EVのことがわからない 〜教えて国沢先生〜

ニッケル水素とリチウムイオン電池の違いってなんですか。また将来的にはどうなりますか?

 電気を重さのないイオンというカタチにして貯めておくという基本原理は同じ。面白いことに満充電したって車重は1gも重くならない。ニッケル水素とリチウムイオンの違いはイオンを貯めて放出する能力の差だと思えば間違いないです。

 大雑把に言ってニッケル水素は「すでに性能向上が難しい」という段階にあり、安定しているのに対し、リチウムイオンは構造材や正極の材料を変えるなどすれば、まだまだ進化の余地残す。将来的には圧倒的な性能差があるリチウムイオン電池が主役になること間違いなし。

EVを長く使っていると、「バッテリーが劣化してきたな」と感じることはありますか?

 これは明確に「ある!」と答えたい。初期のリーフを所有しているが、すでに容量を示すセグメントは一つ消えており、容量85%といったイメージ。

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リーフは急速充電なら30分で容量の80%まで充電できる

 新車時は130㎞程度なら余裕で走れたものの、今や100㎞がギリギリという航続距離になってしまっている。

 日産の指針によると、1年で1.5%、1万㎞毎に1.0%容量が減っていくという。私のリーフは5年3万㎞なので計算上89.5%になる。

 これまた日産曰く「最初の5年くらい劣化が早く、そこから穏やかになる」というので、案外粘るのかもしれません。大きな不満は、日産に聞いても自分のクルマのバッテリー容量を教えてくれないこと。なぜ隠すのか理解に苦しむ。

テスラのバッテリーは、小さいモノをたくさん積んでいます。 なんでそんな面倒なことをやっているんでしょうか?

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こちらモデルS。自動運転をいち早く導入した。補助金なしだと価格1015万6000円〜はちと高い

 テスラに搭載されているリチウム電池は、パソコンなどに採用されている『18650』。1本の電圧3.7Vとなる。

 電池容量85 kWhというカタログスペック持つテスラ・モデルSの場合、6500本程度の18650電池を搭載しているようだ(本数は非公表)。なんでそんなたくさんの本数を積むかといえば、18650電池の容量が大きくないからに他ならない。

 参考までに書いておくと、30 kWhという容量持つリーフのセル(18650の本数と同じ意味)は192個。この電池で85 kWhを実現しようとしたら、552個程度の電池で足りる。

 まぁ小さい電池をたくさん積むか、容量大きい電池にするかの違いだと考えていい。ちなみにテスラも18650を1個ずつ組んでいるのでなく、1つのモジュールが434本。これを15モジュール使っている。

iMiEVを見ると同じモーターを使ってもバッテリーの電圧/容量が大きいと出力も大きくなってます。なぜでしょう?

 このあたりはモーターというパワーユニットの特性によるモノ。リーフの車検証を見ると前期型は80 kWと表記してあるのに対し、中期型から70 kWになった。カタログの出力は全く同じ。

 あまり深く考えても意味ない。簡単に言えば、同じモーターでも出力を変えられるということ。さらに、短い時間なら表示されている出力の1.5倍くらい簡単に引き出せる。エンジンと違う〝常識〟が必要。

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4月27日時点で約40万台の予約が入っているテスラのモデル3。アメリカでの価格は3万5000ドル(約392万円)。かなりがんばった値つけになった。生産開始は’17年末予定

EVにはミッションがないと聞きますが、 まったく変速機がないんでしょうか?

 いまのところ変速機を使う市販電気自動車は存在しない。モーターというパワーユニットの特性上、回転ゼロの状態で最大トルクを出す。逆にギアを組み込むと、そこで伝達効率が落ちたりする。あまり知られていないのかもしれないが、300㎞/h出す新幹線だって変速機なし。

 したがって200㎞/hくらいまでの最高速の電気自動車なら、変速機を使わないというのが基本になっている。ただ将来的にもっと速い電気自動車を作るようになると、リダクションギアなどで「Lo」と「Hi」の切り替えを行うようになるかもしれません。

EVのトルクって高回転までずっと同じように、 フラットに出ているのでしょうか?

 トルク特性はモーターやインバータの設計による。基本的に起動時が最大トルクとなり、回転の上昇と共に落ちていく。出力は「回転数×トルク」なので、回転の上昇でトルクが落ちていっても出力についちゃ「変わらず」。

 つまりスタート時から最高出力に近いパワーが出て、そのままTOPエンドまでキープされると考えていいだろう。効率いいのだ。だからこそ109馬力/1500㎏という非力なリーフで130馬力/1000㎏というガソリン車と戦ってもイーブンの速さを持つ。

 ちなみに最大トルクの太さは速さとまったく関係なし。10㎏mというガソリン車は、エンジン1回転で車輪を3回転回すギアレシオにすれば30㎏m。リーフだとスタート時に3速とか4速ギアのギアレシオになるので加速大差なし。

EVには回生ブレーキがついていますが、 その気になればブレーキを使わずアクセル操作だけで街中を走ることができますか?

 回生ブレーキはエンジンブレーキと同じく、パワーユニットで抵抗を作り出して減速させようというもの。普通のエンジンと違うのは、抵抗だけでなく電気も作り出せること。

 こいつをバッテリーに戻し、再利用しましょうということである。ただ無制限に回生すると、激しい減速Gが出てしまう。そんなクルマ乗れないし、後輪駆動車だとアクセル戻した瞬間スピンしちゃいます。

 ちなみに回生をたくさん取っているテスラやBMWのi3はアクセル戻すだけでほぼ停止まで減速する半面、ヘタクソの運転手だと常時前後方向のGが出てしまい、ゲロ吐きそうになります。

 本来ならブレーキ踏んだだけ回生すべきですけれど、この技術は非常に高度で、テスラやBMWじゃ無理。やがてブレーキ踏んだ分だけ回生するような制御になると考えます。テスラやi3をアクセルだけで走らせたなら、気が抜けず超疲れます。

カタログに記載されている交流電力消費率の見方を教えてください。 数字が小さいほどいいんでしょうか?

 エンジンの燃料消費率と同じだと考えてください。数字は低いほどよいです。電気自動車の効率が最もよいのは20㎞/h程度だといわれており、航続距離280㎞のリーフで余裕の300㎞超えも実現可能です。

 ただ遅いと「移動の道具として使えない」ため、多少ユックリ走るくらいが電費ベストだと考えていいでしょう。

EVの諸元のバッテリーに関する項目に「総電圧」、「総電力量」が ありますが、その見方がわかりません

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テスラモデルSのシングルモーターのスケルトン。フロントにモーターを追加したデュアルモーター仕様もある
 

 電気を川の流れに例えると、電圧は「流れの速さ」で電流が「川幅」。電圧高くても、川幅狭ければ水の量で言うとタイしたことない。点火プラグは2万V以上ながら、感電しても「うわっ!」。

 JRの交流区間の2万Vだと一発で死ぬ。総電力量は、電圧と電流を掛けたモノ。30 kWhであれば、20 kW(約27馬力)を連続して1時間半出せますよ、という意味。ちなみに27馬力だとリーフを100㎞/h近くで走らせられる。100㎞/hで1時間半走ったら航続距離150㎞ということ。

エコカーは運転していて楽しくないイメージですが、リーフやミライは運転が楽しいですか?

 ナニをもって楽しいとするか人によって違うと思うけれど、リーフやミライをラリー車に仕立てて全日本ラリー選手権に出た私からすれば「充分楽しい!」。

 とにかく立ち上がり加速のレスポンスいいし、何よりムカシから極上のエンジンを「モーターのように滑らか」と称してきた通り上質。リーフもミライもホンモノのモーターですから。

 ただノーマル車を普通に乗っているかぎり、普通のガソリン車と同じく薄味。競技車両に仕立てたら、ガソリンのスポーツモデルと同じ楽しさがあります。

エンジンがないので、従来型のクルマより メンテナンスが楽になったと感じますか?

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