3. トヨタ「カムリ」搭載エンジンで、三元触媒とe-fuelの相性を確かめる
岸本千宙さん(大学院創造理工学研究科総合機械工学専攻 修士2年)
続いて案内された部屋には、市販車「カムリ」に搭載されているものと同型の4気筒ガソリンエンジンが置かれていた。担当する岸本さんが研究するのは、排出ガスを浄化する三元触媒と、グリーン水素と回収CO2から合成する新燃料「e-fuel」の組み合わせだ。これまでは既存のガソリン燃料を前提に触媒の浄化性能が調べられてきたが、今後は合成燃料やバイオエタノール混合燃料でも同じように排出ガスをきれいにできるかを確かめる必要がある。エンジンの各気筒には圧力センサーを取り付け、筒内の燃焼圧力を計測することで、燃料が変わっても従来と同等の熱効率が保てているかも合わせて確認している。
現在の実験ではエタノール30%まで対応できるエンジンを使いながら、まずはエタノール20%までのデータを蓄積中だ。あわせて、触媒だけを取り出した小型の評価装置も担当している。実際のエンジンでは決まった組成の排出ガスしか扱えないが、この装置なら模擬的な排出ガスの組成を自由に調整できるため、貴金属の種類や触媒セルの数を変え、温度条件を振りながら、どの組み合わせが最も高い浄化性能を発揮するかをひとつずつ調べられるという。地道なデータの積み重ねが、次世代燃料時代の触媒設計を支える。
4. 天然ガス・バイオガス・バイオエタノール、複数の燃料を使い分けるエンジン
西尾渉さん(大学院創造理工学研究科総合機械工学専攻 修士2年)
西尾さんが研究するのは、気体燃料と液体燃料のどちらにも対応できるマルチフューエルエンジンだ。同研究室ではこれまで、バイオガスを模したメタンガスでの実験を重ねてきた。現在注目しているのは、CNG(圧縮天然ガス)やCBG(圧縮バイオガス)、そして研究室が独自に取り組んできたバイオエタノールという3つの燃料路線。国によってカーボンニュートラルの捉え方や、普及しているインフラは異なる。だからこそ一つの燃料に絞り込むのではなく、複数の燃料に対応できる火花点火エンジンをつくり、地域ごとの事情に応じて燃料を選べるようにしておくことが重要になるという。
この日に見学した単気筒の実験用エンジンも、量産段階では3気筒や4気筒として仕立てられることを見据えて設計が進められているという。研究では熱効率をどこまで高められるかに加えて、排出ガスの成分も細かく測定している。最近では都市部のタクシーなどでLPガス車が再び注目を集めており、既存のインフラを生かしながら脱炭素化を進められる点も、この燃料路線の強みだ。一つの答えに絞らず、複数の現実解を並行して用意しておく――マルチパスウェイという草鹿研究室全体の姿勢が、この実験室にも表れている。
5. 水素とメタンの混焼過程を「見る」研究
森 花音さん(創造理工学部総合機械工学科 4年)
実験室の天井近くまで高さのあるレールに沿って吊り上げられた「重し」が特徴的な実験機を紹介してくれたのは、この「急速圧縮膨張装置」を使う森花音さんだ。カムを電磁石で持ち上げてから落とすと、その形状(プロファイル)に沿ってピストンが動き、エンジンでいえば1回分の圧縮・燃焼・膨張を再現できる。シリンダーヘッドには吸排気管やスパークプラグ、燃料を噴くインジェクター、圧力を測るピエゾセンサー、熱電対が備わり、可視化窓はガラス張りになっていて、高速度ビデオカメラで燃焼の様子を直接観察できる。
森さんが現在取り組んでいるのは、水素とメタンを混ぜた気体燃料の混焼実験だ。混合比率を変えながら気体燃料を封入して着火し、スパークからどのように炎が広がっていくのかを高速度カメラで撮影する。同時に圧力センサーと、ピストンの位置を示す変位センサーのデータも取得し、最も効率よく燃える条件を探っている。
実はこの装置、設計図が某自動車メーカーの研究所にも渡っているという。草鹿研究室の卒業生が同社の研究所に進んだ縁で「図面をください」と頼まれ、草鹿教授が快く図面を渡したとのこと(本企画担当編集者、同社の開発者からこの装置の噂を聞いたことがあります)。重力を利用する仕組みのため比較的低コストで作れるうえ、膨張行程まで燃焼過程を観察できる点も、この装置ならではの強みだという。



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