2020年11月19~22日に開催されることが決まったWRCラリージャパン。WRCが日本で行われるのは実に10年ぶりのことだ。
しかも、2019年シーズン、トヨタが25年ぶりにドライバーズ&コ・ドライバータイトルを獲得するなど、ここのところ日本に関連するWRCの話題で上げ上げムードになっている。
そんななか、スバルが2022年にもWRCに復帰するのではないか、という噂が流れている。2022年にWRCのレギュレーションが変わり、パワートレインがハイブリッドとなり、ボディサイズの変更が可能になるため、スバルにとってWRC復帰への障害はなくなった、とさえ言われている。
はたして本当にスバルはWRCに復帰するのか? それとも儚き幻なのか? WRCジャーナリストの古賀敬介氏が現時点でわかっていることすべてをお伝えする。
文/古賀敬介
写真/ベストカー編集部 ベストカーWEB編集部
スバルのWRC参戦終了から早11年

スバルがWRCへの復帰を検討しているようだ。マニュファクチャラーズタイトルを3回、ドライバーズタイトルを3回獲得するなど、WRCを一時席捲したスバルは、2008年シーズンを最後にWRCワークス活動を終了。
その後、10年以上の月日が経過したが、活動再開の話は噂レベルでもなかなか聞こえてこなかった。
スバル、そしてモータースポーツ部門の子会社であるSTI(スバル・テクニカ・インターナショナル)の内部には、WRC復帰を望む人も少なからずいたと聞くが、企業としてのスタンス、そして現行WRカーのレギュレーションが大きな障害となり、検討するレベルにも至らなかったようだ。
しかし、流れは変わりつつある。2008年にスバルが撤退を決めた大きな理由は、成績不振、そして世界的な経済の低迷だった。
ただし、それだけではなく「ラリー=泥=田舎的」という、それまでのブランドイメージを大きく変えたかったというのもまた事実に違いない。
実際、当時のスバルはWRCからの撤退作業を進めつつ、WTCC(世界ツーリングカー選手権)への参戦を真剣に検討していた。
それがレギュレーション的に難しくなったと判断するや、ニュルブルクリンク24時間レース、スーパーGT、GT300クラスへの参戦を本格化させた。
つまり、オフロードのイメージを払拭し、都会的な、洗練されたブランドへと脱皮しようと試みたのである。
確かに、近年のスバルはより一般的なイメージのメーカーとなった。かつてはマニアックなファンのアイコンであったインプレッサも、WRXを分離し上品なコンパクトカー路線へと大きく舵を切った。
今の若いユーザーは、インプレッサ=ラリーというイメージをまったく持っていないように感じる。そういう意味では、確かにダートのイメージを消し去ることには成功したといえるだろう。
しかし、それと同時に、クルマ好きの心を激しく揺さぶるようなメーカーでなくなりつつあるのも、また事実だ。
水平対向エンジンとシンメトリカルAWDという独自の技術で、世界を相手に戦いWRCの頂点に立った、あの古き良き時代のパッションが、今のスバルには感じられない。それはクルマ作りにしても、モータースポーツ活動についてもだ。
ニュルブルクリンク24時間レースへのチャレンジは素晴らしいプロジェクトであるし、クラス優勝を遂げるなど成果を残している。
しかし、ファンが本当に見たいのは、総合優勝を争うスバル車の姿ではないだろうか?
また、スーパーGT、GT300クラスに関しても同様で、ワークスチームの看板を背負いながらも、セカンドカテゴリーでなかなか優勝できない厳しい状況が続いている。
たまに勝てれば幸せというファンはそれほど多くないはずだし、自分の周囲にも現状に満足していないファンやオーナーが多い。
2022年WRC復帰説は本当か?
そこで、改めて浮上してきたのがスバルのWRC復帰論だ。先日発表されたWRX STI EJ20のファイナルエディションには、WRブルーのボディカラーも設定され、販売台数は555台である。
あえて説明するまでもないが、WRはワールドラリー、555はかつてのスポンサーであるBATのタバコブランドであり、インプレッサ555というWRCチャンピオンマシンのアイコン的ナンバーである。
ラリーのイメージを払拭しようとしながらも、WRC時代の栄光を引用するマーケティング手法に、スバルの迷いを感じるのは自分だけだろうか?
スバル/STIの内部でも、これまで何度かWRC復帰案が上がったようだが、現行WRカーのベースに相応しいコンパクトカーがスバルのラインナップにはなく、真剣に検討されるまでに至らなかったと聞く。
一時はトヨタラクティスのOEM車である、トレジアでR5カーやWRカーを作るという案も提出されたようだが、水平対向エンジンを搭載していないこともあり、即却下となったようだ。
現在のWRカーは、ベースボディの軽さと、前面投影面積の小ささが運動性能に大きく影響するため、全車がBセグメントのコンパクトカーをベースにしている。
そのなかでもヤリスはひときわコンパクトで、最大規定サイズのなかで、その分だけワイドなフェンダーを備えることができ、それが空力面で大きなアドバンテージになっていると考えられている。
つまり、現行規定下においては、ベースボディが小さいクルマほど有利であり、そういったクルマを市販車にもたないスバルは、スタートラインにすら立つことができなかったのだ。
2022年WRCのレギュレーションが変わりスバルにとって大きな障害はなくなった!

しかし2022年、WRカーのレギュレーションは大きく変わる。パワートレインがハイブリッドになり、ボディサイズの自由度が高まるのが大きなトピックであり、その2点はスバルにとって追い風となる。
ボディは、スーパーGTでも採用されている「スケーリング」が導入され、ベース車のサイズを縮小、あるいは拡大することが可能に。
それによって、Cセグメントの現行インプレッサを、ヤリスと同じBセグメントのサイズに縮めることができるようになるのだ。
さらに、ボディストラクチャーに関しても、パイプフレームを使うことが許されるため、ベースカーの縛りはほぼなくなる。
これは、妥当なBセグメント車を持たないスバルにとって朗報であり、少なくとも技術面に関してWRC復帰の大きな障害はなくなったと思われる。
ハイブリッドシステムについては、まずは全車が共通部品を使うため、独自に開発する必要はない。また、将来的に開発自由度が上がっても、今や完全にグループ会社となったトヨタとある程度は共用できるはずだ。
唯一、スバルが絶対に譲らないだろうと思われるのは水平対向エンジンで、他車のように直列4気筒を横置き搭載する可能性は極めて低い。
ベース車はスバルXVか!?
以上のような条件を、現行のスバル車に当てはめると、「XV」がベース車として浮かび上がってくる。
今や世界的にSUVが流行しているが、今後はクロスオーバー色がより強いコンパクトカーベースのクルマが主流になるのではないかといわれている。
その点、XVはドンピシャで、ハイブリッドのイメージを高めるうえでも、WRC復帰は有効なマーケティング活動となるだろう。
他方、ベストカーが掴んだ情報によると、XVとは違う、現行のインプレッサスポーツクラスのスーパーAWDをトヨタとスバルで開発し、WRCに参戦するという話もある。
ただし、スバルのAWDは縦置きエンジン、トランスミッションを軸にしたプラットフォームが基本なので、業務資本提携しているといってもヤリスがスバルにOEM供給するわけではない。

インターネット上では、長年フォード車でWRC を戦ってきた英国のMスポーツがスバルにコンタクトをとっているという情報もあり、単なる噂ではなく、具体性を持った話として進んでいる印象を受ける。
その際は、Mスポーツとスバルの両チームで活躍したペター・ソルベルグが“名誉”代表を努め、息子のオリバー・ソルベルグがメインドライバーに、そして新井敏弘の息子である大輝もラインナップに加わるというストーリーはどうだろうか?
それほど荒唐無稽な妄想ではなく、参戦する可能性は極めて高いと思う。蒼き軍団復帰の報を楽しみに待ちたい。

豊田章男トヨタ社長がスバルのWRC復帰を望んでいる!?
文/ベストカーWEB編集部
WRCというと、現在日本メーカーで唯一、ワークス体制で参戦しているトヨタとの関係が気になるところ。2019年シーズン、トヨタは惜しくもマニュファクチャラーズランキングは逃したものの、ドライバーズランキングで1位を獲得した。
言うまでもないが、トヨタとスバルは資本提携を結んでおり、トヨタはスバル社の株式20%を持つ大株主だ。そのトヨタ相手にスバルが本気で優勝を目指して参戦するだろうか。
可能性はある、と編集部は考える。というのも、トヨタの豊田章男社長はスバルへの出資引き上げ(提携強化)時、スバルに望むこととして「よりスバルらしくあること」と語っている。
つまりスバルのWRC復帰(そしてトヨタとガチ勝負)は、ラリー大好き章男社長も望むところである可能性が高い。
かつてWRCで名を馳せた両メーカーの世界選手権での真剣勝負、見られるものならぜひまた見たい。