6. 尿素の噴き方ひとつで変わる、ディーゼル排出ガスの浄化率
植木悠仁さん(大学院創造理工学研究科総合機械工学専攻 修士1年)
植木さんの実験室には、直列4気筒のディーゼルエンジンとダイナモメーターが据えられていた。ここで研究しているのは、ディーゼルエンジンの排出ガスに含まれるNOx(窒素酸化物)を浄化するための尿素SCR触媒だ。排気管に取り付けたインジェクターから尿素水を噴射すると、分解して生じるアンモニアが還元剤となってNOxを浄化する。植木さんが注目しているのは、この尿素水の噴射パターン――噴射量や噴射信号の周波数、振幅――を変えることで、NOxの浄化率がどう変化するかだ。
尿素はおよそ1ヘルツ間隔で間欠的に噴射されており、その量とタイミングを精密に制御することが浄化率を左右する鍵になるという。噴射量が多すぎたり、一度に噴きすぎたりすると、尿素からつくられたアンモニアが未反応のまま後段にスリップしてしまい、これ自体が規制対象の排出物質になってしまう。触媒を通過したあとの排出ガスはFTIR(フーリエ変換赤外分光装置)で組成を分析し、実際のエンジンに近い条件でデータを積み重ねている。模擬排ガスを使うリアクター実験とは異なり、実際のエンジンから出る排出ガスで検証できる点が強みだ。今ある触媒の仕組みを大きく変えずとも、尿素の噴き方でディーゼルエンジンをよりクリーンにできる可能性を追っている。
7. シミュレーションで、次世代燃料とエンジンの相性を先読みする
陣野和樹さん(大学院創造理工学研究科総合機械工学専攻 修士1年)
陣野さんが扱うのは実機ではなく、コンピューター上でエンジンの燃焼を再現する「シミュレーション技術」だ。研究テーマはディーゼルエンジンで、軽油の代わりにバイオ燃料「HVO」を使った場合、エンジンの性能にどのような影響が出るかを明らかにすることを目指している。実際のエンジンで新燃料を一つずつ試すには燃料代や実験代などのコストがかかるほか、極寒地や高地といった極限環境を再現するのも容易ではない。そこでシミュレーションの出番となる。
3次元の解析画面では、噴射された燃料が筒内でどのように濃淡を作り、どこで着火し、ピストンを押し上げていくのかが、外部の温度や気圧といった条件を変えながら再現されている。折しも日本国内では、この3月末にHVOを軽油に5%まで混ぜてよいという規格ができたばかり。研究室ではこれを将来的に20%、さらに100%と引き上げていくための知見を積み重ねている。ただし混合比率が高くなりすぎると、着火性が良すぎて異常燃焼を招く恐れもあり、専用設計のエンジンが必要になる可能性も見えてきているという。
8. 燃料の「密度・表面張力・粘度」が、燃焼と排出ガスをどう変えるか
遠藤佑馬さん(大学院創造理工学研究科総合機械工学専攻 博士1年)
遠藤佑馬さんの実験室にあるのは、量産の2.2Lディーゼルエンジンから1気筒を取り出した研究用単気筒エンジンだ。研究の切り口は、「燃料」そのものの物理特性――密度、表面張力、粘度――に着目する点にある。軽油にエタノールを段階的に混ぜていったり、まったく異なる成分の燃料に置き換えたりしながら、燃焼特性と排出ガス特性がどう変化するかを、実験と数値シミュレーションの両方で確かめている。
燃料タンクから送られた燃料は、最大で大気圧の1800倍まで昇圧され、コモンレールを経てインジェクターから噴射され、シリンダ内で燃焼する。排出ガスはFTIR(フーリエ変換赤外分光装置)方式の分析計で組成を細かく解析する。同じ「新燃料に対応する」というテーマでも、燃焼の化学反応そのものを見る研究もあれば、遠藤さんのように燃料の物理的な性質という切り口から迫る研究もある。密度や粘度が変われば混合気形成が変化し、それが燃焼のムラや排出ガスの成分にまで波及する。エンジンという精密機械を新しい燃料に対応させるには、化学と物理プロセス、両方からのアプローチが欠かせない。



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