耐震基準はコストとの兼ね合いによる『見切り』
「そんなの危ない! 崩れないようにできないの?」
そう思われるだろう。しかし世の中に絶対はなく、絶対に崩れない盛土は造れない。
では「現在の3倍の強度を持つ盛土はできないのか」と言うと、そうなると盛土という構造自体が不適で、連続高架構造にするしかないだろう。実際、軟弱地盤地帯では盛土ではなく高架構造が採用されている。
なぜ崩壊のリスクが高い盛土構造があるのかというと、コストが安いからである。
日本の高速道路の建設コストは猛烈に高い。主な理由は「地価の高さ」「地形の険しさ」「地震の多さ」「地盤の軟弱さ」「人口の多さ」などだ。
ただでさえ世界一コストがかかる上に、今の3倍地震に強い高速道路にしようと思ったら、建設コストはいったいどこまで上がるか見当もつかない。
建設コストが上がれば、それだけ料金も上げなくてはならない。「安全がなによりも優先だ! 税金でなんとかしろ!」となれば、税金を上げなくてはならない。
つまり現状、大地震が来た時は、高速道路のどこかが被害を受け、崩壊する可能性はある。それを完全に防ぐことはできない。
耐震基準とは、コストとの兼ね合いによる「見切り」なのである。耐震基準を今より低くしてコストを下げる、という選択肢もあるにはあるのだ。
民主党政権で国土交通大臣を務めた馬淵澄夫氏は、政権交代直前のインタビューで、
「日本の高速道路の建設費は高すぎる。耐震基準が厳しすぎるからだ。政権を取ったらそれを下げることを検討し、実行する」
と私に明言した。それはそれでひとつの考え方なのである。東日本大震災で、そんな提案は跡形もなく消えたが……。
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