シビックタイプRはどんな進化を遂げたのか?
ここで改めて、FF最速の座を奪還すべく、さらなる進化を遂げたシビックタイプRについて、執筆時点で判明している諸々のことをおさらいしたい。
開発責任者の柿沼秀樹氏は、「ホンダらしさとはレーシングスピリット」であり、シビックタイプRについても「操縦性を徹底的に磨き上げる」としている。そのために足回り、ブレーキ、冷却系などに改良を施している。
足回りについては、コーナリング性能のさらなる向上のため、サスペンションに手を加えるととともに、タイヤおよびホイールを専用品とした。
具体的に述べると、フロントはロアボールジョイントのフリクション低減による追従性の向上、コンプライアンスブッシュの高減衰化により前後剛性を10%高めるとともに、タイヤ支持剛性を高めて接地感とダイレクト感の向上を図っている。
一方、リアは横力トーイン量増加による接地性や追従性の向上を図ったほか、ロアアームBブッシュの硬度を上げて横剛性を8%高めている。
ブレーキは、ディスクローターが1ピースタイプから2ピースタイプへと変更される。
2ピースというのはレースの世界では一般的なもので、ベルハウジングとローターを別々のパーツにすることで、ローターの熱倒れや歪み、ベルハウジングへの熱伝導などを抑えることができるほか、バネ下重量を軽減できるなど数々のメリットがある。
ただし、フローティング構造によりわずかに隙間が生じるため、カタカタと音が出る。
この音を避けるため市販車に採用されることはあまりないのだが、開発陣は性能を優先したということだろう。
多方面で高く評価されている320ps/40.8kgmの2L、VTECターボエンジンについては、すでに必要十分な性能に達しているとの判断から手は加えられていない。
ただし、その優れたパフォーマンスをより安定して最大限に引き出せるよう、冷却性能が引き上げられる。
具体的には、フロントグリル開口面積 を13%拡大したほか、ラジエターフィンピッチを従来の3.0mmから2.5mmへと細かくすることで、高負荷が連続する走行時でも冷却水の温度を最大で約10℃も低くできるというから、その効果は小さくない。
とりわけニュルブルクリンクのように距離が長く全開区間の連なるコースでタイムアップを図る上で有効であることはいうまでもない。
前出の開口面積の拡大により、フロントグリルがやや大ぶりになっているのは新旧での見た目上の数少ない差異のひとつ。
前面から走行風をより多く取り入れると空力面では大なり小なり悪化するのは否めないところ、その影響を最小化するためにフロントアンダースポイラーの形状を工夫してドラッグを増加させることなくダウンフォースの低下を抑えている。
また、より高い整流効果を得られるよう、サイドにリブを追加して高負荷時の倒れ込みを抑制している。
コクピットでは、ホンダ初のフルアルカンターラ巻きステアリングホイールの採用のほか、シフトノブを球型からティアドロップ型に変更された。
ステアリングについては、現行型の縦方向38mm、厚み側28mmという楕円形状のグリップの太さや形状を理想的と考えており、革厚を変えることのないよう、コストがかかることを承知で、アルカンターラ表皮の下に二枚重ねて裏地を入れる手法をとったという。
シフトノブは、従来の球型は握った感触はよいものの、ギアポジションが判別しにくいという欠点があるとの判断から、ティアドロップ型とした。アルミニウムとスチールを素材とし、重量は230gとなる。
内部にカウンターウエイトを配して重量と重心点を最適化したことで、シフトフィールはさらに向上しているという。運転する際に常に触れる部分の変更ゆえ、操作感も少なからず変わることに違いない。
このようにきめ細かい改良が各部に施されるわけだが、現在は458万3700円の車両価格がどのくらい変わるのか、もちろんそこも大いに気になるところだが、やはりシビックタイプRといえば最大の関心事はラップタイムだ。
近いうちに鈴鹿の結果は明らかになるとして、ニュルでも宿敵メガーヌR.S.に一矢報いることができるのか?
コメント
コメントの使い方