「認証不正問題」は結局誰が悪かったのか?「喧嘩を煽ったメディアの勉強不足も原因」有識者が喝!!

■大学院の試験に受かれば高校受験はしなくていいのか?

ーーそうすると、ますます疑問が深まります。政府とメーカーが一体になっていたとしたら、今回なぜこんな、大規模な認証不正問題が起こってしまったんでしょうか。

清水/今回一気にいろいろな問題が明らかになりました。中には間違ったソフトウェアを使用したなどメーカーの立場では不可抗力もありましたし、現場は「この方法でいいはず」と思って試験をしていたケースが多いでしょう。不正自体に悪意や害意があったとは思えませんし、開発は一ミリも間違っていないのです。ただ「認証試験」というものを自動車メーカー全体で軽視していた、とは言えると思います。

ーー「軽視」していた。

清水/はい。すくなくとも優先順位が低かった。

ーーそれは「自分たちはもっと厳しい試験を実施してクリアしているんだから、大丈夫だろう」だとか「合理的に開発してもっといいものをユーザーに提供しているんだから、このやり方が間違っているなら制度のほうが間違っているんだろう」と思っていたということでしょうか?

清水/そんな単純な話しではないと思いますが、厳しい試験をしているからというのは、少しは影響したかもしれませんね。本質的には認証基準よりも、量産に向けた開発日程を厳守することが最優先だったと思います。◯月◯日に量産するため「部品調達、輸送、ディーラー配車、資金などのエコシステム」が関係してきます。認証で遅れることは社内では許されないことなのでしょう。各メーカーの開発部門は「世界一厳しい基準に照らしてクルマを開発しているから」という意識以上に、型式認定取得が遅れてはいけないというプレッシャーが強くのしかかっていたと想像できます。

ーー認証試験で不正していたけど、間違ってはいなかった?

清水/はい。「よりよいクルマを作ろう」と創意工夫するのは正当な開発行為であって、そのいっぽうで認証試験というのはもっとベーシックなところの話なのです。喩えて言うと…どの自動車メーカーも合格できるような共通の試験があります。共通一次試験みたいなやつです。今回はそれを軽視して、すっ飛ばして虚偽記載していた、という話。

ーー社内的な「実際に厳しいルール」はあったんですか?

清水/法的なルールではないですが、安全情報公開という制度があり、各メーカーのクルマの安全性の差を公開する制度です。

ーーなるほど。

清水/走り高跳びの選手は、たとえば「大会出場資格は2m」だったとしたら、みんな2m以上を目指して練習するわけじゃないですか。2m20cmとかを目標にして練習する。それは当たり前ですよ。ただ、そういう選手も、どこか公式の場でシーズンベストが記録されています。ライバルのシーズンベストを見て、「もっとがんばろう」と健全な技術競争の動機となります。

ーーメーカー自身の社内テストは「裏庭で飛んだ2m」なので公式記録ではないですね。

清水/NCAPは公的資金を使ったテストなので中立ですね。もちろん、世の中には「ギリギリで大会出場規定を満たした人」もいれば、「もっと高いところを目指して練習してきたしその実力がある人」もいます。だけど、そもそもの話として公式の試験官がいる前でちゃんと記録を提出してもらわないと、出場資格を出すわけにはいかないわけです。

■増え続ける販売台数と仕向け地…そのわりに減らされる認証部門

ーーダイハツの不正が発覚した際に問題になっていた「仕向け地の多様化」についてはどうでしょうか。

清水/ダイハツはトヨタの100%子会社になってから、OEMを大量にやるようになりました。それで日本国内だけでなく、トヨタの新興国向けスモールカー担当のようになっていて、2010年から2020年ぐらいまでの間に販売台数が世界で1.5倍くらい増えました。開発部門も営業部門も製造部門も忙しくなるなかで、認証部門っていうのは、人が減らされてたるわけです。

ーースタッフが減ったと。

清水/たとえば編集部でね、雑誌の売り上げ上がって、ページ数も増えて、記事数や配信先、取材先もどんどん増えるのに、編集部員の数を減らされたらどうなりますか。

ーーそれはパンクしますね。エラーも増える。

清水/そのうえ、ダイハツはトヨタだけでなく(トヨタを通して)スバルやマツダにもOEM提供していていました。そういう状況で、たとえば半導体不足などでセンサーが手に入らないとか、戦争が始まったりコロナが流行ったりと、開発の途中で何かがあるような厳しい時代に、それでも契約は守らなくてはいけない、「この日までに開発を完了して試験をして書類を提出して…」という状況が出てくるわけです。

ーーき…きびしい。

清水/特にトヨタに対しては、「トヨタ様のご機嫌を損ねてはいけない」みたいな気持ちもあったでしょう。そうした中で、「計画通り出せば売れる、出せなければ売れない」という状況もあって、認証部門にしわ寄せが集まるわけです。これは、そういう状況を察知できなかった経営者の責任でもあるとおもいます。

ーー今回の認証試験不正問題は、そういう「しわ寄せ」が集まって、無理が重なってついに明らかになった…ということでしょうか?

清水/それだけではありません。認証部門って地味なんです。役所相手の仕事だし、「通って当たり前」と思われている。前述の「自動車基準調和世界フォーラム(WP29)」の手続きって、全部英語なんです。試験のやり方だとか条件とか、英語で書かれた分厚い提出書類を細かくチェックしなくてはいけない。いっぽう開発部門っていったら花形ですよ。日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)だ、試乗会だっていうと、開発部門のエンジニアがズラッと並ぶ。そういうところに認証部門の担当者は来ないでしょう。認証を受けないと1台も売れないのに、光りが当たることは少ない部署です。そういうイメージの問題や社内での立場の違いみたいなものもあったと思います。

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