■【注意】「全車種の納期が短縮」というわけではない
新たに構築された「J-SLIM」の特徴は、一言でいえば「メーカー側からも販売店側からも、いまどのクルマにどれくらいの注文が入っており、注文したクルマがいまどの工程にあっていつ頃納車されるか、リアルタイムで見える仕組み」。
現時点から2年先までの注文(システム入力)が可能で、メーカー側と全販売会社の双方がリニアに状況を把握できる。調達時期の見通しが比較的難しい部品の納品管理も透明化され、法改正やモデルサイクルにより「改良/価格改定」を受ける時期も、メーカーと各販売会社が共有することで、「納期を待っている間に改良や価格変更が発生して注文を取り直す」という事態が減少する。
ざっくり言えば、大雑把な受注がなくなることで、商品の偏りが減って、納期が透明化するわけだ。
トヨタといえば、全国各地に(「自販時代」から続く)「その地域に根差した競争意識の強い販売会社」を数多く抱えており、そうした各社の足並みを揃えて一気に(透明化された)販売管理システムを導入する、というのは至難の業だったのでは…と予想したが、会見で友山氏にその旨を聞くと、意外や「販売会社の皆さんからの反発はほぼなく、皆さん歓迎してくれました」とのこと。
コロナ禍と半導体不足に苦しんだこの3年、多くの車両について「納期不明」、もしくはいったん決まった納期が何度も変更…と告げられた経験を持つユーザーは多いのではないか。ユーザー側も苦しかったが、販売店側も大変だったこと、これをなんとか改善したいという願いが強かったのだと察せられる。
少なくともトヨタでは、この「J-SLIM」の導入により「納期の揺れ」は大幅に減少され、また(商品の滞留や偏りが減るぶん)全体的な納期も短縮されることになる。
今年1月から10月にかけて、トヨタの平均納期は、トヨタブランドで「6カ月」から「4.7カ月」へ、レクサスブランドで「5.5カ月」から「3.5カ月」へとそれぞれ短縮している。もちろんこの短納期化は、増産体制が整ったことや各種物流関連の改善努力も寄与しているが、そのうえでJ-SLIM導入により(増産し増量した)商品が滞留することなく管理され、スムーズに「現場」へ届けられた効果は大きい。
これまで60年以上続いた、自動車を作る側と売る側の(ある種の不文律をベースとした)需給の仕組みが、この「J-SLIM」の導入により一気に刷新する。今年1月の新型プリウスから導入され、年内には全車種全店舗へ展開するというから、「効果」は加速度的に進むと見た。「巨人」トヨタの力が、さらに強まりそうだ。他メーカーもがんばってほしい。
最後に一点注釈を。このJ-SLIMの最大の恩恵は「見える化」による物流の滞留や偏りの解消、「待っているあいだのストレス解消」にあるため、ランクル300やレクサスLX、新型アルファードなど、生産台数が限られる特殊な超人気車種については、絶対的な需給格差が埋まっておらず、今後も長納期化は続かざるをえない見込み(現時点ではそうした「納期が見えない=納車前にモデル改良が実施される見込みのため納期を出せないモデル」については、「注文停止」という対応をとっている)。
いやもちろん、いま人気があるからといって即増産など一朝一夕にできるわけがなく、世界的な需要バランスや部品供給、組み立てラインの問題、人気が続くかどうかわからないというジレンマがあるのはわかるのですが…。多くのお客さんが待ち望んでいる超長納期(とそれにともなう中古価格の高騰)は困るわけで…、こうした一部の人気車については、気長に待ち続けるか、リースや(KINTOなどの)サブスクサービスで一時保有を狙う…というのが、新時代の「こだわりのクルマの持ち方」なのかもしれない。
【画像ギャラリー】「J-SLIM」画面と効能…これが全車種全店舗に…恐るべし…トヨタ……(6枚)画像ギャラリー
コメント
コメントの使い方