トヨタ、型式不正問題再発防止策の進捗報告「これで終わりという問題ではない」…改善への道とトヨタらしさへの執念

トヨタ、型式不正問題再発防止策の進捗報告「これで終わりという問題ではない」…改善への道とトヨタらしさへの執念

 2023年12月にダイハツ工業で発覚し、翌年1月には豊田自動織機、同年6月にはトヨタ本体でも発覚した型式不正問題。国土交通省から組織体制の改善を求める「是正命令」が出される事態となり、豊田章男会長を責任者としてグループ全体で再発防止のための組織改革に挑んでいる。あれから1年半、トヨタは2025年9月9日、型式指定申請に関する再発防止策の第4回進捗を公表した。以下、公表された進捗報告書の内容をあらためて整理してお届けしたい。

文:ベストカーWeb編集部、写真:トヨタ自動車、AdobeStock

経営直轄で“認証”の土台づくり

 トヨタ自動車は2025年9月9日「型式指定申請に関する再発防止 進捗報告(四回目)」を公表した。これで日本自動車界を根底から揺るがした型式申請不正問題にひと段落ついたということか……と思われたが、報告書公開と同時にトヨタ自動車株式会社カスタマーファースト推進本部の宮本眞志本部長からは、「こういう組織・制度の見直しと改善をやっていく、という発表であり、この問題が終わっただとか、区切りがついたということではありません。これはゴールの報告ではなくスタートの報告です」とのコメントがあった。

 なんというか、トヨタらしい……、「カイゼン」への執念が滲む報告だった。以下、報告書の内容を整理する。

 認証不正問題の再発防止策は「基盤の強化」、「ものづくり」、「人づくり」の三本柱に沿って実施され、たとえば認証試験の品質維持・向上、ならびに人材育成の観点から、認証に特化した社内有資格制度(マイスター制度)を導入するという。正しい認証試験の運営と各現場での自律的な改善を促す「マイスター」を最上位とした5段階の資格と資格別の教育プログラムを整備するとのこと。

 また、この問題の背景には型式申請に関するグループ全体のルール運用の見直しと、経営・現場の距離を縮める必要性がある、とも指摘。

 トヨタは、会社全体のリスクを俯瞰する責任者、技術判断を担う責任者、品質保証を統括する責任者という“三つの監督線”を明確にし、連携して現場の状況を把握する体制を整えたと説明する。

 現場から上がる「試験設備の逼迫」「人手の偏在」「日程の無理」といったシグナルは、節目会議で共有され、必要な応援や計画変更を速やかに判断できる運びだという。

 重要なのは、紙の計画で終わらせず、経営のフォローと現場の実装をセットにして日常の運用へ組み込む点だ。生産現場で培ってきた“現地現物”の姿勢を、認証プロセスにも通底させる考え方がベースに置かれている。

記録・運用の信頼性向上と人づくり

 新型車の開発においては、どうしても開発部隊や営業部隊の発言力が強くなり、実験部隊や認証試験・申請部隊の意見が脇に追いやられ、スケジュール優先、コスト優先の判断が先走っていた背景がある。

 制度や組織の硬直化が進み、「しわ寄せ」の細かい積み重ね、そこから発生する「ひずみ」に経営陣が(「現場」と距離があったからこそ)気づかなかったことが認証不正問題の最大の要因のひとつとされ、経営陣と現場の距離を縮めるための、組織的な見直しを続けていく仕組みが報告されたわけだ。

 運用面ではまず、開発から試験、申請に至るまでの流れに節目管理を敷き、各段階で「認証に必要な準備」の到達度を見える化した。規程には責任者と判断基準が明記され、どこで何を確認すべきかが事前に共有される。これにより、判断の迷いによる待ちや、後戻りの発生を抑える狙いが示されている。

 試験記録の扱いも、再発防止の要として整理が進む。記録方法・保管・責任の所在を一体で定め、重要な試験には社内の審査担当が立ち会う運用を広げるとした。さらに、転記や集計といったミスの入り込みやすい作業を減らすため、試験計画・実績・設備稼働の情報を同じ仕組みで管理し、異常を早期に捉えられる体制を整えるという。

 人材面では、経営・幹部を含む横断的な教育を進め、認証に関わる担当者には段階的な社内資格を整備したとされる。上位資格者が日常の判断を支え、正しいやり方を現場に根付かせることで、属人的な“暗黙知”が“共有知”へと置き換わっていくイメージだ。新しいやり方は多数の開発案件で既に回し始めており、各モデルの節目で「いつ・どこで・どの試験を・何台で行うか」を先に確定。計画と負荷の差分を常時モニターし、ズレが生じた際は増員や計画変更でリカバリーする運用が浸透しつつある、という説明である。

 ここで土台にあるのが、トヨタ生産方式(TPS)の考え方だとされる。生産現場で長年磨かれてきた「異常を見える化し、必要なら止めて、すぐ直す」という振る舞いを、法規・試験という知的労働の現場に拡張する。

 大きく育つ前の小さな停滞を捉え、対策を早く打つことで、品質と開発スピードの両立を図る、という方向性だ。

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