「常識外のクルマがあってもいいのでは?」そんな発想で飛び出してきたのが、ミッドシップスポーツカーのMR2だ。今から40年前の1984年に登場したMR2には、クルマ好きの夢やロマンが詰め込まれた。こんなクルマをよく作り、よく売っていたなと感心させられる。まさにイケイケな昭和と平成バブル期をカタチにした、MR2を振り返っていこう。
文:佐々木 亘╱写真:ベストカー編集部
■ミッドシップが生み出す魅力にもうメロメロ
MR2には、国産初のシステムとなるミッドシップが与えられた。現在はエンジンをほとんどのクルマが前に置いているが、MR2はシートの後ろで後輪の軸よりも前に配置されている。これにより、一般的なクルマとは前後の重量配分や重心の位置が大きく異なり、ヒップポイント支点のクイックなコーナリングが楽しめるのだ。
また、プロペラシャフトを介さずに、エンジンの出力をダイレクトに路面へ伝えるのもミッドシップの特徴だ。ここにMR2では、加速性能をさらに高め、全回転域をトルクバンドに変えてしまうスーパーチャージャーを積み込んだ。
ハードにチューニングされたサスペンションも相まって、MR2は異次元のハンドリングを実現している。異次元過ぎて、プロドライバーが扱っても、スポーツ走行時にはスピンしてしまうくらいのものだった。
当時のスポーツモデル愛好家が、様々な海外メーカーのクルマに求めていたものを、MR2たった1台の中に、濃縮していることがよくわかる。
■スポーツカーに求める装備を全部付け
サーキットで速いというだけがスポーツカーの魅力ではない。日常域ではカッコよく、ラグジュアリーに走る姿を見せたいというのも、オーナーの希望であろう。
こうした思いを叶えるのが、MR2に搭載されたTバールーフだ。ロックノブとハンドル操作だけで着脱可能で、フルオープンにすれば太陽の光はもちろん、風の香りをいっぱいに浴びてクルージングできる。
またボディデザインでは、ミッドシップの証であるクールエアインテークやリアスポイラーが、良い雰囲気を醸し出す。さらに男のロマンとも言うべき、リトラブルヘッドライトまで装着されているのだ。
どこを切り取っても、どこを触ってもカッコイイ。ホットな走りももちろん良いが、ゆったりとしたクルージングを楽しむのにも、MR2はもってこいだ。
■世の中は置いておいて作りたいクルマを作ったんだなぁ
MR2は、MRレイアウトだからリアシートの存在なんて考えてもいない。だから乗車定員も2名だ。
現代でスポーツカーを作ろうと思うと、どうしても守りの4人乗りになりがち。応急用でもなんでも、4人乗れるようにしておいた方が、メーカーもユーザーも、何かと都合が良いからだろう。
クルマは売れなければならないから、世の中の方を向くことは大切なこと。ただ、時々はブレークスルー的な意味合いで、開発陣が作りたいクルマを、自由に作り上げてもいいのではないだろうか。
そうした意味でMR2には、作りたいものを作りたいように作ったんだなと、潔さを感じるのだ。多数派にはならないし、売れないとも思うが、今でもこういうクルマが残っていれば、自動車業界ももう少し元気だったのではと思ってしまう。
SUV・ミニバンを、金太郎あめのように作り続けるのも悪くは無いが、もっと技術臭い、作り手側のこだわりや信念みたいなものを、クルマから感じ取りたい。
MR2が身近にあった時代。その時代からは、日本人の汗と涙の匂いがする。綺麗に整いすぎてしまった現代だからこそ、あの頃へ憧れを持たずにはいられない。
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