日本でCVTが生き残った理由
日本メーカーだけがどうしてCVTを作り続けるのか。それは日本ではまだそのメリットが見過ごせないから、という点が大きい。
まずコンパクトカー以下の車両には8速ATを収めるスペースがなく、生産コストの関係からも導入は難しい、という背景がある。
それにCVTの高い燃費性能は、やっぱり大きな武器だ。軽量で走行抵抗の低いコンパクトカーでは巡航時にアイドリング付近にまでエンジン回転を下げて走るほど、CVTの減速比幅のワイドぶりを発揮する。
ここまでエンジン回転を絞れるのであれば、ATに比べ伝達効率が低くても燃費は高められる。
これを4速ATで実現しようとしたら、ステップ比(各ギアの減速比の差)が大きくなり過ぎて、加速中の変速で回転が大きく落ち込んでしまうか、トルクコンバーターで回転の落ち込みを防ぐため撹拌抵抗で効率が大きく落ちてしまうことになる。
5速以上のATは遊星ギアがもう1セットは必要になるので、スペースとコストの制約で一気にハードルが上がってしまうのだ。
それにCVTは、構造が単純で機能が複雑であるため、実に繊細な仕上げと制御が要求される変速機なのだ。
これを実現するにはプーリー表面の仕上げやチェーンのコマの熱処理といった機械部品だけの改良だけではなく、特殊な特性のCVTフルードの開発など、化学分野まで駆使した日本のテクノロジーがフル動員されて、最新のCVTは作り上げられている。
これはもう単純に日本の変速機メーカーのエンジニアによる努力の賜物と言っていい。ある意味、日本企業の気質、エンジニアの特性が表れた変速機がCVTなのである。
進化を続ける最新CVT
CVTはシンプルな機構ではあるが、最近は飛び道具を仕込んだモノも登場している。日産(生産は共同開発したジヤトコ)は副変速機を搭載して減速比幅を拡大させているし、モーターを組み込んだハイブリッドも用意した。
変速比幅(レシオカバレッジ:最大変速比を最小変速比で割った値)は、大きいほどパフォーマンスや燃費を高めることができる。
これまではプーリーの大径化と副変速機構を設ける方法を選び、従来型のジャトコCVT7では当時世界一の7.285を実現した。
しかしCVT7は、軽だけでなく小型車にも適用させるために「ある意味、軽にはオーバースペックだった(関係者)」ところがある。
新型日産デイズ&三菱ekが採用したジヤトコ製CVT-Sは、日本の道路事情と軽の使われ方を見直し、燃費と動力性能を両立する考えにシフト。軽自動車というサイズが制限されるカテゴリーにあって、プーリー内径の細軸化という発想に切り替えた。これによりあえて副変速機なしにして5.968を達成している。
プーリー内径の細軸化に加え、シーブ部や油圧室部品を薄肉化。各部品の軽量化を進め、従来型のCVT7に対し約4.2kg(重量比:約6%)のウエイトダウンを果たしている。
最軽量のデイズSで830kgという車両重量を実現することに貢献した。低燃費を実現するために低フリクション・ボールベアリング、低フリクション・ベルトを採用したのもポイント。
また、プーリー保持油圧、潤滑配分、ファイナルギア比を最適化することで、CVT7比で約8%のフリクション低減を達成した。新型デイズのWLTCモード21.2km/L(JC08燃費は29.4km/L)という燃費性能に寄与している。
トヨタ(生産は共同開発したアイシンAW)は発進専用ギアを組み込むことで、ベルトの負担を抑えて燃費と加速フィールを向上させたCVTを登場させている。現在、レクサスUXやRAV4、新型ヤリスに搭載されているダイレクトCVTだ。レシオカバレッジは7.555を達成している。
特徴はCVTだけで完結するシステムにあえて発進用ギアを追加したことで、これにより前述したジンワリとした発進や、その後の力強い加速が可能になった。
また、この発進用ギアを追加したことで、高速走行時に使用するCVTの変速比幅を従来型と比べてハイギアード化することが可能になり、結果、エンジン回転数が低く抑えられ高速巡航時の燃費数値向上にも貢献する。
ダイハツは、通常の金属ベルト式CVTに遊星ギア式動力分割機構を追加した全面新設計のCVT(無段変速機)、「D-CVT(デュアルモードCVT)」を新型タントに新搭載した。
ギア駆動併用のCVTといえば、前述した、変速比の幅を拡大するためにCVTに2段式の副変速機を組み合わせたジヤトコのCVT7、ドライバビリティの改善を目的としてCVTに発進用のギアを組み合わせたアイシンAWの「ダイレクトシフトCVT」などが思い浮かぶが、D-CVTはどちらの変速機ともギアの使い方が異なる。
まず、発進、加速、低中側での巡航などは従来のCVTと同様に、金属ベルト式の変速機構のみで変速比をコントロールする「ベルトモード」。動力分割機構のクラッチは切断状態で、動力伝達経路にはならない。
D-CVTのレシオカバレッジは5.3から7.3(新型タントでは6.619)へと拡大し、改良型エンジンの合わせ技により、新型タントの巡航燃費は現行モデルに対し、60km/h時で12%、100km/h時では実に19%改善したという。
ホンダは軽バンのアクティではATを採用していたが、N-VANでは燃費のためにもCVTを採用している。しかし、人も荷物も載せる積載量の大きい商用車でのCVT採用は実績がなく、エンジニアは開発する際、アクティのATを手掛けた技術者が社内に残っていなかったこともあって、各部品の強度など基準が分からず苦労したそうだ。
■各メーカーのCVTはどこのメーカー製なのか?
トヨタ:内製/アイシンAW、日産:ジヤトコ、ホンダ:内製、マツダ:アイシンAW、三菱:ジヤトコ、スバル:内製、ダイハツ:内製、スズキ:ジャトコ
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