■ターゲットは日本の若い世代か
いまの日韓の若い世代はお互いの国のファッションやサブカルチャーなどに興味を持ち、古い世代ほど両国民間に横たわる“モヤモヤ”としたものをあまり感じていないように見える。
日本の若い世代は、韓国のコスメや雑貨、K-POPや韓流スターが大好きなひとが多い。いや、年配層でも女性を中心に韓国カルチャーに興味津々なひとは多い。つまり、このような世相変化も再参入の追い風になると考えているはずだ。
ヒョンデは発表した2台をオンライン販売のみとしている。新車ディーラーへ足を運び、時間をかけてセールスマンと値引き交渉し、現金払いもまだまだ多い一般的な新車販売スタイルに馴染まない(面倒くさい)若い世代を中心とした層に特化してアピールしているのも間違いないだろう。
心情的に韓国を快く思わない人まで取り込もうとすれば、それは参入コストの増大にもつながることになるだろう。量販を狙わずに少ないながら、まずはしっかりブランドとして浸透させようとしているようにも見えてならない。
BEVなどのゼロエミッション車はこれから数十年自動車の運転を続ける若い層が主役のモデル。今後5年や10年先にそんな層が消費の中心世代になるころを見越した長期的なビジョンでも、このタイミングで再参入しているようにも見える。
そしてさらに追い風になりそうなのが、若い世代は韓国のほうが、日本よりも先進国だと思っている人がいることだ。
韓流ドラマが世界各国で放映され、K-POPグループが全米ヒットチャートでトップを飾っている。スマホなどではサムソン、大画面テレビではLGなどが、日系家電ブランド以上に世界的にはステイタスを高めている。
つまり、韓国車と聞いて、日本車より先進的だと感じる若者も少なくないはずである。
事実、かつて再参入前に日本で販売していた当時の日本車と韓国車ほど、いまはその差は大きくないどころか、世界のトレンドをどれだけ貪欲にクルマ造りに反映しているかといえば、韓国車のほう軍配が上がるといっても過言ではない。
カムリクラスとなるソナタでも、度肝を抜くようなエクステリアデザインを採用している。自国マーケットの規模が大きくないので、海外マーケットに頼らざるを得ないこともあるので、世界のトレンドを敏感にキャッチしなければならない事情もある。
しかも、“できないものはできない”として、海外のメーカーからモジュールパーツなどを導入したり、海外デザイナーに腕をふるってもらうなど、日本のように“日の丸●●”にこだわらず車両開発しているところも感度の高いモデルを作り出しているようである。
韓国の街角の映像をテレビで見ると、最新トレンドを採り入れた韓国車が道路を埋めつくしている。やや世界トレンドに乗り遅れ傾向の日本車が多く走る日本より、明らかに見た目にも先進性を感じずにはいられなくなってしまう。
■カギを握るのはやはりゼロエミッション車か?
ヒョンデの韓国でのラインナップを見ると、乗用車だけではなく、キャブオーバートラックやマイクロバス、路線バスなどでもBEVが設定され市販されている。それだけ見ても、ある意味BEVだけを見れば韓国車のほうが先をいっているといわれても全否定はできないだろう。
BEVやFCEVなど、ゼロエミッション車は見かけだけではクルマのような形をしており、基本的な用途は内燃機関車と変わらないのだが、内燃機関車とは異なる商品であると発想の転換が成否を分けるような気がしてならない。
内燃機関車を長い間使ってきた古い世代は内燃機関車臭の強いゼロエミッション車に親しみを持つが、それはあくまで過渡期の商品。
筆者にしても、いまの年齢を考えるとあと20年ほどまともにクルマが運転できるかなといった状況。しかしゼロエミッション車はこれからの100年を担うような、次の世代がメインで使うものとなる。
つまり、単に“電気で動くクルマです”ではなく、そのセールスプロモーションも含め、どこまで“内燃機関臭”を消すことができるかが成功のカギを握っているともいえよう。
ヒョンデの今回の日本市場再参入は、次の世代の“総取り”を狙っているかのような巧みさというものを感じてならない。
とっくにバブル経済が崩壊し、“失われた20年”に育ってきた若者には、日本の家電製品や自動車が圧倒的な先進性を武器に世界で売れまくっていた“もの作り大国”というイメージを日本に持たず、まったくなく目線はフラット。
ヒョンデは斬新なデザインのミニバン“スターリア”についても、日本国内未発売にも関わらず国内で密かに様々な人に試乗してもらっているとの情報もある。ヒョンデ乗用車の日本市場再参入計画がアイオニック5とネッソだけで終わらないのは自然の流れと筆者は考えている。
ある意味、日本市場のマーケット自体は今後も縮小傾向が目立っていくものの、前述したように日本車の“隙”が広がりを見せているので、外資ブランドとしては“数少ない残された有望市場”と考えるところ(中国メーカーなども狙っているだろう)は多いようだ。
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