【ガラパゴスCVTの憂鬱】なぜCVTはATに代えられないのか?


 なぜ日本車だけCVTを採用しているのだろうか? ATに比べるとつながりがギグシャクしている……、CVTはアクセルを強く踏み込んでも音が騒がしくてなかなか思うように前に進まない……、というCVTに対する不満はまだまだ多く聞かれる。

 そんな不満の声とは裏腹に、CVTは日進月歩の勢いで進化を遂げている。大きいほど性能がいいとされるレシオカバレッジの数値は日産とジヤトコが共同開発した副変速付きCVTは7.23、レクサスUXやトヨタRAV4、新型ヤリスに搭載されたダイレクトシフトCVTは7.56、新型タントに搭載されたD-CVTは6.6と、5速または6速AT並みだったレシオカバレッジが7速、8速AT並みに進化している。

 かたや新型デイズ&ekシリーズが使うジヤトコの新型CVT-Sは低燃費と動力性能を両立させるために、副変速機を省略してレシオカバレッジを7.8から6.0へ縮小させている。

 ここで改めて、CVTはなぜ日本ばかりが採用するのか? CVTよりもATのほうがいい(特にスポーツモデル)という声が多いのに、 なぜCVT搭載車はATに代えられないのか? 自動車テクノロジーライターの高根英幸氏が解説する。

文/高根英幸
写真/ベストカーWEB編集部 Adobe Stock

【画像ギャラリー】CVTとATの長所と短所、最新CVT搭載車の詳細


CVTの加速フィールはひと昔前と比べ、かなり改善されている!

CVTは プーリーをベルトが回って無段階に変速する(写真はエレメント式金属製ベルト)

 今や絶滅危惧種のMTはDCTへと進化を果たし、クルマの操作は2ペダルが常識になった。その結果、日本の乗用車市場の変速機はATとDCT、そしてCVTのほぼ3種類に集約されている。

 しかしながらクルマ好きにはCVTはあまり人気がない。日本独特の変速機として、いわゆるガラパゴス化が進んでいる。

 例外はチェーン式CVTを採用するアウディくらいのもので、それも縦置き変速機での独自性を強調するための1要素として採用されている印象だ。スバルもアウディ同様、チェーン式CVTを採用しているのは水平対向縦置きエンジンを強調し、ワイドな減速比幅を実現するためだ。

 単純に生産コストを考えれば、一般的なCVTは多段ステップATより低く抑えやすい。しかしCVTには致命的な問題点があったのだ。

 CVTの問題点は大きく分けて2つある、1つは加速フィールの悪さだ。CVTの利点は無段変速機というだけあって、変速に段付き間やショックがないこと。しかし、その反面加速フィールにメリハリが出しにくい。

 特にひと昔前までのCVTは全開加速時にエンジンの最大トルク発生回転数以上をキープして、徐々に減速比を下げていく(ギアは高くなる)ような制御をしていたクルマが多かった。

 これはエンジン性能を引き出して加速時間を短縮することが目的だったが、実際には常に変速しながら加速していくのでたくさんの油圧を使い、なおかつ減速比を高めていくことでエンジン側の負荷が増えるためトルクコンバーターの損失も増えてしまう。

 その結果、加速Gが高くなく、エンジン回転ばかり上がっていて緩慢な加速フィールに陥っていたのだ。

 もう一つの問題点が伝達効率の低さである。エレメント(金属製の小さな部品)を金属ベルトで連結したエレメント式CVTはギアやチェーンと違い、ベルトとプーリーの摩擦によって駆動力を伝達する。

 つまり、しっかりと駆動力を伝えるには、プーリーがガッチリとベルトを挟み込む必要がある。

 それには大きな油圧が必要で、油圧ポンプを駆動するためのパワーロスが、まず駆動損失になってしまう。

 さらに駆動力を伝達する時にはガッチリとベルトを挟み込んでいながら、プーリーからベルトが離れていく時には適度な潤滑が求められる。滑りを防ぎながら、次のシーンでは潤滑が求められる。CVTは矛盾に満ちた変速機なのである。

 欧州や北米、中国といった主要な自動車市場ではCVTの需要が低い。欧州ではCVTの加速フィールの悪さ、北米では大トルクを求める傾向が強くCVTは不向き、中国市場では日系車はCVTを採用している車種も多いが、メリハリのある走りを好む中国人にはあまり人気はないようだ。

 しかし、現在販売されているCVTのなかでも、加速フィールに優れたクルマは多い。それは欧州の自動車メーカーはとっくにサジを投げたこのCVTを、日本の変速機メーカーのエンジニアたちは、あきらめることなく辛抱強く、熟成させていったからだ。

日本でCVTが生き残った理由

WRX S4にはCVT(スポーツリニアトロニック)を搭載している。特にスポーツモデルにはCVTよりもDCTあるいは多段化AT(8速以上)が望まれている
変速ショックのない滑らかな加速とリニアなレスポンスを提供する「スポーツリニアトロニック」。WRX S4ではエンジンの高出力に対応した専用設計としている。Dレンジでの走行でSI-DRIVE「I」または「S」を選択時、アクセルを一定以上に踏み込むと無段変速からスポーティな感覚を味わえるオートステップ切り替え制御を採用。さらに「S♯」選択時は8速クロスレシオのステップ変速制御とし、MT車のようなスポーティな加速とダイレクトな変速が楽しめる

 日本メーカーだけがどうしてCVTを作り続けるのか。それは日本ではまだそのメリットが見過ごせないから、という点が大きい。

 まずコンパクトカー以下の車両には8速ATを収めるスペースがなく、生産コストの関係からも導入は難しい、という背景がある。

 それにCVTの高い燃費性能は、やっぱり大きな武器だ。軽量で走行抵抗の低いコンパクトカーでは巡航時にアイドリング付近にまでエンジン回転を下げて走るほど、CVTの減速比幅のワイドぶりを発揮する。

 ここまでエンジン回転を絞れるのであれば、ATに比べ伝達効率が低くても燃費は高められる。

 これを4速ATで実現しようとしたら、ステップ比(各ギアの減速比の差)が大きくなり過ぎて、加速中の変速で回転が大きく落ち込んでしまうか、トルクコンバーターで回転の落ち込みを防ぐため撹拌抵抗で効率が大きく落ちてしまうことになる。

 5速以上のATは遊星ギアがもう1セットは必要になるので、スペースとコストの制約で一気にハードルが上がってしまうのだ。

 それにCVTは、構造が単純で機能が複雑であるため、実に繊細な仕上げと制御が要求される変速機なのだ。

 これを実現するにはプーリー表面の仕上げやチェーンのコマの熱処理といった機械部品だけの改良だけではなく、特殊な特性のCVTフルードの開発など、化学分野まで駆使した日本のテクノロジーがフル動員されて、最新のCVTは作り上げられている。

 これはもう単純に日本の変速機メーカーのエンジニアによる努力の賜物と言っていい。ある意味、日本企業の気質、エンジニアの特性が表れた変速機がCVTなのである。

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