目覚めよエンジン技術者――内燃機関の研究者が日本メーカーに突きつけた現実【草鹿仁教授インタビュー後編】

排ガス触媒と熱マネジメント、そして「目覚めよ、エンジン技術者」

BC:排ガス浄化触媒や熱マネジメント技術は、今後どのように重要性を増していきますか?

草鹿:非常に重要です。排ガス規制に通らないとクルマが売れないですし、エンジンがパワーを出せるのも触媒があるからなので、メーカーにとっても消費者にとっても大事な技術です。火花点火エンジンなら三元触媒、ディーゼルなら尿素SCR(NOx触媒)がポイントになります。熱効率が50%を超えてくると、排気温度が100〜150度ぐらい下がってしまうので、低い排気温度でも効く触媒の開発が非常に重要になります。

BC:え、えっと……、ちょっと待ってください、エンジンの熱効率50%超というのは、研究領域ではもう実現しているんですか? 市販化まで降りてきそうな段階??

草鹿:僕らはSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)という国のプロジェクトで、2014年から2019年まで革新的燃焼技術に取り組み、ガソリン・ディーゼルとも50%を超えました。研究領域では到達しているので、あとはいかに量産に結びつけるかです。

草鹿教授の説明イラストより。熱効率50%を超えるエンジンが出てくる。内燃機関の技術開発はこれからますます厳しくなると予想。しかしそこから逃げずに競い続けることこそ大事
草鹿教授の説明イラストより。熱効率50%を超えるエンジンが出てくる。内燃機関の技術開発はこれからますます厳しくなると予想。しかしそこから逃げずに競い続けることこそ大事

BC:りょ…量産。ええと、熱効率50%超のエンジンを量産するための課題、もうちょっというと、いま何がネックになっていて量産できないんですか?

草鹿:生産のばらつきとコストが課題で、今はグリーンイノベーション基金のプロジェクトで、熱効率50%を保ちながら排ガス規制もクリアする研究をやっています。ちなみに、高膨張比エンジンはエンジン単体で(現時点で)30万〜40万円ほどコストアップしますが、それでも電気自動車よりは安いはずです。

BC:あ、そうか、BEVより安ければ充分競争力が保てるユニットなのか、なるほど……。日本メーカーが今後も国際競争力を保つために必要な技術領域は?

草鹿:中国のチェリー(奇瑞汽車)とAVLが出してきたレンジエクステンダー用の高膨張比エンジン(熱効率48%程度)、これくらいの性能が、2030年ごろの中国・欧州の戦略的駆動ユニットの中心のひとつになります。これにバイオ燃料やe-fuel(合成燃料)を組み合わせたものが、あと1、2年で欧州から出てくると思うので、ここにキャッチアップしないといけません。鋳造の砂型やバルブリフト、ピストン、コンロッド、クランクの機構まで、エンジンの骨格から完全に見直す必要があります。この研究・開発ができるメーカーが、生き残ることになるでしょう。

BC:ここ最近の世界のモビリティ社会の潮流は「ハイブリッドカーがやっぱりすごい」で、そして「ハイブリッドカーといえば日本車だね」、「欧州はハイブリッド開発をやめてBEVに全振りしちゃったから、しばらくは大変だね」という状況だと思っていたんですが……。実際の見立てはどうなんですか?

草鹿:先ほど申し上げたとおり、今年4月のウィーンモーターシンポジウムで明らかになりましたが、それまで欧州の(内燃機関開発の)情報はほとんど出てこなかった。秘密裡に(内燃機関の研究開発を)やっていたんだと思います。フォルクスワーゲンが一気にキャッチアップしてきたわけですが、日本メーカーの技術者に言わせると、ディーゼルゲート事件(2015年)直後から(開発をやめずに)ずっとやっていたはずだ、でないといま発表できない、というのが共通の見解です。

BC:なるほど……大きな流れとして、これからモビリティの主流の駆動ユニットはどういう潮流になってゆくのでしょうか?

草鹿:市場によって変わってゆくのだと思います。たとえば日本の都市部、東京都内のように平均車速が低いところでは、日本のハイブリッドカーは負けないと思います。いっぽうでドイツのアウトバーンのような高速走行が多い場面では、フォルクスワーゲンの新しいハイブリッドがいいのではないかと思います。

BC:ディーゼルエンジンの重要性についても伺えますか。

草鹿:グローバルで見るとディーゼルエンジンの普及率は十数%程度ですが、1.9t以上のクルマにはマイルドハイブリッドと組み合わせたディーゼルエンジンがマッチします。ただ、日本では、(ディーゼルの)開発をやめてしまったメーカーが多いのが心配です。国内の乗用車メーカーで開発を継続しているのはトヨタ、三菱自動車、マツダの3社で、この数社は勝てるチャンスがあると思います。特にマツダの直6ディーゼルエンジンは、欧州で勝負できるエンジンのひとつとして大事にしていただきたいです。

マツダCX-60に搭載される直列6気筒、3.3Lディーゼルエンジン(SKYACTIV-D)。草鹿先生に言わせると貴重な欧州で真っ向勝負できるエンジン。がんばれマツダ!!
マツダCX-60に搭載される直列6気筒、3.3Lディーゼルエンジン(SKYACTIV-D)。草鹿先生に言わせると貴重な欧州で真っ向勝負できるエンジン。がんばれマツダ!!

BC:おお、マツダの人が喜びそうな話ですね。いやあ……正直、欧州ではまだ多くの人が「そのうち全部BEVになるんでしょ」と考えているんじゃないかな、と思っていました。すみません、舐めていました。

草鹿:新車販売の60%がカンパニーカーであるドイツですら、「いつかは全車BEVになる」という考え方からシフトしています。電動化に大きく舵を切ったメーカーは、エンジンの再開発が急務です。これから熱効率競争が始まります。ハイブリッドについても、欧州・中国はもはや、日本と互角だと思ったほうがいい。「目覚めよ、エンジン技術者!」。

BC:開発をやめてしまったメーカーは、今からでもやり直したほうがいいんでしょうか?

草鹿:一度やめたことを戻すのは非常に大変です。そういう会社は、高効率エンジンを作るには時間を要するので、当面は、ストロングハイブリッドやプラグインのシステム効率をあげることに注力した方がいいと思います。

BC:PHEVについてはどう評価されていますか?

草鹿:現状は補助金が出るハイブリッドという位置づけですね。欧州規制では80〜100kmぐらいプラグインで走れる必要があるので、毎日充電するのは結構大変です。ウィークエンドにその距離を走る人や、会社で充電できる人など、自分の使い方にマッチする人であればいいものだと思います。日本の消費者も、だんだん経済性を計算して選ぶようになってきていると思います。

BC:気になっている日本メーカーはありますか?

草鹿:ユニークなのはスズキですね。インドのカーボンニュートラル政策への対応が非常に面白い。電気だけでなく、ソーラーで水を電気分解して水素を作ったり、牛糞から作ったメタンとCO2の混合ガスを使ったり、地産地消のバイオエタノールを使ったり。インドはヨーロッパと同じぐらいのマーケットポテンシャルがあり、そこで4割のシェアを持っているのは大きな意味があります。軽自動車で培った「小さく・軽く・低コスト」の「小・少・軽・短・美」技術はこれからますます強みになると思います。

2025年のジャパンモビリティショーでスズキが出展した軽BEV「Vision e-Sky」。2026年度内に発売する、と公表している。スズキは純ガソリンエンジンもストロングHVもマイルドHVもBEVも、さらにバイオエタノールで走るクルマも作って市販している、ガチのマルチパスウェイメーカー
2025年のジャパンモビリティショーでスズキが出展した軽BEV「Vision e-Sky」。2026年度内に発売する、と公表している。スズキは純ガソリンエンジンもストロングHVもマイルドHVもBEVも、さらにバイオエタノールで走るクルマも作って市販している、ガチのマルチパスウェイメーカー

BC:スズキはたしかに面白い会社ですよね。すごく小さいバッテリー(12Vで発進時のみモーターが補助)を積んだマイルドハイブリッドだとか、今年は軽BEVも発売予定ですし。

次ページは : 次のクルマ選び、見るべきは「2030年燃費基準」と生活へのフィット

40秒で完了!グーネット買取のかんたん車査定 ≫

新車不足で人気沸騰! 欲しい車を中古車でさがす ≫

最新号

カプチーノ復活説急浮上!!「ベストカー 8月26日号発売!」

カプチーノ復活説急浮上!!「ベストカー 8月26日号発売!」

ベストカー8.26号 定価 590円 (税込み)  ようやく東京でも梅雨が明け、いよいよ本…