださるお客様も、運転の楽しさを期待されていることが多いです。
そこでスポーツカー以外の車種で6速MTを楽しみたいというご要望に応えるべく、2012年から始まった新世代商品群では、CX-8を除くすべてのモデルに6速MTを設定しています」。
このコメントにある新世代商品群とは、2012年に発売された先代CX-5と現行アテンザから始まった新しい商品ラインアップだ。
外観は魂動デザイン、メカニズムはすべてSKYACTIV技術に基づき、優れた走行性能と運転の楽しさを重視している。
そして6速MTの操作は、運転の楽しさを構成する要素のひとつになり得る。シフトレバーとクラッチペダルを操り、シフトアップやシフトダウンすることも楽しいからだ。
ATとの対比でいえば、テクニックを要することもMTの魅力だろう。極端な話をすれば、AT車の場合は、セレクトレバーをDレンジに入れてアクセルペダルを乱暴に踏みつけると、急発進してしまう。
ところがMT車でラフな操作をすると、急発進すらできない。エンジン回転を動力性能とタイヤのグリップ力に見合う回転域まで高め、クラッチをデリケートにつながねばならないからだ。
動力性能の高い車種で、アクセルペダルを踏み過ぎて過剰な駆動力を与えれば、発進時に激しいホイールスピンを生じて車両はマトモに前へ進まない。
また、クラッチのつなぎ方が唐突では、強いショックとともにエンジンが停止する。デリケートな操作が必要だから、踏み間違いに基づく急発進も発生しないわけだ。
クラッチを操作していると、駆動力の断続を当たり前に行うから、問題が生じた時にはクラッチペダルを踏んで駆動力を即座にカットできる。
たとえ、走行中にアクセルペダルが戻らなくなった時も、クラッチペダルを踏めば駆動力はホイールに伝わらず、暴走も防ぎやすい(ただしアクセルを開いた状態でクラッチを踏むと、駆動系統を破損する心配は生じる)。
言い換えればMTの操作は高等で難しい運転技術だから、独特の操る楽しさがあり、同様にAT車が誕生したりAT限定免許が普及する理由にもなっている。
マツダが大学と連携して行うMTと老化防止の研究
そうなるとMTの操作は、頭脳と手足を複雑に連携させて使うため、高齢化に伴う老化を防ぐことにつながるかもしれない。
そこでマツダは、 東京大学との産学協同研究 によって、MTと老化防止の研究も行っている。特に脳の老化は、クルマの運転にとって最大の障壁だが、これを運転によって防ごうとする考え方だ。
老化を抑える日常的な対策として、料理、編み物、楽器演奏、絵を描く、園芸などが挙げられる。これらも練習や上達を伴う技術だから、MTの操作に通じているだろう。
マツダが研究する通り、MTの操作が老化防止に効果的だとすれば、MT車は中高年齢層に適したトランスミッションともいえそうだ。
老化が抑えられ、メカニズム的にもペダルの踏み間違いに基づく急発進事故を防ぐ効果が期待される。
急発進事故の防止には、緊急自動ブレーキなどの安全装備が効果的とされるが、すべての事故を防げるわけではない。複数の対策を講じることが大切で、MTもその手段になり得るだろう。
実現のためには、MT車の選択肢を増やすことも求められる。過去を振り返ると、1980年代の中盤はMTとATの新車販売における販売比率が約50%程度だったが、1990年頃にはATが72.5%に増えてAT限定免許も創設された。これが普及を加速させ、2000年頃にはAT比率が92.1%に達した。
背景にはMTを採用する車種が急減したこともある。AT車の売れ行きが増えて限定免許まで創設されると、1990年代にミニバンの車種数が充実した影響もあり、メーカーはMTを選べる車種を一気に減らした。
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