■インスピレーションに繋がれば、と
実はこの宏光 MINIEV、公道は走れないものの、日本に研究目的で輸入されたことがある。2021年6月に一般社団法人 日本能率協会が開催した「TECHNO-FRONTIER 2021」に出展された。
日本能率協会によると、「小さな電子部品が集まって作られる究極の完成体がEVであること、そしてイベントのターゲットである日本のエンジニアに中国でもっとも売れているEVを見てもらうことで、なにかのインスピレーションに繋がれば」という想いのもとで、日本初の展示に踏み切ったとのこと。
能率協会のイベント後は名古屋大学の山本真義教授率いるパワーエレクトロニクス研究室にて2021年ひと夏の間展示されたり、国内の某自動車用電装部品メーカーなどに研究目的で貸与されたりしたこともあった。そして同年10月、実際に宏光 MINIEVを分解し、外からは見えない中身の実情を知るための「分解大会」が名古屋大学で開催された。
筆者もこの「分解大会」に参加させてもらったのだが、当日はトランジスタ製造会社や、大手モーター製造会社、変速機製造会社、自動車用電装部品製造会社など、多種多様な国内の自動車関連企業の社員なども参加しており、さすがは話題のEVといったところだ。分解は自前の工具を用意してきた参加者たちによってスムーズに進められ、オンボードチャージャー、DC-DCコンバータ、12Vバッテリー、車両接近警報装置、エアコン用コンプレッサなどの各種電装品が車体から続々と取り外されていった。
駆動用バッテリーやモーターなどの駆動に関わる主要部品は車体本体の分解と並行して、各電装関連会社の社員によって細かく分解されていった。
分解してみると、予想をはるかに上回るしっかりとした設計、そして洗練された部品配置に誰もが驚かされた。内装においてはダッシュボード、内張り、パネル、ディスプレイなど、どれも日本車に引けを取らないクオリティで作られているのがわかる。また、駆動系の制御に用いられる部分も、分解に参加した電装部品メーカーの社員は「効率よく設計されている」と、驚きの声をあげた。車体のサブフレームはパイプフレームのような構造になっており、これにより高い剛性と車体の軽量化を実現。量産車、それも日本円にして60万円以下で販売される格安EVにこのような構造が採用されているのに参加者はただただ圧倒されていた。
また、その車両を構成する要素をやみくもに妥協して使う人に不便を強いるのではなく、本当に不要な部分は不要と割り切って取り除く「割り切りのよさ」も価格の安さとクオリティを両立させる重要な要因の一つであった。
分解大会を行った名古屋大学の山本真義教授が日経新聞に提供した宏光MINI EV(航続距離170km、バッテリ13.9kWhを搭載する上級グレード。日本円で約69万円)の推定コストが非常に興味深いので以下に紹介させていただく。
大容量バッテリ(13.9kWh):16万円
電動系(モータ、インバータ、デフ):5万円
電装系(OBC、DC-DC等):6万円
足回り系:4万円
ボディ(ハイテン材57%):5万円
組み立て、販売、サービス:6万円
装備(エアコン、ABS等):6万円
合計はなんと48万円! 異常なまでに原価率が高そうだ。
「中国で原価ギリギリなので、日本での製造は無理。販売元の五菱もNEVクレジット制度にてなんとか利益化を実現しているのでしょう」(山本教授)
ちなみに日本で2021年、最も売れたトヨタヤリスの販売台数は約21万台。原価ギリギリであってもNEVクレジットの助けもあり、年間42万台が売れる中国市場なら成立する価格設定と言えるだろう。
【画像ギャラリー】シンプルさを究極まで研ぎ澄ませた「宏光MINIEV」の姿(10枚)画像ギャラリー
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