エンジンの未来をつくる9つの実験室「草鹿研究室」学生研究レポート【特別編】

9. 燃料ジェットの「蒸発過程を見る」、噴霧と冷間始動の実験

森本晴斗さん・松前諒大さん(大学院創造理工学研究科総合機械工学専攻 修士1年)

 最後に案内された実験室には、燃焼器と高速ビデオカメラがあった。森本さんが取り組むのは、直噴インジェクターから金属製のチャンバーへ燃料を噴射し、蒸発の様子を可視化する実験だ。今回は燃焼はさせず、噴射した燃料がどう広がり、どう蒸発していくかを、ガラス越しにハイスピードビデオカメラで観察する。エンジン内部さながらの高温・高圧環境をつくるため、あらかじめエチレンと酸素の混合ガスを点火し形成された高温・高圧場に試験対象の燃料を噴射するという工夫がされている。対象にはガソリン単体だけでなく、エタノールを混合した燃料も含まれ、単一成分と混ぜた場合と、イソオクタンやトルエンと混ぜた場合とで蒸発特性がどう変わるかも調べている。

早稲田大学大学院 創造理工学研究科総合機械工学専攻修士1年<br>(左)松前諒大さん、(右)森本晴斗さん
早稲田大学大学院 創造理工学研究科総合機械工学専攻修士1年
(左)松前諒大さん、(右)森本晴斗さん

 同じ実験室で研究するもう一人が松前諒大さんだ。松前さんは森本さんと同じで、LED光源による可視光と紫外光を分離して撮影することで、燃料の液体部分と気体部分を切り分けて捉える研究に取り組む。特に狙うのは、マイナス7度という冷間始動条件での燃料の挙動だ。さらに定容燃焼器では、点火プラグから火炎がどう広がっていくかを撮影し、燃焼速度を画像解析で算出する実験も、昨年まで行っていたという。見えないものを見るための地道な装置づくりが、次世代エンジンの燃焼制御を支えている。

まとめ:「日本の自動車産業は、これからも国の産業の中心であり続ける」

研究室を一巡したあと、草鹿仁教授はこう締めくくった。

「学生たちが楽しそうにしているのが、なにより嬉しいですね」

 ここで学ぶ一人ひとりが、日本のモビリティ社会の未来を研究し、育っていく。草鹿教授がSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の予算を得たのは2014年から2019年までの5年間。当時は「もうガソリン・ディーゼルエンジンではないのではないか」「内燃機関はいらないのではないか」という声が出始めていた時期で、「自動車業界はもうかっているのだから、そこに国費を投じてエンジン開発をする必要はないのではないか」という批判も一部あったという。

 それでも2019年、熱効率50%を超えるディーゼルエンジンとガソリンエンジンを世に示せたことは、非常に意義があったと振り返る。その成果は、現在取り組む合成燃料対応やWLTCモードでのエネルギー変換効率を2倍にし、排出ガスも次期規制に対応する、といった研究にもつながっている。

 本当にジャストタイミングな国家プロジェクトで、「中国の台頭や欧州の逆襲」というタイミングが来たときに、熱効率50%を超える準備がすでにあり、排出ガス規制をクリアする道筋も示せている――そのことに今、意義があると語る。

とても丁寧に取材に応えてくれた草鹿仁教授。2035年を超えても、2050年を超えても、内燃機関(エンジン)の研究と開発は重要であり続け、日本の「ものづくり」を牽引していくだろう、と語る
とても丁寧に取材に応えてくれた草鹿仁教授。2035年を超えても、2050年を超えても、内燃機関(エンジン)の研究と開発は重要であり続け、日本の「ものづくり」を牽引していくだろう、と語る

「欧州はどんどん方針を変えてくる。だからこそ日本も、状況が変われば次の手をどんどん講じていく、きめ細やかな対応が必要」

 自動車産業は日本の製造品出荷額の約20%を占める基幹産業であり、中国やヨーロッパにやられました、では済まない。信頼性と正確さという日本のものづくりの強み、そしてエンジンという機械工学の総合デパートに電気工学や化学工学が融合した総合工学としての優位性を、これからも守り抜く構えだ。

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