これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。
当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、唯一無二の存在感を持つクーペ&キャノピースタイルが特徴の日産エクサを取り上げる。
文/フォッケウルフ、写真/日産
一風変わったスタイルと変幻自在の装備が若者に大ウケ
1986年(昭和61年)5月にフルモデルチェンジした3代目パルサー(N13型)の派生モデルとして同年10月にデビューした「エクサ」は、パルサーとは一線を隠す独創的なフォルム、リトラクタブルヘッドライトやTバールーフといった装備によって個性を際立たせ、当時のヤングユーザーの心を捉えた。
特に注目されたのはリアハッチ部をワゴン形状とした「キャノピー」仕様の存在だ。斬新なアイデアに満ちたこの仕様は、日本国内では法規制の関係でハッチの着脱が認められなかったが、アメリカ市場向けの「Pulsar NX」ではリアハッチとキャノピーの交換が可能で、Tバールーフとの組み合わせによってユーザー自身が自由にスタイルを選択できる“変幻自在のモジュラーカー”として高く評価された。
登場時に開発陣が掲げたテーマは、「もっと自由で開放的な、そしてなにより楽しいクルマ」だった。日々の生活シーンに柔軟に対応できる高い実用性を持ちながら、ルーフを開けて風を感じるような開放感も存分に楽しめる。そんな新しい時代のライフスタイルに寄り添う、本格的パーソナル・スペシャルティカーを目指したという。
そんな思想の根底にあったのは、80年代後半という時代背景のなかで、より個性を求め自分らしさを大切にする若者たちの感性に呼応するクルマを生み出すことへの思いだ。スポーティでエッジの効いたフォルム、可変スタイルが可能なリアハッチ、開放感をもたらすTバールーフなど、それらすべてが走る楽しさと暮らしの自由を両立させることを目的とした明快な答えだった。
結果として誕生したエクサは、ただの派生クーペではなく、時代の先端を行くユーザーに向けたライフスタイル対応型パーソナルカーとして、高い完成度を誇る1台となったのである。
エクサの外観デザインは、低くワイドなプロポーションを基本としながら、ロールバーを想起させるセンターピラーによって、走行中の安定感と剛性感を視覚的に演出されている。特に伸びやかなライン構成は、クルマとしてのフォルムを美しく引き立て真のスペシャルティカーとしての完成度が追求されている。
デザイン開発は、米国におけるニッサンのデザインセンターである、NDI(ニッサン デザイン インターナショナル)との共同プロジェクトとして進められ、グローバルな視点での造形を求めた。
その成果として普通の量産車とは一線を画す、個性的かつ完成度の高いスタイルを実現。さらに、キャノピーをはじめとする外板部品には樹脂素材を積極的に採用した。これによって塗装の自由度と品質感を両立させ、複雑な形状や新しい発想のデザインにも柔軟に対応している。
最たる特徴としては「乗る人の自由な発想に応えるクルマ」をテーマに、ボディ形状そのものをユーザーが選べる「モジュールデザイン」の採用が挙げられる。
これは、英語で「分割」や「組み合わせ」を意味するモジュールの考え方をデザインに応用し、単なるボディタイプの選択にとどまらず、ユーザー自身が好みに応じてスタイルそのものを変化させられるという革新的な仕組みである。
標準のキャノピースタイル加え、Tバールーフオープン、フルオープン、キャンバスハッチ(販売店オプション)という多彩なオープンエアスタイルを実現可能としている。これらの構成により、季節や気分、ライフスタイルなどユーザーの感性に応じて変化する、爽快なオープンエアフィーリングを自在に楽しめるというわけだ。








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