SUVを中心としたジャンル別5対決に続き、本企画では走りで鎬を削る10モデルで5番勝負を実施。自動車評論家松田秀士氏、斎藤 聡氏が、走りの質感やエンジン性能、ハンドリングなどの5項目で真剣比較。総合点で優劣を争う。
●ラインナップ
[Battle01]マツダ3 vs VW ゴルフTDI
[Battle02]トヨタ クラウンターボRS vs BMW 320i
[Battle03]トヨタ スープラ vs BMW Z4
[Battle04]ホンダ シビックタイプR vs ルノー メガーヌR.S.
[Battle05]スバル WRX STI vs VW ゴルフR
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※本稿は2019年9月のものです
文:松田秀士、斎藤 聡/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2019年10月10日号
■マツダ3 vs VW ゴルフTDI
(TEXT/斎藤 聡)
マツダ3とゴルフVIIの印象をひとことで言い表わすなら、マツダは柔らかく、ゴルフは硬い、そんな印象がある。
硬いからよく、柔らかいからダメとか、その逆だからダメということではなく、単純に乗り味から受ける感触がそんな印象なのだ。
ゴルフは、このクラスを「ゴルフクラス」ともいうように、欧州Cセグメントの巨人。ボディは感心するくらいカチッと作られていて剛性感を感じるし、堅牢なボディに包まれている安心感がある。
●VW ゴルフTDI(253万9000~534万9000円)

操縦性は操作に対する応答の精度が高く、クルマが思いどおりに動いてくれる。
組み合わされるエンジンはダウンサイジングを実践した1.2Lと1.4Lの直噴ターボエンジン。新たに導入されたディーゼルエンジンは、欧州で一般的な150psを境にした税制に対応したもので、2Lディーゼルターボを搭載。150ps/34.7kgmを発揮する。
2種類のガソリンターボは低回転域からターボがふわりと効き、100km/hくらいまでの力強い加速を実現。ディーゼルは34.7kgmの最大トルクが効いて、力強くかつ速い。
一方、マツダは滑らか、しなやかといった感覚の乗り味があり、硬質なところがまったくない。
●マツダ3(218万1000~322万1400円)

それでいて操作に対する応答が素直。素直どころか、ドライバーの操作を一部補正しながらドライバーの操作の意図を汲んでくれるようなところがある。
このマツダの操縦性は、広くあらゆるドライバーにとって優しいのだと思う。
エンジンは、ミドルサイジングを提唱して、ガソリンが2Lと1.5LのNAエンジン、ディーゼルが1.8Lターボを用意している。
エンジンの設定はみごとで、マツダ3のキャラクターを考えると、例えば160ml入るコップにすり切り一杯水を満たしたパワー感。必要十分だがプラスαの余裕がない。
コンサバティブなゴルフに対して、新しい潮流のマツダ3といえるのかもしれないが、よくでき過ぎてキャラが薄い印象なのが物足りない。
■斎藤 聡の採点
・走りの質感…マツダ3 9点/ゴルフTDI 8点
・エンジン性能…マツダ3 7点/ゴルフTDI 8点
・ハンドリング…マツダ3 8点/ゴルフTDI 9点
・ファントゥドライブ度…マツダ3 8点/ゴルフTDI 8点
・コストパフォーマンス度…マツダ3 9点/ゴルフTDI 9点
・総合点…マツダ3 41点/ゴルフTDI 42点
■トヨタ クラウンターボRS vs BMW 320i
(TEXT/松田 秀士)
320iが523万円、クラウンRSも518万4000円で、価格的にはイーブン。何で差がつくかと考えるが、これは非常に難しい戦いだ。
走りの質感はBMW。エンジン性能はトランスミッションとの制御も関係するが、こちらも320iが僅差で勝る。
だがハンドリングはクラウンが勝っている。コーナリング時の旋回軸のZ軸(ヨーイング)がフロント寄りにあって少ない舵角で曲げることができる。
320iはリア寄りで安定志向に振っている。なので、ハンドリングのなかでも、特にファン・トゥ・ドライブ度はクラウンが勝る。
320iもいいんだけど、それよりもクラウンが頑張っているといえる。この勝負は僅差ですがクラウンターボRSに軍配です。
●トヨタ クラウンターボRS(500万400~559万4400円)

●BMW 320i(523万~583万円)

■トヨタ スープラ vs BMW Z4
(TEXT/斎藤 聡)
スープラとZ4は、同じプラットフォーム、同じエンジン、同じ制御デバイスを搭載する兄弟車。
トップグレードのスープラRZとZ4 M40iを比較してみた印象だと、乗り味は凄く似ているなあと感じた。
●トヨタ スープラ(490万~690万円)

もっと味つけを変えてくるのかと思っていたのだが、プラットフォームが同じ。ホイールベースもエンジン搭載位置も変わりなく、味つけの要となるダンパーユニットも同じモンロー製となれば、オープンとクローズドの違いはあっても、スポーツカーを目指すかぎり、走りのキャラクターも似てくるのだろう。
ホイールベースの短さからくるシャープな操縦性も、一卵性双生児はよく似ている。ただ、ひとつ違いを感じたのは、アクティブデファレンシャルのセッティングだ。
基本的には、低速域ではシャープに、高速ではどっしりした安定方向の味つけで共通しているのだが、ハンドルを左右に繰り返しすばやく切ってみると、Z4はわざと応答を鈍くする……アクティブデフの差動制限を強めにして応答を鈍くするような反応になり、一方のスープラは、差動制限を強めないのか、最後までハンドルの動きに追従しようとシャープな応答性を持続する。
●BMW Z4(566万~835万円)

この味つけにトヨタとBMWの操縦性に関する考え方の違いが見える。つまり、BMWはドライバーが追いつかない応答性は危険なので、適度に鈍らせ、安定方向でコントロール性を確保する。
スープラは、どんなに速い動きになってもステアリングによるコントロール性を重視しているのだろう。
ただ印象としては、オープンとクローズドの一卵性双生児ともいえる共通性を強く感じた。
■斎藤 聡の採点
・走りの質感…スープラ 9点/Z4 9点
・エンジン性能…スープラ 8点/Z4 8点
・ハンドリング…スープラ 8点/Z4 9点
・ファントゥドライブ度…スープラ 9点/Z4 9点
・コストパフォーマンス度…スープラ 9点/Z4 9点
・総合点…スープラ 43点/Z4 44点
■ホンダ シビックタイプR vs ルノー メガーヌR.S.
(TEXT/松田秀士)
ルノー メガーヌR.S.は4WS(4輪操舵)を採用しているし、サスペンションはしなやかなんだけど、リアの安定感を出すことができている。
低速コーナーでは、逆位相にタイヤが切れるのでFFの苦手な部分をカバーしている。高速コーナーでも安定感が高い。
グリップレベルでいうと、シビックタイプRのほうが高いと思うし、路面のいいサーキットであればタイプRのほうが速いと思うが、ニュルのようなコースではメガーヌのほうが足がきちんと動く。
シビックタイプRはひとつの技しか出せない不器用さがあるのだが、メガーヌのほうはドライバーの持っているテクニックを豊富に駆使することができる器用なクルマといえる。
●ホンダ シビックタイプR(450万360円)

●ルノー メガーヌR.S.(440万円)

■スバル WRX STI vs VW ゴルフR
(TEXT/松田秀士)
ゴルフRは中速域を意識したセッティングだし足もしなやかで誰でも乗りやすいクルマ。それに対してWRX STIはうまく乗りこなすのに腕がいる。クルマと格闘したい人には向いていると思う。
ただ、WRX STIは縦置きエンジンのおかげで、重いトランスミッションが車体中央近くにあるので、後輪ブレーキもしっかり利く。ゴルフRは横置きだから重量バランスが前寄りになってフロントブレーキに負担がかかる。
コスパでは、WRX STIが386万6400円~、ゴルフRが569万9000円なので、WRX STIが勝利だけど、それを含めてもゴルフRに僅差で軍配が上がる。
電制サスをスバルが投入したら、この評価は変わるかもしれない。
●VW ゴルフR(569万9000円)

●スバル WRX STI(386万6400~406万800円)
