■まずは2台のみをオンライン販売で
日本市場への乗用車販売の再参入において、まずBEV(バッテリー電気自動車)となる“アイオニック5”と、FCEV(燃料電池車)となる“ネッソ”の2台をオンライン販売のみで進めていくとしている。
再参入の正式発表に先立ち、ヒョンデはネッソをメディア露出やモータージャーナリストなどに積極的に試乗してもらったりする一方、カーシェアリング車両として使ってもらうなど、入念に投入前の市場リサーチを行っていた。
一度撤退しているだけに、軽々には再参入することはできないという、“決意”のようなものを個人的には感じた。
韓国ブランドで初めてのオリジナルモデルとしてデビューしたのは、1975年の初代ヒョンデポニー(コンパクトハッチバック)となる。そして1985年にポニーの後継モデルとなる“ポニー エクセル”がデビュー。
のちにポニー エクセルからエクセルへ改名するのだが、このモデルが1986年に初めて北米市場で販売されるようになってくると、韓国車というものが世界的に注目されるようになった。
ヒョンデUSAによると、2022年2月のアメリカでのヒョンデ車の販売台数は5万2424台、ヒョンデ傘下の起亜(キア)USAによると、起亜ブランド車の販売台数は4万9182台となり、この2ブランド(ヒョンデグループ)の合計販売台数は10万1606台となった。
一方アメリカンホンダによると、2022年2月のホンダ及びアキュラの合算、つまりホンダトータルの販売台数は8万4394台となっている。アメリカにおいてヒョンデはジェネシスという上級ブランドもあるのだが、ヒョンデと起亜だけで、ホンダトータルの販売台数を抜いている。
■ヨーロッパでも存在感を示すヒョンデ
またヒョンデグループは、日系ブランドが苦手としている欧州市場でも日系ブランドより存在感を示している。新興国へも積極的に進出しており、日系ブランドが及び腰となる、紛争地帯などでもニュースレポートの映像の記者の背景には、ヒョンデや起亜のクルマが多数映っていたりしている。
エクセルでアメリカ市場へヒョンデブランドが初進出したころは、それこそ“安かろう悪かろう”といった、激安ブランド色が強かった。起亜ブランドが進出した当初も廉価版車的イメージが強かった。
しかし、15年前ほどから日本車にはないエッジが効いたりして、スタイリッシュなデザインをヒョンデでは採用するようになる。
カリフォルニアにあるデザインセンター所属の欧米デザイナーなどの手を借りて、ヒョンデ、起亜ともに日本車ではコストなどの問題もあり表現できない、彫りの深いプレスラインを多用した凝ったデザインのモデルを数多くラインナップしている。
また起亜ではフラッグシップモデルといっていい、FR方式を採用するスティンガーをラインナップするなど、ブランドステイタスアップも積極的に行っている。また、上級ブランドジェネシスのG70というモデルは、2019年に韓国車としては初めて“北米カーオブザイヤー”を受賞している。
世界一の自動車市場である中国においては、2017年の韓国内におけるTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)配備による、中国国内での韓国製品の不買運動の余波をいまも引きずっており、精彩を欠く状況が続いている。
販売台数では世界一のトヨタには及ばないものの、2019暦年締めでの世界年間販売台数で、ヒョンデグループは第5位となっている。このように、世界的には存在感を見せるヒョンデグループなのだが、唯一気になるのが、“世界第三位の市場”とされる日本で乗用車を販売していなかったことだったとも聞いている。
そのヒョンデがここへきて日本市場へ乗用車販売の再参入を行ったのかは、単に経営トップの判断だけではないだろう。かつて日本市場で乗用車販売をスタートさせたころに比べれば、日本市場への参入の敷居が下がったのを実感したのではないだろうか。
今回発表した2台のうち1台となるアイオニック5は日系ブランドが世界的にも出遅れが顕著となっているともされるBEVである。つまり、かつてに比べて日系ブランドにはラインナップなどに“隙”が目立つようになってきたのである。
つまり、日本車にはない、あるいは苦手とする“隙間商品”が目立って多くなってきており、そこに外資がつけ入るチャンスができているのである。
さらに、韓国車だけでなく韓国全体に対するイメージの世代間格差が広がっていることもあるだろう。筆者のような50歳代ならば、日本人なら韓国を、韓国人なら日本に対して良い印象を持たない人が結構目立っている。
また、内燃機関の自動車産業としてみれば、日本はその規模だけでなく、歴史も古く韓国車に比べれば“先輩”であり、クルマ好きの日本人ならば韓国車を日本車に対して格下に見てしまうひとが古い世代ほど目立つはずだ。
ただ、日本国内での乗用車販売から撤退して12年ほど経っているので、韓国車のイメージがいまでも“薄利多売”商品的な印象が強い人もいるが、まったく韓国車がイメージできない人のほうが大半のようにも見える。
しかし、後者、つまり韓国車についてイメージができない人が多ければ、これも再参入の追い風にすることもできるのである。
コメント
コメントの使い方