日産エクサは量産車でありながら型にはまらない異端児だった! クーペ&キャノピーの斬新スタイルが懐かしい!! 【愛すべき日本の珍車と珍技術】

スペシャルティカーとして高い満足感を提供する内外装の作り込み

 外観の個性とは裏腹に、車内は「快適性」と「スポーティ感」の絶妙なバランスを追求したオーソドックスな作りとなっている。

 乗員を優しく包み込むような造形を基本としながら、黒を基調としたカラーコーディネートによって、シャープで引き締まった印象を演出。造形・素材・機能のすべてにおいて、ドライバーの高揚感を高めることにもこだわり、楽しさや所有する満足感を満たす機能美に満ちた空間としてデザインされている。

 運転席まわりは、低めに設定されたドライビングポジションにフルウレタン製のスポーツバケットシートを採用。ステアリングまわりや手元スイッチの配置も機能的に整理されており、ドライバーの操作を直感的にサポートする。

 メーターパネルには白色文字照明を採用。昼夜を問わず視認性に優れるだけでなく、視覚的にも新鮮で、モダンな印象を与えている。エクサの象徴でもある「ダイアゴナルスリット」のデザインは、リヤコンビネーションランプだけでなく、車内に設けられたスピーカーグリルやペダルパッドにもあしらわれており、細部にまで統一感と遊び心が感じられる。

洗練された「クーペ」のリアスタイル。シンプルなラインは、2年後に発売されるS13シルビアの風味も感じさせる
洗練された「クーペ」のリアスタイル。シンプルなラインは、2年後に発売されるS13シルビアの風味も感じさせる

 同クラスのモデルと明らかに異なる個性を主張しているが、単なるスタイリング重視のスペシャルティカーに留まらない、本格志向の走りを追求していることも見逃せない要素だ。

 日本仕様に搭載されたパワートレインは、CA16DE型1.6L直列4気筒DOHCエンジンだ。最高出力は120psを発生し、軽量なボディと相まって軽快なドライビングフィールを実現した。キビキビとした加速フィールと常用域での優れたドライバビリティを高次元で両立し、街なかからワインディングまでドライバーの意図に忠実に応える気持のいい走りを提供する。

 サスペンションは前後ともに、構造のシンプルさと高い信頼性で定評のあるストラット式独立懸架を採用した。スプリングレートやダンパー減衰力、スタビライザー剛性などが車両特性に対して緻密にチューニングされており、単なる快適性だけでなくドライバーの操作に対する応答性や安定した接地感の確保にも注力している。

 さらにワイドトレッド化によって旋回時の横剛性とトラクション性能を向上。これにより、高速域でのレーンチェンジやワインディング路でのコーナリングにおいても、姿勢変化の抑制と優れた接地性が発揮される。

 こうしたチューニングによって操縦安定性と乗り心地という、相反する要素を高次元にバランスさせ、日常域からスポーツドライビングまでドライバーに安心感と高いドライバビリティを提供。走りの質感そのものにもこだわった本格パーソナルスポーツとしての資質を備えていることを実感させた。

 また、装備面でもエクサは時代の最先端とも言える内容を誇った。日本車としては初採用となるリアスポイラー一体型ハイマウントストップランプは、安全性とデザイン性を両立する注目のディテールとして注目された。

 さらに、マグネットキー対応の集中ドアロックシステムも搭載されている。これは、専用のマグネットキーを運転席側ドアのアウトサイドハンドルに設けられた専用マーク部にスライドさせることで、すべてのドアの施錠・解錠を一括で行えるというもの。利便性とセキュリティを高める先進装備として、当時の技術水準の高さを物語っている。

話題性の高さが功を奏して栄誉ある賞も獲得したものの……

 1986年の登場以降、ユニークな車体構成と先進的な設計思想は、国内外の自動車専門家たちから高い評価を受けることとなった。日本国内では、兄弟車にあたるパルサー/ラングレー/リベルタビラとともに、1986-1987日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したのをはじめ、1987年度グッドデザイン賞大賞にも輝き、車両特徴だけでなく造形美と機能性の融合も認められた。

 しかし華々しい評価とは裏腹に、当時の日本市場における消費者の価値観との乖離が大きく、国内での販売実績は伸び悩んだ。

 1980年代後半の日本は、電子制御技術やメカニカルガジェットがもてはやされていた。エクサは速さとか機能に特化しない、創意工夫を凝らしたスタイルからもわかる通りライフスタイル提案型のクルマだったこともあり、その個性は技術志向の強い当時の市場では主流になりえなかった。

 それだけにとどまらず、日本仕様はリアハッチの交換ができないなど、エクサ本来のセールスポイントのひとつである「モジュールカー」としての魅力が制限されていたことも、エクサの真価が伝わりづらい要因だった。

 さらに取り外したTバールーフの保管場所に困るなど、現実的な使い勝手に課題も残された。結果として、多くの日本ユーザーにとっては「面白いけど買いにくいクルマ」という位置付けになってしまい、販売面では期待を下まわる結果に終わってしまった。

革新性と個性が光る「キャノピー」。ステーションワゴンともどこか違う、オリジナリティあふれるデザイン。斜めに入ったCピラーが未来チックである
革新性と個性が光る「キャノピー」。ステーションワゴンともどこか違う、オリジナリティあふれるデザイン。斜めに入ったCピラーが未来チックである

 新しいジャンルのパーソナル スペシャルティカーを世に送り出そうとした開発陣の挑戦は商業的には成功とは言えなかった。それでも、先進性と遊び心に心を奪われたコアなファンたちは確かに存在していた。

 彼らが魅了されたのは、合理性よりも感性と自由を重んじた独自のパッケージング、そして常識にとらわれないモジュール式の車体構成。「自分らしさを楽しむための1台」という提案は、他のどのクルマにもなかった特別な輝きを放っていた。

 量産車でありながら型にはまらない“異端”の精神。それこそが、今なおエクサが名車と語り継がれる所以であり、唯一無二の存在感を支える本質なのだろう。

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