エコカー減税が燃費競争を助長した
いわゆる燃費競争が激しかった時代は、2010~2015年頃だ。この背景にはエコカー減税の実施があった。
当時は2010年度燃費基準の達成度合いに応じて、購入時に納める自動車取得税と自動車重量税を、50%・75%・100%(免税)の3段階で軽減した。
減税率の格差が大きく、しかも目新しい制度であったため、「エコカー減税に該当すること」がクルマを選ぶ時の条件になった。
一種の流行で、特に軽自動車は同じパワーユニットを使った車種を豊富に用意するから、段階的に燃費数値を高めていった。
例えばスズキの場合、2011年3月にMRワゴンのJC08モード燃費が27.0km/Lになり、2012年2月にはMRワゴン・エコを追加して27.2km/Lに向上させた。
2012年9月にはワゴンRが改良して28.8km/L、2013年7月には再びワゴンRが改良して30km/L、2014年8月にはワゴンRがFZを追加して32.4km/Lという具合だ。
この間にムーヴやミライースも改良を受けて、競争しながら燃費数値を向上させ、ひとつの車種が1年間に数回、燃費数値を更新していた。
この頃にダイハツの販売店からは、次のような話が聞かれた。
「JC08モード燃費の数値がライバル車に比べて0.5km/L負けると、エコカー減税率が下がることもあり、売れ行きにも差が付く。
燃費の良いクルマは、購入時の税額と購入後のガソリン代が両方とも安くなるから、お客様も魅力を感じる。
特に軽自動車は、ボディサイズとエンジン排気量は全車共通で、背の高い車種は外観や車内の広さも似ている。
お客様にとって違いが分かりにくく、燃費数値、エコカー減税による税金の安さ、メーカーが軽自動車の販売1位か否か、といったことが重要になる」とコメントした。
ところがこの後、ユーザーから「カタログやウェブサイトに記載される燃費数値と、実際の燃費が全然違う」という批判が寄せられるようになる。
最近はブログやツィッターもあるから、カタログ数値と実走行の燃費に大きな隔たりがあると、その情報が簡単に広がってしまう。
その一方で2013年以降になると、ユーザーの関心は、燃費数値から衝突被害軽減ブレーキに移っていく。販売店からは「ぶつからないクルマはどれですか? という質問を受けるようになった」という声も聞かれた。
つまり燃費数値にこだわって選んだものの、実用燃費は大きく異なり、各車種とも燃費競争を重ねると数値の差も縮まってくる(当然だが燃費数値を無限に向上することはできない)。
新たに登場した衝突被害軽減ブレーキは、初期段階では装着車と非装着車に分けられ、歩行者の検知性能にも差が生じた。
こういった事情から、ユーザーの関心は衝突被害軽減ブレーキに移り、燃費数値の0.5km/Lにこだわるユーザーは減っていった。
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