■販売チャンネルは、過当競争の防波堤だった
今にして思えば、販売チャンネルは、国内販売のスタビライザー(安定装置)であった。低価格化を防ぎ、品ぞろえの充実も促すことで、売れ行きを高める効果があった。このスタビライザーをはずされた2000年以降は、売れ行きが最盛期の70%以下になり、低価格化も進み、販売現場を疲弊させている。グローバル化によって生じた国内軽視、国内空洞化の象徴が販売チャンネルの撤廃だ。
今さら販売チャンネルの復活は望めず、レクサスのような根底に階級社会的な発想のある売り方は(レクサス以外の中古車販売店で購入すると、車検などに来店してもオーナーズラウンジを使えないなど)、国内市場には馴染まない。遅きに失した感はあるが、せめてトヨタだけは系列の良さを残して欲しい。
ちなみに最近はトヨタでも全店が扱う併売車種が増え、東京地区の4つの直営販売会社を融合するなど、販売チャンネルを形骸化させる動きが見られる。トヨタの動向は国内の自動車産業に大きな影響を与えるので、ユーザーと販売現場に対して優しい配慮が欲しい。
そこで改めて過去の販売チャンネルを振り返りたい。自動車産業が100年に1度の変革期にあるといわれる今、得られる教訓は少なくない。
■トヨタ トヨタ/トヨペット/カローラ/ネッツ等
車種の増加に伴い、将来の需要も見越して販売チャンネルを増やした。トヨタ店の前身は第二次世界大戦前に普及を開始して、トヨタ店となった戦後はクラウンやランドクルーザーを扱っている。カリーナ(今のアリオン)なども加えた。
1956年にはトヨペット店が誕生する。1957年に発売されたコロナ(今のプレミオ)を扱い、1968年にはマーク2(今のマークX)も加わった。セダン全盛の時代には、ファミリーユーザー向けの販売チャンネルとして根強い人気を誇った。1967年からはハイエースを売るようになり、法人ユーザーも増えた。今ではアルファードも法人の購入比率が高い。
1961年にはパブリカ店が発足。同年に発売された低価格のパブリカを扱い、1966年にはカローラも売るようになった。これが人気を高めて、1969年に販売チャンネル名を今のトヨタカローラ店に変更した。
1967年にはトヨタオート店も加わる。1968年にカローラのクーペ版としてカローラスプリンターが登場して、まずはこれを販売した。2代目はスプリンターが独立した車種になり、セダンも用意するカローラの姉妹車になった。1998年には、販売チャンネル名をネッツトヨタ店に変更した。
1980年にはトヨタビスタ店が発足した。同じ年に発売されたマーク2&チェイサーの姉妹車となるクレスタ、カリーナの姉妹車となる4ドアセダンのセリカカムリをなどを扱った(セリカカムリはカローラ店と併売)。1982年にはカムリがフルモデルチェンジを行い、姉妹車としてビスタが設定されている。
ただしトヨタビスタ店は国内販売の急増に応えて創設され、将来の需要を見込んでスタートしたほかの3系列とは背景が異なっていた。そのために既存の車種の姉妹車を売ることが多い。クレスタは姉妹車ながらフォーマルな雰囲気で人気を高めたが、ビスタ店はいまひとつ存在感を発揮できず、2004年に販売再編でネッツトヨタ店に吸収された。
■日産 プリンス/モーター/サニー/サティオ/チェリー等
日産は戦前から乗用車のダットサンを手掛けて販売網を整備していた。第二次世界大戦直後の1946年に、改めて日産と販売契約を結んだ販売店が多く、日産店がスタートしている。ダットサンの後継となるブルーバード、フェアレディなどを扱った。
上級セダンのセドリックやローレルを売る販売チャンネルには、前述の日産モーター店があった。1950年代の中盤に設立され、当初はノックダウン生産していたオースチン、商用車のジュニアなどを扱い、1960年にセドリックが発売されると販売も本格化した。
コンパクトカーを扱う販売チャンネルにはサニー店がある。文字通りコンパクトカーのサニーを売るチャンネルとして、発売に合わせて1966年から設定された。サニーが2000年代の前半に販売を終えて、ティーダと同ラティオに切り換わることもあり、販売店名をサティオ店に変更した。このほか1970年になると、コンパクトなチェリーの発売に合わせてチェリー店も設けられた。
日産ではプリンス店も注目される。かつて存在したプリンス自動車の販売店を前身とすることが多く、プリンスAISH-Iなどの発売に合わせて、1950年代の前半から普及が開始された。この後、プリンスが1966年に日産と合併すると、日産プリンス販売となった。プリンス時代に初代モデルを発売したスカイラインとグロリアが看板車種であった。
なお日産は1990年代の末から販売網の再編を行い、日産店とモーター店がブルーステージ、プリンス店/サティオ店/チェリー店をレッドステージと区分した。これも全店が全車を扱うと区分の意味が失われ、店舗の色彩も現在と同様になった。
コメント
コメントの使い方