原因は、規制よりも現在のトレンド
一定の状況で、基準内に収めればOKなら、「もっと音量が出る、“いい音”な国産車」が出てきてもおかしくないはず。
ここで問題になるのが、お国柄なのだ。といっても「イタリア人は官能的な音が好きだけど、日本人は音に無頓着」とかそういう話ではない。
「日本では近年、省エネルギー化が注目され、低燃費車を推奨する傾向にあるため(音が比較的大きく、いいサウンドを求める)需要や供給が少ないのではないかと感じます」とはフジツボの回答。
前出のA氏いわく「今のマフラー開発は、静音&燃費がトレンドです。実際、いくら『いい音です』と言ったって、試乗して音がうるさいと思われたら、そのクルマは買わないお客さんが多いですから」というのが日本の実情というわけ。
音に対する需要にはそれぞれのお国柄がある!
で、海外はどうか? といえば「たとえば国産メーカーでも仕向け地によってエンジンや排気系の仕様は違います。特にアメリカでは大きいサウンドが好まれ、日本仕様をそのまま持っていってもダメなので、国産メーカーもここ10年ほど音質面に力を入れています」とA氏。
つまり、そもそも音に対しての需要があるかないかというお国柄が、エンジン音や排気音にも影響してるというのだ。
さらにもうひとつ。国産メーカーでは、音に関して規制値より厳しい自社基準を設けているという話があったけれど、本質はここで「規制に通っているだけじゃなくて、きちんとうるさくない音にしなきゃ」という一種のモラル的精神があるのだ。
元マフラー開発者のB氏は「実際には規制値を計る状況だけでなく、あらゆる状況で音を測定し、基準以下に納まるように排気系を設計しています」というが、この発言からも国産メーカーの姿勢がみてとれる。
だから、イタリア系などのスーパーカーたちが爆音で「クォォォ〜ン」な音にできるのは、何も特別ルールがあるわけじゃなく、その規制をどう捉えるかという問題なのだ。
極端な話、測定領域のエンジン回転では規制値以下の音量に納めて、測定領域外の全開のレッドゾーン付近ではそれより大音量だって法的には問題ないんだから、あんないい音が出せるんでしょう。
さらにもうひとつ。こっちはもっとマフラー開発の根幹の話。排気系を作るということは、当然“いい音”ばかり考えればいいって話じゃない。
「排気系の設計をするうえで要求はいろいろありますが国産メーカーはスペックに対する要求が高い。まず優先されるのは馬力、トルク、そして燃費に対する要求ですね」とA氏。これら複数の要求を満たすなかで、音質に対する優先度は下がってしまうのが実情というわけなのだ。
あとはメーカーによって、排気系を開発するうえでちょっと異なる内部事情もあるようだ。
「トヨタと日産では、同じクラスのエンジンでみると、エンジン原音は日産のほうが大きく、排気系で音を小さくする役割が増えます。あと、排気系のレイアウトの自由度も低めなので、いい音を作るための取り回しがしづらい面もありますね」ということなのだ。
日本メーカーの“いい音”へのこだわりは?
じゃあ国産車で“いい音”は難しいか? といえばそんなことはない。
たとえば、ダイハツのコペンでは、サウンドの演出に力を入れていて「低回転では迫力ある低音を強調させるため100Hz以下を強調」、「高回転では伸びのあるサウンドを演出するため200Hz帯を強調」というように音に対してこだわり、660ccの直3エンジンとは思えない音を実現している。
さらにロードスターでも、「先代モデルに対して、加速・減速の音量差を拡大し、2500rpm以下の低回転域では排気音をしっかり響かせて軽快感を強調」、「5000rpm以上の高回転域ではこもり感のないリニアでクリアなサウンドで伸び感を演出」など音のチューニングに力を入れている。
なんて話をしても、イマイチイメージがしづらいので、マフラーメーカーがどうやって“いい音”作りをしているのか、写真とともにみていこう。
下はマフラーの写真だが、フジツボによれば「一般的にサイレンサーを大きく、数を増やすことで音量を小さくできる」そうで、メインパイプ径の太さによって音の高低が変わるという。
音の大小・高低はこうして調整できるのだが、HKSによると「いい音にするために低周波の音を除去する必要がありますが、これにはサイレントチャンバーを使い、害になる特定の周波数を除去しています」とのことで、さらなる音質のチューニングは、こうした部分で行われているのだった。
ちなみに燃費だけを重視してマフラーを作ると極端な話、爆音になるそう。爆音かつ燃費のいいマフラーを作って「燃費いいマフラー=音も大きい(もちろん規制値以下で)」というイメージが定着すれば、“いい音”の国産車が増えるかも!?
もちろん極論であるが。
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