日本のモータリゼーションの生き証人ともいえる御大・三本和彦氏。年末には85歳となったばかりだが、これまで国内外あわせて数え切れないほどのクルマを鋭いまなざしで見つめてきた。
そんな三本氏にとって、「ベスト・オブ・ザ・ベスト」と呼べるクルマは何だったのだろうか? 振り返ってもらうことにした。
語り:三本和彦
ベストカープラス2016年2月18日号
ジャーナリストとしてのベストはアメ車
こんにちは三本和彦です。さて今回のテーマは私のベスト・オブ・ザ・ベストです。
仕事柄いろいろなクルマに乗ってきましたが、凄いなぁと感じたのは1960年代、1970年代のアメリカ車ですね。
全長5m、全幅2mを超えるようなフルサイズのボディは日本の道路にどうかと思うけど、7Lクラスの大排気量V8エンジンからひねり出されるビッグパワー、そしてなにより特大のトルク、こいつにはしびれたねぇ。
足まわりは「ゆったりした乗り心地」のセッティング。これがまたアメリカ車らしい。ヨーロッパ車の硬い足もいいけれど、ビッグトルクで長距離をゆったり走るのが、いかにもアメリカ車です。
アメリカに比べたら1回の走行距離が短いヨーロッパ車とはクルマ作りの基本的な発想が違うのでしょう。
特に世界の自動車界を席巻したビッグ3。その技術力にはヨーロッパ勢も及ばなかった。日本車の最高速度が150km/hなんて頃、ヨーロッパ車でも一部のスポーツカーがやっと200km/hを出せたという頃にアメリカ車は、スポーツカーやビッグサルーンは当然のこと、
アメ車の中では比較的小さなボディとエンジン(それでも充分大きいけど)のファミリーカーでさえ200km/hを軽くマークしていましたからね。

アメリカ車のなかでも特に記憶に残っているのはスペシャルティカーです。例えばフォードのサンダーバード。カッコよかった。オープンボディは最高だった。アメリカ本国の人気はもちろん日本でも憧れのクルマでした。
デビューしたのが1955年といいますから、昭和30年。クラウンの登場と同じ年ですね。
歴代サンダーバードのなかでもサンダーバードらしいのが3代目、アメリカを象徴するのが6代目ではないでしょうか。6代目は全長5.7m、車重が2.3tで排気量は7.5Lです。
オイルショックの影響もあり、さすがにこんな大きなクルマは姿を消しました。そしてサンダーバードも2005年で生産を打ち切っています。名車がなくなるのは寂しいねえ。
オーナーの立場から選ぶベストはスバルの軽自動車
続いて編集部からオーダーが入りました。「所有したクルマのベスト・オブ・ザ・ベストはなにですか?」だって。これまた難しいですね。つまりオーナー目線でベストを選べというわけです。
以前から日本の軽自動車はいいですよ、特にスバルの軽自動車がいいと評価してきました。実際に2年ほどスバル360に乗っていましたが、燃料は食わない、耐久性はある、そしてスピードも出る。もちろん税金が安い。
ただ後から考えると、小さいしホイールベースが短いからデコボコ道には弱かった。当時の道路状態は酷くて、路面が悪いと迂回してました。それを差し引いてもスバルの軽自動車はいいと思ったねえ。
もちろん、ほかに所有したクルマで乗り心地がよかったり手がかからないクルマはありましたが、誰にでもすすめられるのがスバルでした。
ただし、富士重工のアフターサービスはいただけなかった。今でこそスバルも販売網がしっかりしていますが、当時はどこでサービスしてもらえるのかわからない。これには苦労させられて、2年で買い替えました。
でも、軽自動車のよさに味をしめて、スバルの次にマツダR360にも乗りました。これも楽しいクルマでしたよ。
しかし、スバルは軽自動車の自社生産をやめてしまいました。スバル360を大ヒットさせ、日本の軽自動車の基礎を作ったスバルですから、もう一度燃費がよくて頑丈でよく走る軽自動車を作ってほしいものです。

三本和彦
1931年生まれ、東京都出身。東京写真大学(現在の東京工芸大学)写真技術科を卒業後、1956年より東京新聞に入社。その後フリーのモータージャーナリストに転身し、ベストカーを始めとするさまざまな自動車雑誌に寄稿、TV番組の司会なども務めた。現在はベストカーで月に1度「金口木舌」の連載を執筆している。