■インドではすでに稼働中
実際にこの製品のビジネス化に向けて動き出したのが、インド。
インドの人たちの生活の足である3輪タクシー「リキシャ」を電動化し、その動力源として「モバイルパワーパックe:」のバッテリーシェアリングサービスを2022年前半より開始するという。
すでに2021年2月から、30台のリキシャを使い、実証実験を実施。たった4か月で20万キロ以上の営業走行が行われたというから、リキシャのニーズの高さに驚かされる。
現時点でホンダは、課題の洗い出しや事業性の検証などの行い、その実現への目途をつけた。
このシェアリングサービスの魅力は、燃料と同様に使った分だけのコストを払うこと。だから、必要な時にいつでも充電ステーションで、満充電のモバイルパワーパックと交換することができるのだ。しかも充電済みのものが用意されているから、充電待ちの時間も不要となる。その手軽さが支持されたようだ。
しかし、このシステムを利用するには、ドライバーが相棒となる電動リキシャを購入する必要がある。そのいっぽうで、高価なバッテリーは借りることになるので購入不要。
インド政府からは電動リキシャ購入時に所得税が免除されるなどの優遇措置もあり、車両代や燃料費、メンテンスまで含めると、既存のエンジン車のリキシャと電動リキシャのトータルコストは同等に近いという。さらに静かで走りやすく、乗り心地も良くなることが、ドライバーや乗客からも好評だというから、今後、拡大していく可能性は非常に高いといえそうだ。
ホンダは、この他にも、フィリピンでの電動バイクとバッテリーのシャアリングサービスやインドネシアでのモバイルパワーパックの多用途利用などの実証実験も行っており、サービスの仕組みや利用データの蓄積に加え、高温多湿な環境下でも問題なく、利用できることなども性能の確認まで行っている。
■電動バイクや家電製品など「使える製品」拡大中
日本での取り組みは、まだビジネス向けの電動バイクでの活用に限定されているが、パワープロダクツ事業で、除雪機や蓄電池、発電機などの展開や他社に向けた汎用エンジンの供給を行っているだけに、モバイルパワーパックの活用を広げる製品開発が進められている。
ホンダ独自としては、住宅用蓄電池にモバイルパワーパックを活用することで、家庭用電源とするだけでなく、電池を取り外すことで、電動バイクなどの他製品の動力に活用する仕組みや製品の研究開発。さらに建設機械大手のコマツとは、電動マイクロショベルの共同開発も行っている。
環境対応はもちろんのこと、住宅地などの工事で活躍するマイクロショベルは、騒音低減も課題のひとつ。その効果も期待されているのだ。また楽天による自動配送ロボットの走行実験には、ホンダの電動プラットフォーム型ロボティクスデバイスが活用され、この動力源も、モバイルパワーパックなのだ。また国内外の2輪メーカーとも電動バイクでの交換式バッテリーと交換式バッテリーシステムの標準化に向けて、取り組みも始められている。
先にも述べたが、モバイルパワーパックは、データの蓄積など知能化が図られている。
これは防犯面や性能維持、リサイクルの円滑化などの狙いがある。これらの機能は、承認が行えない製品が使用不可となるプロテクト機能やシャアリングサービスなどでの充電設備に類似品やアフター品の混入防止、性能低下の検知によるバッテリー利用目的の変更などを行うためだ。
それと同時に、交換式バッテリービジネスの主導権を取る狙いもあると思われる。
世の中の製品には、多くの共有規格が存在するが、主力となれるのはほんの一握り。例えば、SDメモリーカードやブルーレイディスクなどがある。主権争いで最も有名なのが、VHSとベータマックスによるビデオ戦争だ。今後、ホンダに対抗するシステムの登場も十分あり得るため、ホンダは積極的な姿勢を見せているのだろう。
現時点では、まだ自動車ビジネスに関するモバイルパワーパックの活用例はないが、EVの普及については、今後、エネルギー切れによるトラブルの拡大が予見される。2020年度のJAFの出動理由を見ると、高速道路での4輪車のトラブルの2位が「燃料切れ」。2輪車については1位となっている。
この緊急時の補助電源に、モバイルパワーパックの活用が期待される。うっかりミスでなくとも、大事故などによる交通渋滞などに長時間巻き込まれれば、暖房などの影響で、電欠が発生することも十分考えられるからだ。
このように色々な活用が期待できる製品だけに、大きなビジネスへと発展していく可能性も非常に高い。他社を含め、今後の動向に注目だ。
(編集部注/ホンダは、本稿で触れた現実的な利用のほかに、さらにその先の未来にも期待しているだろう。この交換可能なバッテリーのレンタルサービスを開始したことで、ホンダ社内に知見が貯まっていけば、現時点での利用可能な電動製品を超えた、多くのバッテリー製品に影響を及ぼすことができる。災害時の利用にも可能性は広がるし、各自治体がライフライン維持のために購入、利用するかもしれない。公共交通機関への採用だってありうる。そうなると生活の隅々までホンダ製品が入り込むことになり、ホンダはますます「乗り物の会社」を超える活躍が期待されることになる。いま「ホンダ・スピリッツ」はこうした方面に挑戦しているということか)
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