本当に可能か?「2050年に脱炭素」を達成するため必要な「2035年」までの戦略【短期集中連載:第五回 クルマ界はどこへ向かうのか】

■欧州は「次はこれ」と言って何度も放り出してきた

 さて、前回書いたとおり、集合住宅では基礎充電が難しいこと、長距離移動に向かないこと、人口密集地以外では充電インフラが厳しいことなどから、BEVの普及率は最大で30%程度だと思われ、そこから先を目指すには、時間をかけた地道な技術開発とインフラ整備が必須になっていくはず。それをやり抜く力が果たしてあるのかどうか。

 過去を振り返ると、欧州は毎度「次はこれっきゃない」とトレンドを打ち出しては、途中で飽きて開発を放り出し、なかったことにしてきた。

 2000年代には燃料電池、その後クリーンディーゼル、ディゾット(HCCI)、DCT、ダウンサイジングターボなどなど、欧州がやり切ることなく投げ出した技術は枚挙にいとまがない。そしてそれをずっと真面目に研究開発して、実現化してきたのが日本の自動車産業である。

 燃料電池はトヨタがMIRAIで世に出し、クリーンディーゼルとディゾット(SKYACTIV-X)はマツダが商品化した。

 もちろん拾わなかった技術もある。DCTやダウンサイジングターボあたりは、今のところ開発を継続している様子はない。しかし、国内各社の発表を見ていると、BEVについては明らかに開発を続行中である。

 となると、これは過去にいくつも見てきた前例のように、10年経ったら「BEVと言えばメイドインジャパン」という時代が来るかもしれない。現在のハイブリッドカー同様、日本のBEVが世界を席巻する可能性もあるように思う。

トヨタMIRAI。2014年に初代、2020年に2代目(現行型)が登場した、世界初の量産型燃料電池自動車。高圧水素タンクを車内に擁し、電気モーターで駆動する
トヨタMIRAI。2014年に初代、2020年に2代目(現行型)が登場した、世界初の量産型燃料電池自動車。高圧水素タンクを車内に擁し、電気モーターで駆動する

 すでに欧州もアメリカもBEVが思ったように売れず、普及が難航している様子が報道されはじめているのを見ると、どうも欧州各社の熱意は冷めつつあるように見受けられる。

 その時、海外メーカー各社はいつものように手の平を返すのか、今度こそ後がないと頑張るのかはわからないが、筆者は過去に投げ出してきた彼らが今回だけ頑張ることはあまり想像できない。信頼というものは実績が作るものだからだ。

 もちろん、現状は楽観できるようなものではない。レアアースの多くを中国が握っている以上、まず「それ」をひっくり返す戦略が必要になる。そういう意味ではトヨタ系列の豊田通商が、アルゼンチン、ベトナム、インドなどでレアアース調達活動を成功させていることが大きい。

 トヨタが「2030年までのバッテリー原材料確保は問題なし」と公言しているのは、この豊田通商のレアアースがあってこそだ。ただし、当然ながらその先をどうするかは、まだ予断を許さない。

■BEV化オンリー以外の可能性にも道を開こう

 何度も書いてきたとおり、日本のメーカー各社の基本戦略はマルチパスウェイであり、バッテリー確保はその全体図の一部でしかない。ほかの手段はどうなっているのか。そういう意味では合成燃料に大きな期待がかかる。

 先に述べたとおり、「2035年までに内燃機関をどうするか」という話は、確かにBEVオンリー戦略で見ると、そこがタイムリミットになるのだが、カーボンニュートラル燃料(CNF)の生成に筋道がつけば話は変わる。CNFのポイントは保有車両のカーボンニュートラル化にも有用なことだ。

 それなら2050年までに市販される燃料のCNF比率を高め、最終的に100%にすれば実現できる。もちろん今販売中のクルマを無加工のままでCNFに切り替えようと思えば燃料の種類が限定されてしまう。

 e-FUELであればそれも可能だが、バイオエタノールなどのアルコール系の燃料は、配管の一部を取り替える必要がある。

合成燃料(e-FUEL)とバイオ燃料は、脱炭素戦略の重要な要素のひとつであり、内燃機関が生き残る可能性でもある。合成燃料でいえばコストは現在ガソリンの3-5倍程度の価格で、バイオ燃料も低価格化と流通整備の検討が進められている
合成燃料(e-FUEL)とバイオ燃料は、脱炭素戦略の重要な要素のひとつであり、内燃機関が生き残る可能性でもある。合成燃料でいえばコストは現在ガソリンの3-5倍程度の価格で、バイオ燃料も低価格化と流通整備の検討が進められている

 一方ブラジルではすでにバイオエタノール100%の燃料が普通に売られており、現在ブラジルで販売されている新車はすべてアルコール対応済みだ。

 ちなみにメーカーに問い合わせたところ、新車をアルコール対応させる際の費用増加は1万円から2万円程度とのこと。仮に車検の際にレトロフィットで配管を交換するとしても、おそらく10万円もかからないはずだ。それこそ補助金の出番である。

 2050年にカーボンニュートラルを実現できるかどうかは、BEVだけで挑む限り、かなり難しいと思われるが、こうした燃料を使う方法を併用すれば、実現性がグッと上がる。

 BEVの技術改良を粛々と進め、可能な範囲で普及を拡大させつつ、それで足りない分はもう一方でCNFへの転換を急ぐ、ガソリンエンジン車もディーゼルエンジン車も、それぞれ置き換え可能な燃料がある。

 そうしたマルチパスウェイを進めていけば2050年カーボンニュートラル達成の可能性が見えてくる。

■池田直渡の「脱炭素の闇と光」シリーズ

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